2020-12-31

キノコは森の救世主? ~地球史から菌類の可能性を探る~

>菌根菌が森林における樹木の多種共存を維持したり、樹種を置き換える遷移(樹種の移り変わり)を促進したりします。<
>土壌に生息する微生物のはたらき(土壌微生物が原動力となる環境変化)を理解することではじめて森の成り立ちと遷移を理解できる<

 以上、「森の未来は菌だけが知っている? ~森林と微生物の共存関係~」リンク より。

菌類含め微生物には、まだまだ計り知れない可能性がありそうです。社会の大変動が続く来年も引き続き、微生物の可能性を追求していきます。

年末の今回は、森のキノコの働きの本質・可能性とは何か?  地球史の視点から書かれた記事から見ていきます。

 

以下、BE-PAL (2019.01.25) より。

キノコは救世主?菌の地球史に迫る!

もしも世界にキノコがいなかったら、世界はどうなってしまうだろう。

キノコのことを以前は義務教育で、「花の咲かない植物」(注)として教えていたという。しかしキノコは、もちろん植物ではない。

植物は光合成によって二酸化酸素と水から様々な有機物質を作り出し自分の体を形づくる。キノコは枯れ木や動物の死骸を腐らせ分解し、水と二酸化炭素に戻す。正反対の性質をもった生き物だ。

生態系という大きな枠組みの中でいうと、いわば有機物を作り出す生産者の植物に対して、キノコはそれらを元に戻す還元者としての役割を担っている。

世界にキノコが無かったら、割と短期間で、世界は枯れ木や生き物の死骸でいっぱいになってしまうだろう。荒唐無稽な妄想の様だが、長い地球の歴史の中には、かつて、そういう時代もあった。

■まだキノコのいない太古の巨大樹の森は、巨大昆虫の天国だった。

およそ3億5920万年前から2億9900万年前の間、石炭紀と呼ばれる時代の後期。シダ植物の巨大な森林が地表を覆い、翼開長70cmに達する巨大なトンボ「メガウネラ」が飛びまわる。後の恐竜や哺乳類の先祖に当たる両生類や、巨大化した節足動物や昆虫が栄えた時代だ。

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日本最大のトンボ「オニヤンマ」翼開長12cm前後。

トンボは昆虫の中でも、太古から大きく変化していないと言われる。早期に生物の形態として完成していたからだ。

古代トンボ、メガウネラはオニヤンマの約6倍の大きさで、鳥類では猛禽のチョウゲンボウとほぼ同じ大きさ。

昆虫の大型化は、石炭紀の大気中の酸素濃度が高かったからという説がある。当時の酸素濃度は35%ほどといわれ、それ以前のデボン紀の15%、現代の21%に比べても10%以上高い。気圧も現代より高かったという説があり、もしそうならば、実際の酸素の大気中保有量はさらに多かった可能性もある。

酸素濃度が上がったのは、地表を覆い尽くす巨大森林の光合成による酸素の放出と二酸化炭素の減少のためだといわれるが、もう一つほかにも重要な原因がある。それは、巨大森林の樹木が枯れても、それを分解する生物の能力が非常に小さかったからだ。

枯れ木の材を構成する主な成分は、セルロース、ヘミセルロース、リグニンという物質で、地球上でもっとも分解しにくい有機物質として知られている。中でもリグニンは分解できる生物がほとんど皆無で、枯れた巨大樹木は分解し切れないまま堆積し地中深く埋もれ高温、高圧の下で化石化していった。それが、今、私たちの使う化石燃料「石炭」の起源だ。

石炭が今有るのは、古生代後期の石炭紀に、キノコ(白色腐朽菌)がいなかったからだ。

現在でも、生物の中でリグニンを枯れ木など植物遺骸から直接分解できるのは、唯一キノコの仲間だけだ。2億9900万年前、石炭紀が終わりを告げたのは、進化によってリグニン分解能力を持つキノコが出現したか、腐朽菌の能力が進化してより強力になったかどちらかだと考えられる。いずれにしても、リグニンがキノコによって分解されるようになったことで、時代を追うごとに酸素濃度が高くなり続けるという、石炭紀の不安定な状態が解消された。

実際に石炭紀末期は、二酸化炭素濃度の減少によって気温低下を招き、氷河期を迎えている。動物たちには大変つらい時代だった。現在に続く安定した大気組成、これは後の生態系の安定と繁栄のためにも大切なことだっただろう。

リグニンを分解するキノコは、褐色のリグニンを分解し白色のセルロースなどを残し、材の白腐れをおこすことから、白色腐朽菌といわれる。

白色腐朽菌の仲間は、シイタケやブナシメジ、ヒラタケなど栽培できるものが多い。多くが私たちの生活に密接にかかわっている。キノコ狩りの対象になるキノコも少なくない。たとえば、ナメコ、マイタケ、クリタケ等々。

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白色腐朽菌の仲間。白色腐朽菌には優秀な食用菌も多い。

キノコは独力で、動物は細菌の力を借りてセルロースやヘミセルロースを借りて栄養にする。

一方、枯れた植物のその他の成分。セルロースやヘミセルロースを分解する微生物は古生代石炭紀にもいたはずだ。セルロースは直接動物には消化分解できない。微生物の力を借りなければ、巨大昆虫や動物は植物から栄養を得ることができないからだ。

現代もセルロース分解能力を持つ微生物はたくさんいる。土中に普通に存在するセルロース分解菌や、カビの仲間、身近なところでは納豆菌なども。

草食動物やシロアリの消化器には常在菌としてセルロース分解菌があり、その助けを得て植物を消化して栄養としている。セルロースは多糖類で炭水化物の一種だ。分解されるとブドウ糖になり、リグニンに比べ分解しやすいだけでなく、生物がエネルギー原として利用するのに効率が良い。早くから動物がセルロースを利用できるように進化してきた理由の一端はそういったところにもあるだろうと思う。

キノコの中でセルロースやヘミセルロースの分解を担う菌類を褐色腐朽菌という。白いセルロースやヘミセルロースを分解して、褐色のリグニンを残し、いわゆる材の褐色腐れをおこすキノコの仲間だ。これら褐色腐朽菌は、さすがキノコ。ほかの微生物に比べてセルロース分解能力がずっと強力だ。

微生物が糖にまでしか分解しないのに対し、一部の褐色腐朽菌、ミミナミハタケ、やマツオウジなどのキノコは、セルロースを分解するだけでなく、糖も一気に分解しにアルコールを作り出す。それも菌糸を生ごみに混ぜておくだけという手軽さで。

現在、マツオウジなど褐色腐朽菌を使って、バイオ燃料を生産しようという研究が盛んに行われているという。

③

主に昆虫によってボロボロに風化した枯れた立木。崩れ落ちた地面からやがてキノコが発生する。

枯れた植物を分解してもとに返す、それはキノコを中心にした生物の総力戦だ。

強力な分解能力を持つキノコだが、それでも膨大な植物を菌類だけで消費、還元するのは力不足だ。キノコを要に様々な生物が複雑に連携してやっと植物遺骸を分解し尽くすことができる。

たとえば動物や昆虫が植物を食べセルロースから栄養を取り出す過程で、噛み砕いて細かくしたり、糞として排出することで、キノコの分解効率が上がる。その逆もあって、キノコが木材などを分解することで、材そのものを消化できなかった昆虫などが栄養として利用しやすくなる。また分解の過程で細かくなった成分を細菌がさらに栄養にして分解する。植物を再び水と二酸化炭素に戻すこと、それは全ての生物による総力戦だ。

もっともそれが、キノコにとっても動物にとっても生きる=食べるということなのだけれども。
【人間はキノコを、カブトムシは菌糸を食べる。カブトムシを育てるキノコ「ヒラタケ」】

生態系の中で、分解者、還元者の要を務めるキノコだが、皮肉なことに、今や一番のそして暴力的で破壊的な還元者は、私たち人間かもしれない。

人間が石炭や石油など化石燃料を使い続けることそれは、地球史の時間を逆に巻き戻す行いなのだろう。

(以上)

List    投稿者 seibutusi | 2020-12-31 | Posted in ⑧科学ニュースよりNo Comments » 

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