2019-02-01

「何を見ても何かを思い出す」 – サルの脳活動からわかった記憶をささえる柔軟な神経回路

 歳を取ると覚えていた筈の記憶を思いだせなくなります。例えば会社の同僚の名前など。老化と言えばそれまでですが、やはり「もの忘れ≒記憶のメカニズム」を知りたいと思っていました。ちょうど「ものをみて思い出す記憶メカニズム」を研究した報告書が有りましたので転載します。

仮設モデル1:ものを見ている際も、ものを思い出す際も同じ神経回路(同じ部位)を同じニューロン群から情報を受け取り、また同じニューロン群に情報を送っている

(知覚回路≒記憶回路となっており記憶回路は常に塗り重ねていく。)

仮設モデル2:ものを見ている際と、ものを思い出す際では、別の神経回路を構成しており、別々のニューロン群に情報を送っている

(知覚回路は大脳の表面にあり、記憶回路は少し深い位置にあり、反復して確認している)

どちらでしょうか?モデル2の方が進化しているように思いますが・・・

 

「何を見ても何かを思い出す」サルの脳活動からわかった記憶をささえる柔軟な神経回路

竹田真己 2018年12月17日「何を見ても何かを思い出す」 – サルの脳活動からわかった記憶をささえる柔軟な神経回路

https://academist-cf.com/journal/?p=9255

「ものを見て、ものを思い出す」

私たちは、目にしたものから関連した他のものを思い出すことができます。「小さかったころの写真を見て、当時のことを思い出す」といった経験は多くの人にあるでしょう。こうした「ものを見て、ものを思い出す」といった2つの認知プロセスには、大脳の側頭葉とよばれる領域の神経細胞(ニューロン)が関与していると考えられています。

これまでの研究により、側頭葉ニューロンは記憶の記銘(覚える)や想起(思い出す)の際に強く活動することが知られています。しかし、これらの側頭葉ニューロン群が、「ものを見た」知覚情報から記憶を想起する際にどのように協調して働くのか、その背景にある神経回路や動作原理はほとんどわかっていませんでした。

そこで本研究では、それらの記憶メカニズムを明らかにすることを目的に、記憶課題を学習したサルを用いて、「ものを見て、ものを思い出す」(cued recallとよばれます)際の側頭葉神経回路のはたらきについて調べました。

[脳のはたらきに関する仮説]

神経回路のはたらきを調べる際に、私たちは複数の脳内モデル(仮説)を立てました。

ひとつ目のモデルは、ある側頭葉ニューロンは、ものを見ている際も、ものを思い出す際も同じ神経回路に組み込まれていて、cued recallの2つの認知プロセスとも同じニューロン群から情報を受け取り、また同じニューロン群に情報を送っているというモデルです。こうしたニューロンが複数存在することで、さまざまなものを見て、さまざまなものを思い出す私たちのこころのはたらきが実現していると考えました。

もうひとつのモデルは、ある側頭葉ニューロンは、ものを見ている際と、ものを思い出す際では、別の神経回路を構成しており、cued recallの2つの認知プロセスでは、別々のニューロン群に情報を送っているというモデルです。

これらのモデルを検証することは、私たちが日常で無意識に行っているcued recallの脳内処理過程を解明するために必須だと考えました。特に、後者のモデルが正しいとすると、情報を送るニューロン群は皮質層単位に異なるのではないかと考えました。皮質層とは、解剖学的に決定される脳の構造であり、各皮質層には異なる情報処理過程を担うニューロン群が存在することが知られています。

Cued recall情報処理における脳内情報処理モデル
(左)Cued recallの2つの認知プロセスで皮質層がスイッチしないモデル
(右)Cued recallの2つの認知プロセスで皮質層がスイッチするモデル

神経回路は皮質層レベルで柔軟に切り替わる

解析の結果、36野ニューロンの神経活動の一部は、図形を見たときにはTE野の浅層とよばれる皮質層と協調的に働くことがわかりました。一方、対となる図形を思い出す際にはTE野の浅層との協調的な活動は消失し、かわりにTE野の深層とよばれる別の皮質層と協調的に働くことがわかりました。つまり、ものを見たときはTE野の浅層、思い出す際にはTE野の深層に神経回路を切り替えることを発見しました。

図形を見ているときと図形を思い出しているときで、協調的な神経活動を示す皮質層が切り替わる一例。この36野ニューロンは、サルが図形を見ている際には、TE野の浅層と協調的な活動(上段の矢印)を示した。ところが、対の図形を思い出している際には、TE野浅層との協調的な活動は消え、替わってTE野深層との協調的な活動(下段の矢印)が現れた。

また、こうした性質を示す36野ニューロンの活動は、想起する図形そのものを表象していることがわかりました。

さらに、これらの領野間を伝達する信号は、図形の知覚時、想起時ともにTE野の皮質浅層のニューロン活動に影響を与えていることがわかりました。サルが正しく対の図形を思い出したときと思い出すのに失敗したときのこの信号カスケードを比較したところ、この神経回路の切り替えがうまくいかないとサルは正しく図形を思い出すことができないことも明らかとなりました。

本研究で明らかになった皮質層レベルの記憶神経回路の動作
作図形知覚時には、36野はTE野浅層と協調的な活動を示し、図形想起時には、TE深層と協調的な活動を示し、さらに浅層のニューロン活動に影響を与える。この信号の経路の切り替えが不十分なときには、サルは正しく図形を想起できないことが明らかとなった。

今回の研究では、私たち人間を含む霊長類が、「ものを見て、ものを思い出す」際に、神経回路が大脳の皮質層レベルで柔軟に働きを切り替えている記憶メカニズムを発見しました。

このメカニズムの解明は、記憶の想起に関わる大脳ネットワークの動作原理がより理解されるだけではなく、記憶障害時の側頭葉の神経回路の働きを皮質層レベルで見ることで、脳の活動をもとにしたより精度の高い治療にもつながると期待されます。

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  投稿者 seibutusi | 2019-02-01 | Posted in ⑧科学ニュースよりNo Comments »