2020-06-25

「前向きな気持ちはアレルギーを改善させる」 ~ 脳内ドーパミンの働き ~

実際にはなんの治療効果もないはずの薬を飲んでいるのに、「効き目がある」と思い込むことで、本当に症状が良くなる“プラセボ効果”と呼ばれるこの現象。単に精神的な面だけでなく、「きっとよくなる」と願うことで身体も生理学的な反応を実際に起こし、免疫反応を活性化して有害なストレスホルモンの分泌を抑制します。リンク

ポジティブな精神状態が症状や薬の効果に大きな影響を及ぼすと言いますが、その生物学的なメカニズムはどのようになっているのでしょうか? 今回は、山梨大学の研究から見ていきます。

山梨大学プレスリリースより。

「前向きな気持ちはアレルギーを改善させる」

―脳内ドーパミン報酬系の活性化はアレルギー反応を抑制する―

研究成果のポイント

・花粉症や気管支ぜんそく、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患では、ポジティブな精神状態が、症状や薬の効果に大きな影響を及ぼす可能性が示唆されていましたが、生物学的なメカニズムは不明でした。

・本学の医学部免疫学講座 中尾篤人教授、中嶋正太郎助教(現:福島県立医科大学講師)、医学部神経生理学講座 喜多村和郎教授らは、前向きな感情を脳内で司るドーパミン報酬系の活性化はアレルギー反応を抑えることを、マウスを用いた実験で示しました (欧州アレルギー学会誌に6月20日にオンライン掲載)。

・この結果は、ポジティブな精神状態を生み出す特定の脳内ネットワークがアレルギーを生じる免疫のしくみと密接にリンクしていることを直接的に証明した世界で初めての知見です。アレルギーをもつ患者さんを適切に診療し症状をコントロールするためには、患者さんに前向きな気持ちを保ち続けてもらうことも日常生活の管理や投薬などと同時に大事なことが示唆されました。

■ 研究の背景(「こころの状態とアレルギーの関係は大きな謎」)

花粉症や気管支ぜんそく、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患は、精神的なストレスにより病気が悪化することが知られています。 一方で、アレルギー疾患に対する新規薬剤の臨床試験では、患者さんの前向きな感情が薬効と無関係に効果を高める「プラセボ効果」が強く出てしまい、新薬の評価を判定することが困難なことが多々あります。このように精神的な変化がアレルギーの症状に影響を与えることは経験的かつ疫学的に知られているものの、その背景にある生物学的なメカニズムはほとんど明らかにされていないのが現状です。私達はこのアレルギーにおける大きな謎に迫ろうと考え研究を始めました。

■ 研究の目的(「前向きな感情を司る脳のネットワークはアレルギーに影響を与えるのか?」)

以上のような背景から、特に精神的状態の中でも「プラセボ効果」と関係の深い“前向きな感情”(やる気)を司る脳内の特定部位がアレルギーに与える影響について検討しました。“前向きな感情”は脳内では、ドーパミン報酬系という神経ネットワークが司っています。本研究では、マウスを用いてドーパミン報酬系をいくつかの方法で活性化し、そのアレルギー反応への影響について解析しました。

■ 今回の研究成果(脳内ドーパミン報酬系の活性化がアレルギー反応をおさえる)

マウスの脳内ドーパミン報酬系を3つの異なる方法を用いて活性化し、そのアレルギー反応への影響について解析しました。

1)マウスの脳内報酬系を人為的に直接活性化できるシステムを利用:

DREADDと呼ばれる脳を操作する最新の技術を用いて脳内の中脳腹側被蓋野(VTA)(ドーパミン報酬系の中心となる部位)を人工的に活性化させた後、アレルギー反応のモデルとして皮膚にじんましん反応を惹起しました。VTA    を活性化させたマウスでは対照においたマウスと比べてじんましん様反応の大きさが有意に減少していました
(図1−3)。

2)人口甘味料を自発的に飲ませることでマウスの脳内報酬系を自然に活性化させるシステムを利用:

マウス飼育時に飲水ボトルに人口甘味料であるサッカリンを混ぜておくと“甘み”によってマウスは自然な形で(自発的な行動として)VTAを活性化させます。その後、皮膚にじんましん反応を惹起しました。サッカリンの自由飲水によってVTAを活性化させたマウスでは、対照においた水だけを飲んでいるマウスと比べて、じんましん反応の大きさが有意に減少していました。この方法は1)で取った方法と比べるとより自然な形で脳内報酬系を活性化させた実験です。

3)薬によってマウスの脳内報酬系を活性化させるシステムを利用:

マウスにドーパミン(dopamine)の前駆体(材料)であるL-ドーパ(L-dopa)を注射すると脳内でL−ドーパはドーパミンに変換され、ドーパミン量が増加します。その後、皮膚にじんましん反応を惹起しました。L-ドーパを注射で投与したマウスでは、対照においたマウスと比べて、じんましん反応の大きさが有意に減少していました。 L-ドーパ(L-dopa)は現在、パーキンソン病の治療に使われている薬でもあります。

これらの実験から、脳内ドーパミン報酬系の活性化がアレルギー反応を抑える効果があることが示されました。

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(概念図)

■ 研究の意義

(学術的意義)
本研究によって、前向きな感情を脳内で司るドーパミン報酬系の活性化はアレルギー反応を抑えることがわかりました。この結果は、ポジティブな精神状態を生み出す特定の脳内ネットワークとアレルギーを生じる免疫のしくみが密接に関係していること直接的に証明した世界で初めての知見です。こころとアレルギーの関係を明らかにしていくことは21世紀のアレルギー/医学研究の大きなテーマの1つですが、本研究はその先駆けです。

(臨床的意義)
花粉症や気管支ぜんそく、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患をもつ患者さんの治療は、現在、抗アレルギー剤や抗炎症薬などの投薬が主体ですが、よりきめ細かく適切に診療するには、患者さんに前向きな気持ちを保ち続けてもらうようにコミュニケーションをとることも大事であることが示唆されました。

 

(以上)

List    投稿者 seibutusi | 2020-06-25 | Posted in ⑧科学ニュースよりNo Comments » 

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