類人猿から人類への皮膚構造の進化 ~強く、しなやかでハリがあり、弾性に富むヒトの皮膚の創出へ~
なぜ人類は体毛を失ったのか?
→「人類に体毛がなくなった理由⇒その基礎事実」http://bbs.jinruisi.net/blog/2019/11/4445.html
その答えは諸説あるものの、未解明な問題です。
先日の実現塾では「人類は、性充足をはじめとする密着充足を高めるために体毛を失っていった」という仮説が提起されました。
人類は体毛を失うことにより直接外気にさらされることとなった皮膚を、強くする方向に進化させていったようです。
類人猿から人類(ヒト)への皮膚構造の進化について、遺伝子発現の観点からの研究報告を紹介します。
総合研究大学院大学プレスリリースhttps://www.soken.ac.jp/news/6083/より、
類人猿からヒトへの進化過程における遺伝子発現の変化が、強く、しなやかでハリがあり、弾性に富むヒトの皮膚の創出に関与することを示した
【研究概要】
ヒトの皮膚は他の霊長類と異なる特徴があります が、どのような遺伝的要因が関わるか知られていませんでした。
1) この研究では始めに、皮膚の形態をヒトと他の霊長類の間で比較し、ヒトでは表皮と真皮が他の霊長類と比べて厚いこと、およびヒトでは表皮と真皮を結合する表皮基底膜が波型で、他の霊長類では平坦である ことを明らかにしました。波型の表皮基底膜は平坦型に比べて面積が増大します。
2) 次にヒトと類人猿3種(チンパンジー、ゴリラ、オランウータン)の間で、全転写配列を決定する方法(RNA-seq法)を用いて遺伝子発現量に統計的に有意差のある遺伝子を全遺伝子から探索しました。その結果、表皮基底膜に関わる遺伝子(COL18A1, LAMB2, CD151)と真皮の弾性繊維の成分であるBGNがヒトで多く発現している ことが明らかになりました。
3) 最後に類人猿からヒトへの進化の過程で上記4つの遺伝子発現量の変化を生み出したDNA配列の変異を推定しました。ヒトは進化の過程で体毛が薄くなり、体毛による皮膚の保護が弱くなった と考えられています。今回明らかにした遺伝子発現の変化は、ヒトでの強く、しなやかでハリがあり、弾性に富む皮膚を作ることに関わり、これは保護の弱いヒトの皮膚を強靭にした と考えられます。(図1)
【研究の背景】
皮膚は外部環境から体内を守り、また体内の水分などを保持するために重要であると考えられています。ヒトの皮膚は他の霊長類に比べ、体毛が減少していることはよく知られています。それに加えヒトでは汗腺の数が増大しており、体毛の減少と合わせて、高い体温調節能力があることが報告されています。1980年代にヒトの皮膚の形態が他の霊長類と異なること(表皮が厚い、ハリがある、弾性に富むなど)が少数報告されていましたが、それ以来ヒトと他の霊長類の皮膚の比較は、ほとんど研究されていない状況でした。それでは実際にヒトの皮膚にはどのような特徴があり、どのような遺伝子が関わってそれらの特徴を生み出しているのでしょうか?本研究ではこれらの疑問を解明することを目的としています。
~中略~
ヒトは進化の過程で体毛が薄くなった ことが知られています。体毛には外部の物理的なストレスから皮膚を守る役割がある と考えられています。そのためヒトでは体毛の減少により皮膚の保護が弱くなった と考えられています。今回明らかにした遺伝子発現の変化は、表皮と真皮を結合する表皮基底膜の表面積を広げて結合を強くし、また真皮の弾性繊維を豊富にしている ことに関わると考えられます。このような進化は保護の弱いヒトの皮膚を強靭にした と考えられます。
(以上)
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