視野の変化と集団形成
視覚については、過去「原猿→真猿、視覚機能の進化」などでも記載されていますが、今回は視野の変化と集団性について扱ってみたいと思います。
初期霊長類の体重はわずか数10グラム程度で、木々の細い枝先にしがみついていました。
手は小さく、物を掴むのに適しており、眼は大きく、前方を向いており、網膜の中心部には光受容体がびっちりと並んでいます。
このような前を向いた眼と集団化にはどのような関係があるのでしょうか?
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霊長類の脳において視覚野は視覚処理の中心部で、極度に肥大しています。
初期の哺乳類にはなかった新たな視覚野が、霊長類の皮質には多数あります。
もうひとつ、初期霊長類になって初めて出現した特殊な役割をもった皮質があります。それは、筋肉の動きを視覚で誘導するための皮質野で、視覚との連動が可能になっています。こうした視覚系-運動協調系での一連の機能的な変化のおかげで、霊長類は他の哺乳類のグループとは明らかに違う特徴を持つようになりました。
【前方に向いた眼の長所と短所】
前方を向いた眼と脳での視覚野の拡大・増加は霊長類の際立った特徴で、これが視力の良さをもたらし、目と手を協調して動かせる霊長類特有の能力とも関係しています。
捕食性を向上させる、あるいは細い枝の間を動き回る。つまり、見ている物の像の質の向上と立体的な奥行きの感知のためには、前方を向いて眼が適していたのです。
前方を向いた眼には長所があるが、霊長類はそれに対してリスクも負うことになります。
それは、大抵の哺乳類は後方まで広がる視野で物を見ているが、霊長類はそれが狭まることから、背後から近づいてくる外敵に対しては限界が生じます。
【外敵闘争を克服するための集団化?】
霊長類は外敵の察知に別の手段を発達させてきました。
・聴覚の発達
ギャラゴなどの一部の原猿類は、極めて正確に耳をある方向に向けることができ、外敵が接近する音の出所を察知する鋭敏な能力を備えている。 |
・集団形成の促進
初期哺乳類は、現存する大半の原始的な哺乳類のように日常は単独で生活していたと思われるが、後方まで広がる視野を失ったことで、群(集団)の形成が大いに促進することになる。 視野の狭さという弱点を、集団を組むことで複数の眼によって克服しようとしたのである。 このように、社会協力・集団性のための神経系が進化し、外敵の存在を知らせるために声を出すようになったと考えられている。(参考;「聴覚は同類を対象に進化した」) |
そして、表情の豊かさ(参考;「本能を超えた新しい機能(共感機能)の獲得②」)へと繋がっていきます。
霊長類において、生殖期以外での集団化が促進された背景には、前を向いた眼の弱点である外敵闘争への適応があったと思われます。
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