2019-08-08

呼吸リズムの仕組み ― リズムの起源は、なんとグリア細胞だった! ―

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                        画像はこちら より。

呼吸のリズムはどのように形成されているのか?

そのメカニズムを解明した研究がありました。リズムの起源は、ニューロンではなく、なんとグリア細胞だったようです。

中枢-神経系のグリア細胞図

                        画像はこちら より。

村山医療センターのプレスリリース https://kyodonewsprwire.jp/release/201209257177 より、以下に紹介します。

2012年10月1日
独立行政法人国立病院機構村山医療センター(院長 臼井宏)

呼吸リズムの仕組みを解明  ― リズムの起源は神経回路ではなく、なんとグリア細胞だった! ―

呼吸のリズムが形成されるメカニズムは、長年の研究にかかわらず未解明でした。本研究は、呼吸リズムを牽引するグリア細胞を脳幹で発見したのみならず、なぜこれまでの研究標的であった「神経細胞(ニューロン)の活動」だけでは呼吸のリズム形成を説明できなかったかを示す、脳科学最大の謎の一つに終止符を打つものです。

研究の背景

無意識下でも形成、維持がなされる自律的な呼吸運動は、生命維持に必須で、その停止は死に直結し、その障害は呼吸不全を惹起します。呼吸運動は横隔膜などの呼吸筋の活動によりますが、呼吸筋の活動は、延髄を中心とする脳幹部で形成される呼吸リズム形成神経機構の働きにより維持されています。呼吸リズム形成のメカニズムについては、呼吸生理学上の最重要課題として長年に渡って研究がなされてきて、心臓のように自動的に周期的な興奮を起こすペースメーカー機能を持つ神経細胞(ペースメーカーニューロン)が駆動することによるとの説や、興奮性と抑制性のニューロンの相互作用によるとの説などが提唱されてきましたが、いずれの説もこれまでの実験データを完全には説明できず、呼吸リズム形成のメカニズムは、これまで未解明でした。

研究の内容

独立行政法人国立病院機構村山医療センター臨床研究センターの岡田泰昌室長、東京大学大学院薬学系研究科の池谷裕二准教授、佐々木拓哉博士、兵庫医科大学生理学講座の越久仁敬教授らを中心とする研究グループは、げっ歯類延髄のpre-Botzinger complex(注1)と呼ばれる呼吸リズム形成の中核となっている部位において、吸息性神経活動に先行して活動を開始するアストロサイト(注2)(グリア細胞(注3)の一種)を発見しました。さらに、pre-Botzinger complex領域のアストロサイトを選択的に興奮させると、吸息性神経活動を起こしうることを確かめました。

具体的には、新生ラットから作成したpre-Botzinger complexを含む延髄の横断切片標本(スライス状に切り出された生きた組織)を対象とし、細胞活動に応じた細胞内カルシウム濃度の変化をカルシウムイメージング法(注4)により観察し、吸息時に活動するニューロンに先行して活動を開始するアストロサイト(前吸息性アストロサイト)を発見しました。ニューロン活動のみを抑えるフグ毒のテトロドトキシンを投与するとニューロン活動および呼吸神経出力は消失しましたが、前吸息性アストロサイトの周期的な自発活動は残りました。さらに、光を照射すると細胞を活性化させるイオンチャネルであるチャネルロドプシン2をアストロサイトにのみ発現させた新生マウスを用い、そのマウスから作成した延髄スライス標本においてpre-Botzinger complex領域のアストロサイトを光照射で興奮させるオプトジェネティクス(注5)の手法によって吸息性ニューロンの活動を惹起させることができました。

これらの結果から、アストロサイトが呼吸リズム形成の中枢であるpre-Botzinger complex領域において吸息性神経活動を駆動していると考えられました。

本研究の成果は、呼吸リズム形成のメカニズムを詳細に理解するとともに、睡眠時無呼吸症候群など呼吸中枢の異常に因る様々な呼吸異常の病態の解明およびそれらに対する新しい治療法の開発に貢献するもの期待されます。

用語解説

注1)pre-Botzinger complex: 延髄腹側部で左右対称の部位にある領域で、呼吸リズム形成における中核部位と考えられている。
注2)アストロサイト: グリア細胞の一種で、星状膠細胞(せいじょうこうさいぼう)とも呼ばれる細胞。多数の密な細い突起を持ち、その突起がニューロンとニューロンの間のシナプスと呼ばれる情報伝達の場所を被っており、アストロサイトがシナプスでの情報伝達を積極的に調節していることが明らかにされつつある。
注3)グリア細胞: 神経膠細胞(しんけいこうさいぼう)とも呼ばれる神経系を構成する細胞であるが、神経細胞(ニューロン)と異なって活動に伴って活動電位と呼ばれる電気信号を出さないため、その活動は電気生理学的には計測が困難であった。グリア細胞は、最近まで、ニューロン周囲の細胞外環境を維持する程度の役割しか演じていないと考えられていた。しかし、最近、グリア細胞は、ニューロンとともに脳の様々な情報処理過程において能動的な役割を果たしていることが明らかにされつつある。
注4)カルシウムイメージング法: 多数の細胞を対象に細胞内の活動に応じて上昇するカルシウムイオンの濃度変化を動画像として計測することにより個々の細胞の活動をそれらの空間的な位置関係も含めて解析することができる方法。細胞内外の電位変化を計測する電極法では測定が困難なグリア細胞の活動も計測しうる。
注5)オプトジェネティクス: 光学と遺伝学を融合させた神経科学の新しい研究手法。チャネルロドプシン2などの光照射で活性化するイオンチャネルを特定の細胞に遺伝子工学的手法により発現させ、特定の波長の光を照射することによりそれらの細胞の活動をコントロールすることができる。

(以上)

 

List    投稿者 seibutusi | 2019-08-08 | Posted in ⑧科学ニュースよりNo Comments » 

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