2021-01-02

免疫は何を認識するのか?~共生関係をつくる仲間か否か?

■免疫は何を認識するのか?~「自己/非自己」のあいまいさ
免疫とは、細菌やウイルスから、からだを守っている防御システムで、「疫(えき)」(病気)から「免(めん)」(免れること)ことから、免疫と言われる。

この免疫の働きについて、よく、自分と同じものを「自己」、異なるものを「非自己」として認めることにより、免疫の反応が始まると言われるが、実は「自己」と「非自己」の区分では捉えきれない現象が多くある。

免疫が「自己」の脂肪やタンパク質を攻撃する病気が年々増加している。これは自己免疫疾患と呼ばれ、関節リウマチや多発性硬化症など多様な病気がある。他方、私たちの腸管内には、1000種以上、100兆個以上もの腸内細菌が生息しているが、免疫は「非自己」であるこれらの腸内細菌を攻撃しない。

そうであれば免疫系は、「自己」と「非自己」を区分しているといえるのだろうか?それとも別の区分があるのだろうか?

今回はこの疑問を中心に免疫とはなにか?を考えてみます。

■免疫の「正の応答/負の応答」のバランス
私たちの身の回りには、細菌やウィルス、花粉、粉塵など生体に悪影響を起こす生物や物質に満ち溢れているが、それを気にせず生きていくことができる。これは免疫という自己防御機構によるところが大きい。免疫は、多くの動物に備わった生体防御機構であり、外部より侵入する細菌やウイルスなどの病原体や生体内で生じた腫瘍細胞を排除する役割を担っている(正の応答)。さらに、正に応答した免疫系がそのまま続くことは個体にとって新たな障害を惹き起こす原因となるため、細菌やウイルスなどの排除に引き続き「正の応答」を終焉させるように調節されている(負の応答)。このように、免疫の正の応答と負の応答のバランスが保たれることで、私たちは良好な健康状態を維持されている。

■自己を攻撃する細胞をだれでも持っている
正と負のバランスが崩れると、様々な不整合が生じる。その一つが、年々増加している「自己免疫疾患」、免疫細胞が、無害な自分自身の細胞や組織を攻撃してしまい、臓器や関節、皮膚といった身体の様々な部位に病気を発症させる。

自己免疫疾患の原因は、完全には明らかにされていない。しかし、最近の研究により、どんな健康な人でも、自己反応性の免疫細胞が体内に潜んでいて、これにより自己免疫疾患をひこ起こす恐れがあることが分かってきた。以前は、 T細胞(リンパ球の一種)は、胸腺内で作られるとき、自己に反応する T細胞は排除されると考えられていたが、そうではないことが分かっている。自己に反応する「過激な」T細胞が見つかると、細胞死(アポトーシス)が起きる。また、自己にまったく反応しない「鈍感な」T細胞は無用とみなされ、成熟するステップに進めず、最終的には死んでしまう。こうして、最終的には、自己に対して、弱いがある程度の強さで反応する T細胞だけが選抜させる。したがって、何かきっかけで免疫細胞が暴走してしまと、誰でも自己免疫疾患を発症する可能性があることになる。

しかし、多くの場合で自己免疫疾患が起こらないのは、免疫細胞を制御する制御性T細胞(Treg)の働きによることが、最近の研究で明らかになっている。私たちの体内の免疫細胞には、自己に反応するT細胞と、免疫細胞を制御するT細胞があり、免疫系は両者によってバランスを取ることで恒常性が保たれている。

T細胞の分化とはたらき

「T細胞の分化とはたらき」(画像はコチラよりお借りしました)

かつては、自己免疫疾患が起こるのは、例えば、ウイルスと自己の抗原が似ているなど、標的になる自己抗原に問題があるという考え方が主流だったが、最近では免疫系の問題(制御性T細胞の機能不全)だということが分かってきた。制御性T細胞の機能低下や数が減ると、自己への免疫反応を押えきれなくなり、自己免疫疾患が起こることになる。

◎本来、「自己」に反応しないように出できているはずの免疫に、なぜ「自己」に反応する可能性があるT細胞が存在するのだろうか?

■がんと免疫~がん細胞は非自己ではなく自己
その理由のヒトつとして考えられるのが、がん細胞へに対する免疫反応。自己の細胞に遺伝子異常が生じて異常増殖が引き起こされたがん細胞は、「非自己」ではなく「自己」。制御性T細胞が免疫応答を制御し、がん細胞に対する攻撃=自己免疫反応を生起させることで、がんの増殖を押えていると考えられる。「自己」に反応する可能性があるT細胞は、生きていくために必要な細胞の一つだと言える、

 

がん免疫のメカニズム

「がん免疫のメカニズム」(画像はコチラよりお借りしました)

■腸内細菌と免疫
免疫は認識しているのか?そのヒントは、腸内細菌と免疫の関係にある。ヒトの腸管には500~1,000種類、100兆個以上の腸内細菌が生息し、この腸内細菌が消化液では分解できない食物繊維などを微生物発酵(腸内発酵)により代謝し、有用な代謝産物に作り替える働きをしている。これまで腸内細菌の一部種類に炎症やアレルギーを抑える効果があることが知られていたが、最近の研究でそのメカニズムが分かってきている。

広く免疫系で炎症を抑える制御性T細胞は腸内に多く存在し、腸の過剰な炎症や食物アレルギーを抑えるなど、腸管免疫で重要な役割を担っている。この制御性T細胞の誘導には腸内細菌が必要で、特に腸内細菌のなかでもクロストリジウム属細菌が腸管で制御性T細胞を誘導すること明らかにされている。

 

腸管においてクロストリジウム属細菌がTレグを誘導する流れ

「腸管においてクロストリジウム属細菌が制御性T細胞を誘導する流れ」

(画像はコチラよりお借りしました)

腸内細菌は私たちが生きていく上で不可欠な存在。もともと非自己である腸内細菌が、免疫に排除されることなく、腸管内に共生できるのは、制御性T細胞を介したヒト~腸内細胞の協同の結果ともいるかもしれない。

■免疫は何を認識するのか?~共生関係をつくる仲間か否か?
ここまで見てきたように、免疫系の認識は、これまでいわれている「自己./非自己」の区分では捉えきれないものだと分かる。がん細胞のように自己であっても排除する必要があるものがあり、一方、腸内最細菌のように非自己であってもは排除されないものある。

腸内細菌は免疫には除されることなく、生命誕生の初期から共生し、複雑な共同体を形成しつつヒトの健康と密接に関わっている。こうしてみると、免疫系は、生命体(ヒトと腸内細菌群の共同体)にとって「必要か否か」「仲間かどうか?」というような認識をしているのではないだろうか?

現在の抗菌・滅菌などの狂った衛生観念と抗生物質の使用により、長い長い間、共生していた細菌や寄生虫どの微生物を一方的に悪者として排除してしまった結果、腸内細菌群のバランスの異常など→免疫機能不全を引き起こし、アレルギー性疾患と自己免疫疾患を増加させていることがほぼ明らかになっている。今、改めて「共生」という自然の摂理、生命原理に立ち返り、追求する必要があるのだとと思います。

List    投稿者 seibutusi | 2021-01-02 | Posted in ⑧科学ニュースよりNo Comments » 

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