2006-12-13

意識は脳のなかの水から生まれる!

今日は脳科学の先端理論の紹介です。脳は神経細胞(ニューロン)とそれを覆うグリアからできているのは皆さんご存知だと思います。そしてニューロンネットワークの接合部であるシナプスにはイオンチャンネルがあって、そこで情報がやり取りされていることもよく知られています。ではグリアは一体どんな働きをしているのでしょうか?実は、グリアは精密機械にたとえることができるシナプスを保護する役割を持つとともに、水分子の調整機能があって、それによって脳の活性・非活性の左右しているのです!
「水は生命の源」とよく言われますが、「水は脳=意識の源」でもあるのだとするこの説・・極めて興味深いと思いませんか?

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ニューロンネットワーク=脳がこころ=意識をつくり、それは局在的な偏りを持っているというのが一般的な定説になっています。しかし、ある脳の局所障害によりある機能失っても、同等の機能を違った部位を使いながら再生する臨床事例が示しているように、機能局在性は決定的なものではないのです。つまり脳は環境を受け止めて自己形成していく複雑系のひとつ(るいネット的な言い方をすれば外圧を受けて適応的に内圧をつくりだしていく外圧適応態)なのです。では脳はどのようにして外圧適応的に変化=自己形成するのか。この問題に挑戦しているのが、中田力教授(新潟大学統合脳機能研究センター)なのです。
中田教授は脳の自己形成のヒントを脳の中の水の働きに求めます。そのきっかけはライナス・ポーリングが提起した水性相理論との出会い。全身麻酔薬(その代表はキセノンだがアルコールも同じ特性をもつ)は脳の覚醒を抑制する機能を持つが、ある特定の受容体に結びついて効果を表す訳ではありません。にもかかわらずどうして覚醒を抑制する機能を持つのか?ポーリングによると全身麻酔薬は水のクラスター形成を安定化させ、小さな結晶水和物をつくりだす。つまり水分子と水分子がお互いにくっつきやすい状態を作り出す。このポーリングの麻酔効果の分析にヒントを得た中田教授は、脳の中の水分子の振る舞いが脳内の熱伝達を通して脳の活性/不活性→自己形成に関わっているのではないか?と考えたのです。
そしてグリアに水分子の含有量を調整する機能があり、それが脳の活性度と関連しているのではないか?と考え、ついにグリアの中にある「アセンブリー」と呼ばれるタンパク構造がこの水分子のチャンネルであることを突き止めたのである。
このようにして、精密な情報処理装置であるニューロンネットワークと、そのまわりにあって水分子を媒介に熱伝達システムとして働くグリアからなる自己形成する脳という仮設=脳の渦理論が誕生したのです。
この理論の注目点は、熱伝達を媒介する水分子という自然界を貫く原理・仕組みが脳という最先端のシステムにおいても極めて重要な役割を果たしているという発見にあります。
「人間は水中ではなく大気中で生活している。したがって、どうしても、大気中での環境を基準としてすべてを考えてしまう。しかし、生命を支えるさまざまな現象は、水中で起こっている。生命現象の基本となる法則は、水が存在する環境空間での法則に従うのである。水は、本当に生命の源なのである。」と語られる中田教授は徹底して自然の摂理に従って、意識というものにアプローチしようとしておられる方です。中田教授の本からは脳科学がこれまで陥っていたところの人間至上主義的なおごりへの反省すら感じられます。自然の摂理からアプローチする「脳の渦理論」に大きな可能性を感じます。
※このエントリーは中田力教授の書かれた「脳のなかの水分子」紀伊国屋書店2006年8月28日刊 をもとに書きました。是非、一読されたし!

List    投稿者 yama3 | 2006-12-13 | Posted in ④脳と適応2 Comments » 

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コメント2件

 kumana | 2007.01.09 2:09

とても興味深い考察だと思いました。
種や集団全体に対する外圧が、免疫機構を介することで、各個体に同様の生物学的変化をもたらすというイメージが描けます。
免疫機構は、生物の進化にも深く関わっているのではないかと思いました。

 メディカルテクニカ | 2007.01.11 2:34

勉強の為お寄りしました。

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