2020-07-04

日本の建材資源と森林文化の持続可能性 ~民族植物学の観点から~

人類は、滅亡の危機意識を本能的に感じ、生き残りをかけ、自然の摂理に則った「日本文明(木の文明)→地域循環共生社会」に向かい始めたのではないかリンク

木材資源の活用について各機関により研究が進められています。

今回は、植物と人間社会の文化の相互関係に着目する「民族植物学」の観点から、木材資源の枯渇のしやすさ(建材資源の利用可能性の脆弱度)についての解明 を進めている事例を紹介します。

琉球大学のプレスリリース (2020年07月03日) 最新の研究成果より。

民族植物学の情報を活用して生物多様性の恩恵を評価:日本の建材資源と森林文化の持続可能性

<発表概要>

背景と研究の視点

生物多様性を保全することの意義を、一般の人たちに理解してもらいたいとき、生物多様性の経済的な価値、つまり、自然資本としての価値を根拠にすることがあります。「様々な生物は資源を供給してくれるから、生物多様性を保全することは人間社会の持続可能性にも貢献する」という説明です(図1)。社会経済的な観点から、科学的データに基づいて「生物多様性の価値」を評価することは、生物多様性保全の重要性を適切に認知してもらうために、とても重要です。このような観点から、本研究チームは、日本の森林の多様性がもたらす恩恵(=生態系サービス)を定量することを着想しました。

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図1 自然資本としての生物多様性の価値

日本は国土の約70%を森林が占める森の国で、北から南にかけての気候の違い、地形の複雑さに対応して、様々な樹木が生育し、北方の針葉樹林や温帯落葉樹林から亜熱帯の常緑樹林まで、多様な植生が分布しています(図2)。そして、“適材適所”という言葉に表されるように、様々な森林で、それぞれの樹木種に見合った用途を発達させ、地域固有の森林文化を育んできました。一方で、森林伐採による木材資源の過度の利用は、森林生態系の劣化を引き起こす脅威になっています。したがって、生物多様性条約やSDGs(持続可能な開発目標)達成の観点からも、生物多様性の保全利用を適切に計画することが、国際的にも急務の課題です。

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図2 わが国に見られる様々なタイプの森林(撮影:久保田研究室)

そこで本研究では、植物と人間社会の文化の相互関係に着目する「民族植物学」の観点から、[裕樹3] 植物の用途情報をデータ化して、日本における有用植物の分布、特に建築材として利用される木材資源の分布に焦点を当てて、生態学的な分析を行いました。すなわち、民族植物学と生態学を統合した学際的研究によって有用樹木の資源的価値を定量し、木材資源の枯渇のしやすさ(建材資源の利用可能性の脆弱度)を解明しようとしました。

内容

日本の森林資源の利用様式を地域ごとに評価するために、民族植物学的な情報、葉と材に関する機能特性情報(植物種の形態的、化学的な性質を表す情報)、植物の地理分布情報を整備しました。民族植物学的情報は、人間が自然界で利用できる植物種についての知識の集大成です。本研究では、日本に分布している樹木1012種の用途(建材、木工品、薬用、食用など)を文献調査し、データベースとして整備しました。

植物の葉や材の機能特性には、その植物の生存戦略や環境耐性が反映されており、生態学的にとても重要な情報です。同時に、それらは人間の資源利用にも関係しています。例えば、樹木の木材の固さや、樹木の大きさ(樹高)は、建材としての有用度合いを左右します。また、葉の窒素濃度や葉の薄さは、樹木の生長速度に関係しているので、建材資源を持続的に供給するための再生産速度の指標になります。

そして、樹木種ごとの機能特性値と民族植物学情報(=どの種が人間にとって利用可能か)を組み合わせることで、図3のように、有用樹木種の機能特性値の広がり(領域)の面積、領域の重心、領域内での種の分布(有用種の充足度合い)を把握できます。

~中略~

図4は、有用樹木種の機能的多様性を、10㎞x10㎞グリッドの解像度で地図化した結果です。建材として利用される樹木種の機能的多様性の全国分布を表しており、 “人間が利用する木材資源のニッチ”が地域によって大きく異なる、ということが分かります。

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図4:木材有用種の機能的多様性(材密度と最大樹高の豊富さ)の地図。

近畿・東海地方などの本州中央部の森林は、木材有用種の機能的多様性が豊かなことがわかる。

~中略~

有用樹木種の機能的多様性(建材利用ニッチ)の劣化の進み方には、地理的な勾配、つまり高緯度と低緯度の地域で違いがあることが分かりました(図5)。どの地域でも、種の損失に伴って、葉の窒素濃度や比葉面積の平均値は増加するという、共通した傾向も見られました。これは、成長速度の速い種の相対優占度が高くなり、建材資源の再生産性の高い森林へ推移していることを示しています。

また、北方の高緯度地域では、種損失が軽微でも、建材の機能的な豊富さや多様化度の劣化が顕著でした。これは、高緯度地域の建材種は、いったん伐採されてしまうと、その代わりになる樹木種が少ないことを示しています。このことは、北方の森林は、有用樹木種を伐採してしまうと森林の資源価値が急速に劣化することを意味し、供給可能な建材の質と森林資源の利用の間に、強いトレードオフ関係があることが示唆されます。

一方、南方の低緯度地域では、種損失割合が小さい時には、有用樹木種の機能的多様性(建材利用ニッチ)の変化は相対的に小さくなっています。南方の森林では樹木の建材としての質が種間でお互いに類似していて、代用できる樹木種が比較的豊富なため、伐採によって種が消失しても機能的多様性の劣化が顕在化しにくいことを示しています。これは、生態学的には「生物多様性の保険効果」と呼ばれています。

しかし、種の損失する割合がとても高くなると、有用樹木種の機能的な豊富さはやがて劣化します。さらに、種損失に伴い、機能特性の多様化度(建材の質としての種間の違い)が増加しています。これは、伐採によって種が損失するにつれて、建材に代用できる樹木種が枯渇して、見かけ上、種間の機能特性値の違いが強調されたからです(色々な建材が利用できるようになった、という意味ではありません)。

これらのことは、種の豊富な南方の森林においても、生物多様性の保険効果が徐々に及ばなくなることを示唆しています。このような、森林伐採に関係した有用樹木種の機能的多様性(建材利用ニッチ)の脆弱性の地理的な傾向は、気候要因でも説明されました。
以上の結果から、気候に関係した樹木種多様性の分布に関係して、日本の建材資源の持続的な利用可能性は地域によって異なること、つまり、北方の針葉樹林や温帯落葉樹林では建材資源が枯渇しやすく、資源利用の脆弱度が高いこと、南方の森林においても、生物多様性の保険効果には限界があり、過度の森林伐採が建材資源の脆弱度を高める可能性があること、が明らかになりました。

歴史的に見た場合、日本の都(首都)は近畿や関東に位置し、膨大な木材資源を利用して社寺・仏閣・城郭・住宅などを造営してきました(図6)。この背景には、首都周辺から辺境地域にかけて様々な森林で、豊富で多様な建材資源を調達できたことがあります。本研究の分析から、多様な建材を確保する上で、建材資源が枯渇しやすい地域(建材樹木種の機能的多様性の脆弱度)を地図上に可視化できました。これにより、それぞれの森林の脆弱性に基づいて建材資源を賢く利用する方法を考えることができます。日本において将来的に、建材資源を持続的に利用する場合、木材資源の脆弱度地図を元にして、地域ごとの森林管理計画を検討できるでしょう。

~以下略~

  投稿者 seibutusi | 2020-07-04 | Posted in ⑧科学ニュースよりNo Comments » 

ヒトの腸内環境と土壌は、根本的につながっている

生物史を通して、植物(森林)は自然共生や自然循環社会(大気・動植物・土壌・微生物・水)の中心的存在である事が解かります。

此処で、地球の大気の組成:窒素;78% 酸素;21% アルゴン;1% 二酸化炭素;0.03%となっているが、

植物の光合成は、統合作用「二酸化炭素(大気)+光(大気)+水(土壌から)→ 炭水化物(木の組織)+酸素(大気へ)」とするのであるが、単純に見ても二酸化炭素不足になる。

とすると二酸化炭素は何処から取り入れるのか?

土壌中の微生物の活動による? 「光合成の逆反応の発散作用「土壌にある炭水化物や有機物を二酸化炭素(又は酸素他)+水+エネルギーに分解する。」この時、微生物が排出した二酸化炭素他が大気中に放出されたと推察するが・・

『佐野千遥氏によると「体内の有機物質の炭素原子を基に別の炭素原子と酸素原子を創出し二酸化炭素を作る→土中から吸い上げた水と自ら創出した二酸化炭素を光合成を行い、余った酸素を放出」との仮説があります』

要するに、木の根は微生物へ炭水化物を共給し、微生物は分解した栄養素が溶け込んだ水(保水された雨水や化学反応でできた水)を木の根に供給する共有関係があり、植物と微生物は小さなネットワークが築かれていると思える。

今回は、ヒトの体からみた

微生物を介して、「ヒトの腸内環境と土壌は、根本的につながっている」記事を紹介します。

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(前略)

土と内臓』という邦題が示すように、一読して伝わって来るのは、私たちヒトのからだのうちにある腸内環境と、そとの土壌の環境は、根本的につながっているということです。

そして腸とは植物にとっての根っこであり、その根っこに栄養を送るために、微生物の存在は欠かせないのです。

ヒトマイクロバイオームが私たちの免疫機能に欠かせないように、植物の根の内部やまわりに棲む微生物は、植物の防御機構のために欠かせないものだ。人間は植物と同じ生物学的防御戦略に組み込まれている。いずれも特殊化した領域――植物なら根圏、人間なら大腸――に、微生物を呼びよせる栄養を用意する。これらの部位は、微生物が植物や人間と栄養を交感し協力関係を結ぶ市場として機能する。

(中略)

土壌を育むように腸内環境を育てることが、健康維持のためには必要。

 

しかし、本書『土と内臓』を読んで考えさせられるのは、現代の農業においては、微生物の存在が植物の成長のために必要不可欠であるにも関わらず、微生物の働きに気づかず、農薬や化学肥料に頼ることで微生物を追い払うことが当たり前になっている点です。

 

土壌の炭素の量は微生物の数に大きく左右される。植物は炭素を、炭水化物の豊富な滲出液の形で根圏に流し込み、ほとんど尽きることのない食欲を持つ有益微生物に餌を与える。微生物にとっては、まるで誰かが作物を育てて収穫し料理を作って運ぶところまで、すっかりお膳立てをしてくれるようなものだ。それは植物には、いともたやすいことだ。何しろ大気から直接炭素を取り入れて、光合成で炭水化物を一から作れるのだから。地下経済のために紙幣を印刷するようなものだ。

(デイビッド・モンゴメリー+アン・ビクレー『土と内臓 微生物がつくる世界』 片岡夏実 訳 p120)

 

土壌を生物学的システムと考えれば、少数の植物病原菌に「対処」する農芸科学的手法が、現代農業を悩ませている問題の根っこにある理由を把握しやすい。広範囲に効く殺生物剤がよいものも悪いものも一緒に殺してしまうと、真っ先に復活するのは悪者や雑草のようにはびこる種だ。この根本的な欠陥によって、農薬を基盤とした農業は中毒性をもたされている――使えば使うほど必要になるのだ。販売店や中間業者にとって、これは商売としてうまみのあるものだが、客にとっては長い目で見て逆効果だ。そして農業の場合、私たち全員に影響が及ぶのだ。

(『土と内臓 微生物がつくる世界』 p132)

 

平行宇宙のように腸内環境と土壌を重ね合わせてみる見方がこれから大切。

 

ちなみに『土と内臓 微生物がつくる世界』は、デイビッド・モンゴメリー氏の妻であるアン・ビクレー氏の庭造りのエピソードから始まるのですが、最終章の「土壌の健康と人間の健康――おわりにかえて」では、以下のように書かれているのは印象的です。

 

微生物が土壌の健康と人間の健康の両方に果たす、きわめて重要な役割の類似が明らかになった今、私たちの世界を見る目は変わらずにはいられない。足元にある隠された自然の半分を見ることは依然できないが、それが日々庭で目にする生命と美の根本であることを、私たちは知った。そして私たち一人ひとりは数十兆の仲間たちの一員であることを知り、自分自身への見方も変わっている。

(デイビッド・モンゴメリー+アン・ビクレー『土と内臓 微生物がつくる世界』 片岡夏実 訳 p313)

 

堆肥や木材チップやマルチが土壌生物を育てるのと同じように、食べ物は腸の共生生物を育てる。生きている土は地上に影響を及ぼして、庭や畑の健康と回復力を支えるが、人間の内なる土はもう一つの庭、すなわち私たちの身体を支える。有益な微生物を育てれば、それは病原性の微生物を避け、免疫系が自分に牙をむくことなく正しくはたらくようにしてくれる。

(同 p315)

 

ところで近年、100種類100兆個以上の微生物の集まりは、お花畑になぞらえて「腸内フローラ」と呼ばれ、ダイエットや健康維持だけではなく、生活習慣病の予防や、大腸がん、アレルギー、アトピー、うつ、自己免疫疾患などの病気の改善のために脚光を浴びるようになりましたが、私たちの体内の腸を健康にし、様々な現代病を本当の意味で防いでいくためには、平行宇宙のように、腸内環境と土壌を重ね合わせてみるという見方が、これから必要になってくるのかもしれません。

 

人間とは古いつき合いの微生物と協力するということは、長期的な思考によって短期的な行動を左右するということだ――これは理屈では簡単だが、実行は相当厄介なことがある。信念を手放すのは難しい。それが親、広告代理店、社会全体によって強化されたものである場合は特にそうだ。小さいころから私たちは、泥の中で遊んではいけないとか、五秒ルールを守りなさいとか言われている。ほとんど何を買いに行っても、細菌論がわれわれの世界にすっかり浸透していることがすぐにわかる。私たちは、手や身体を抗菌製品で覆い、世界をありとあらゆる消毒剤で清潔にすることを勧められる。抗菌剤はプラスチック製品、靴の裏地、衣類、おもちゃ、テレビのリモコン、キーボード、車のハンドル、何にでも練り込まれている。合理的な衛生管理までやめてしまえというつもりはない。何といってもセンメルワイス医師が大昔に、手洗いの正しさを証明しているのだから。

(デイビッド・モンゴメリー+アン・ビクレー『土と内臓 微生物がつくる世界』 片岡夏実 訳 p319)

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  投稿者 seibutusi | 2020-07-03 | Posted in ⑧科学ニュースよりNo Comments »