2007-04-08

チンパンジーの父系転換

自然の摂理に立脚した社会原理を確立するためには、生物進化史の解明が必要になる~現代問題の解決の礎となるべく様々なテーマに挑戦する「biological-journal」。
さて最近話題の現代問題といえば「子育て不安にどうこたえるか?」今や「子育てパパ本の流行」から「少子化対策を目玉にする自治体行政」まで、もはや子育て問題は他人事なんていってられない切迫感を持って私たちに迫ってきつつあります。しかし、目先の子育てパパ本に流されていたのでは道を誤るだけ、まずは自然の摂理を学ぶこと・・・ということで、今日はサル社会の集団構造(特に類人猿における父系転換)にアプローチ してみます。

 にほんブログ村 科学ブログへ


サル社会は、全般的にオス同士の性闘争が激しく、その勝者のみが(縄張り防衛力と引き換えに)雌を手に入れることのできる首雄集中婚を骨格としています。これを集団移籍という視点から見ると、オスは生まれた集団を飛び出し、雌は縄張りに残留するという母系性社会の構造をなしています。そして原猿から真猿へと進化するにつれて、複数のオスによる闘争集団化が図られていきますが、その場合でも母系社会の構造はかわりません。ニホンザルはこの母系サルの典型例です。しかし、更に進化した類人猿(ゴリラ・チンパンジー)は父系社会へと移行しています。人類は、母系と父系の双方の両形態を持っていますが、果たして、子育て不安を突破する上ではどちらが有利なのでしょうか?
それを考える上で、まずはチンパンジー社会が父系転換した理由を考えてみましょう。
>チンパンジーの社会は複数のオスと複数のメスからなる複雄複雌集団で・・メスは繁殖可能な年齢に達すると他の集団へ移籍する。このようにチンパンジーが父系社会であるという特徴は、社会構造という観点で、ニホンザルのようなオスが移出する母系社会との大きな相違がある。
>チンパンジーは単位集団といわれるグループを形成している。この集団はニホンザルの群れのようにきっちりと集まったものではない。そのメンバーが一度に全員集まるということはなく、食べ物の量などによって、サブグループといわれる小集団に別れて離合集散している
>離合集散といっても、食物の種類や分布の季節的変化によって大きく様変わりする。一般的にいって、食物が豊富な季節はメールクラスターを核とするパーティに、メスや子の多くが加わり、単位集団の6割から9割を含む大集団で遊動することがある。・・その反面、食物が少ない季節になると、無数の小さなパーティに別れてしまい、互いに声を出しあうこともしなくなる。

以上、チンパンジーの社会http://jinrui.zool.kyoto-u.ac.jp/ChimpHome/shakai.html より引用
注目点は、食べ物の豊富さによって階層化された集団が離合集散を繰り返している点です。このことから、もともとは母系集団であった原チンパンジーも、食の縄張りを拡大するために、男だけの集団による遠征部隊が構築され、次第にその遠征部隊に雌も同伴するようになって、次第に雌移籍が常態化していったのではないか、と考えられるのです。
この遠征部隊説を裏付けるものとして、チンパンジーのメスとの遠征の話があります。
>発情中のメスを連れてオスが遠出する行動は、チンパンジー社会にはよくあるという。ちょっとアバンチュールな香り漂う「恋の逃避行」。・・オスは独りで、あるいは他のオスと一緒でも遠出するという。森に食べ物が少ない時期、少し離れた森や畑に「出稼ぎ」に行くのだ。もちろん、それだけ危険は多い。アフリカの他の地域では、オスの方が肉食が多いというが、これも危険と裏腹の「報酬」に賭ける行動だろう。遠出に同行したメスには、力の強いオスに守られて「分け前」にあずかる特典もある。
「進化の隣人」と暮らすギニア・ボッソウ村からの報告」よりhttp://www.maing.co.jp/maimai/chimp/chimp_030327.html 
チンパンジーは同じ真猿のコロブスを集団で狩するというほど、激しい種間闘争を繰り広げた霊長類最強の種。その制覇力の源泉が、性闘争であり、縄張り闘争であったことは間違いありません。また最近の考古学の成果からは、類人猿が進化していった時代は、乾燥化が進む時代であったことは確かで、原チンパンジーも枝渡りの術を武器にかなり広範囲に遠征を行っていたであろうことも容易に想像できます。
この「オスたちだけの遠征組織が先にあって、そこにメスが合流していった説」は、人類の牧畜集団(母系)から遊牧集団(父系)が登場していった流れhttp://www.jinruisi.net/bbs/bbs.php?i=200&c=400&m=136597 とも重なる部分があり、妥当性が高いように思われます。
さて、そうするとサル・人類を貫通して、父系社会とは生存の縄張りが縮小していく中で、他方、人口は増やしたいという時のひとつの戦略であるということがいえるのではないでしょうか。
翻って、子育て不安の現在とは、生存の縄張りという点では豊かさが実現してしまった時代であり、そして争いよりもむしろ争いのない縄張りの共存関係こそが模索されている時代です。これは父系社会が作られた状況とはまったく逆であるといえます。むしろ男の性闘争→縄張り闘争を活力源とする父系社会は縄張り緊張を拡大させるだけですから時代に逆行するベクトルともいえます。世間では石原慎太郎のような勘違いした父系主義者が人気を博していますが、今こそ自然の摂理に社会原理を学ぶ必要性が高いことを改めて強調してこの稿を終えたいと思います。

List    投稿者 yama3 | 2007-04-08 | Posted in 4)サルから人類へ…No Comments » 

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.seibutsushi.net/blog/2007/04/190.html/trackback


Comment



Comment