2022-02-22

オランウータンの生殖・性2 ~テナガザル系が”年中発情”する深い理由とは?~

前回のエントリーに引き続き、今回もオランウータンの性について扱いたいと思います。

今回はとりわけテナガザル系の類人猿全般にみられる、”年中発情”という生殖様式。

この秘密を探りたいと思います。

 

 

■1.”年中発情”とは何を意味するのか?

哺乳類にとって、【排卵】とは繁殖可能な(交尾して妊娠可能な)期間を示していますが、哺乳類は【交尾排卵方式】。つまり交尾による刺激で排卵するという方式をとっており、ほぼ100%妊娠します。

大半の食虫類、食肉類とげっ歯類の一部(フェレット、ウサギ、リス、イエネコ、ラクダ等)は、オスの交尾により排卵が誘発される方式をとっており、これが、より原始的な生殖形態と考えられます。(おそらく原猿初期も交尾排卵方式)

その後、霊長類(草食動物も)は【自然排卵方式】、つまり交尾がなくても定期的に排卵する方式に転換しました。
これは、雨季や春の始まりなど【餌が豊富になる時期に出産できる】よう、春や雨季の始まりから逆算して妊娠期間を引いた時期に排卵=交尾期が設定されるという適応戦略の為です。

しかし、サル達が適応した熱帯では、乾季や雨季等が無く、季節性がなくなります。
その結果、それぞれのメスが異なる時期に一定期間発情するようになります。

つまり、【年中発情】とは、「季節を問わず排卵ができる」ということ。

ちなみに妊娠するまで1か月ごとに排卵が続き、排卵の前後にメスは尻を赤くし、フェロモンでオスを惹きつける様式をとります。

では、”年中発情”すると一体何が変わるのでしょうか?

 

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■2.”年中発情”すると、何が変わるのか?

排卵時期に季節性が無くなることで、排卵期間の長期化が可能になり、28日から30日の周期で複数回(4~5回)排卵を繰り返す種が登場(アイアイ)します。また、シロテナガザルは妊娠するまで排卵を繰り返すようになります。

排卵周期を長期化した種は、同時期に交尾可能なメスの数が減少。その【少ない発情メスをめぐってオスの性闘争は激化】し、オスは闘い続けなければならなくなります。

 

 

■3.なぜ年中発情で闘い続ける必要があるのか?

それは、種間闘争に対応する為の種としての適応戦略ためです。

一体どういうことでしょうか?

 

①授乳期間の延長による「オスの軟弱化」を脱却するため

授乳期間や子育て期間の延長は、オスに対する「過保護」であり、オスは軟弱化する欠陥をはらんでいます。
これでは種間闘争に対応できず、種として弱くなりかねない。だからオスの活力と闘争力を上昇させるために、「年中発情」することで性闘争の頻度を増やしたと考えられます。(年1回から年12回へ)

しかし、オスの性闘争を激化させるには、メスを性収束させる必要があります。

 

②メスの性収束⇒そのために「メスも放逐」する戦略を取った

オスとメスの体格差も大きく、縄張り闘争で一番不利なメスをあえて放り出し、生存圧力を加えました。
そして「オスに守ってもらわなければ」という“オスを引き付けなければならない状況”を“自ら”作り出したのです。その結果が、メスの性収束。

上述した通り、原猿は「交尾排卵方式(交尾時に排卵する=ほぼ100%妊娠できる)」を取っていますが、真猿はあえて「自然排卵方式(排卵に周期がある)」を取っており、妊娠しにくい肉体改造をしています。これもオスを加圧するためだと考えられます。

 

★現代の性の課題は、あたかも【個人課題】のようになっていますが、このように見ていくと、サルにとっては、【種としての適応力を強化するための戦略】であることがわかります。だからこそ、性の問題というのは種の課題、集団課題として、考えていかなければならない課題なのです。それが生命としての原理、摂理だということです。

次回もオランウータンの性について扱いたいと思います。お楽しみに。

List    投稿者 tuti-nor | 2022-02-22 | Posted in 4)サルから人類へ…, ①進化・適応の原理No Comments » 

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