2018-12-29

植物の外識機能から、「知性」とは何か?を考える

私たちはふつう、庭に生えている花や木に高度な感覚機構があるなどとは思いませんが、実際には、植物にも人間と同じように五感がすべて備わっています。そのふるまいからは、人の「知性」のようなものが植物にも存在しているように見えます。

動物なら暮らす環境を自ら選ぶことができます。 嵐が来ればそれを避ける場所を探し、食料やつがいの相手を求めてうろつき、季節の移 り変わりに合わせて渡りをすることもできます。一方、植物はよりよい環境に移るということができないぶん、多様に変化する気候に順応し、侵害してくる雑草や害虫に抵抗するすべを身に付ける必要から、変化する状況に合わせて生長できるよう、複雑な感覚機能と調整機能を進化させたのです。

しかし、植物には、中枢神経系、つまり体全体を調整している「脳」は存在しません。では、植物の「知性」をもたらせているのは何か? さらに言えば、人の知性にとって「能」とはどんな存在なのか? 今日は、そんな疑問の追求の足がかりとして、植物の外識機能(感覚機能)、知性を取り上げます。

■植物の外識機能
①視覚
植物は生き残るため、つねに移り変わる周囲の環境に敏感でいなければならない。光の方角、量、持続時間、色を知らなければならない。つまり、電磁波を間違いなく感知している。また、光は植物が光合成によってエネルギーを補給するための基本的要素である。そのために植物は視覚能力を強化してきた。

人も電磁波を感知するが、感知できる範囲は限定されている。植物はそれより短い波長のものも長い波長のものも認識する。植物はうまく光を受けるために葉を動かし、体の位置を修正しながら、光の射す方向に向かって成長していく。植物の内部では、いくつかの化学物質が光受容体として機能しており、自分の体の各部分に伝達する事ができる。植物は人より世界を広域に見ていることになるが、それを像として見ているわけではない。植物は光の信号を像に翻訳する神経系をもっていない。そのかわり、光の信号を生長のためのさまざまな指示に翻訳している。

②嗅覚
植物は大気中の揮散性物資を検知し、その信号を生理的反応に変換している。これはまさに、嗅覚と考られる。植物のにおいの感覚器は、体全体に散在している。細胞の表面には、揮発性物質をとらえる受容体が備わっている。植物は「におい」の微粒子(BVOC)によって、周囲の環境から情報を得たり、植物同士や昆虫とのコミュニケーションをはかったりしている。BVOCには、植物用のSOS信号も含まれており、危険が迫っている事を、近くに生えている植物に警告する。警告を受けた植物は、例えば虫の攻撃に対抗し、葉を消化できなくする化合物を出したり、その葉を有毒にする化合物を作り出したりする等の防衛行動をとる。

③味覚
植物の味覚は、栄養素として使われる化学物質を取り込む受容体の事を指す。植物の根は地中でそうした化学物質(硝酸塩、リン酸塩、カリウム等)を探しまわる。さらに最近の研究では、植物の世界では、動物から栄養を摂取する事がかなり広範に行われている事がわかっている。例えばつる植物は、巻きつくことのできるフェンスに触れたとたんに急成長を開始する。ハエトリグサは葉の上に昆虫がやっていくると、葉を閉じて捕食する。植物の表皮細胞には特別な受容体が一杯で、植物が何かに触れたり、振動が届いたりした時に受容体が作動する。

④触覚
植物はさわられたことを知っている。いつさわられたかを知っ ているだけでなく、触れたものが熱いか冷たいかまで区別でき、風に枝が揺れたときも それがわかる。植物の表皮細胞には特別な受容体が一杯で、植物が何かに触れたり、振動が届いたりした時に受容体が作動する。つる植物は、巻きつくことのできるフェンスに触れたとたんに急成長を開始する。ハエトリグサは葉の上に昆虫がやっていくると、葉を閉じて捕食する。

⑤聴覚
植物は蛇やミミズのように耳介をもたない動物と同じように、土の振動によって音を聞く。音を聞く能力は、植物の体全体が持っている。植物の感覚は人間よりもずっと鋭く、私達の持っている五感以外に、少なくとも15の感覚を備えている。例えば植物は、重力、磁場、湿度を感じて、その量や大きさを計算できるし、いろいろな化学物質の土壌含有率も分析できる。こうした感覚は根や葉に備わっている。

■植物の知性とは?
進化を通じて、植物は個々の器官に機能を集 中させずに、体全体に機能を分散させたモジュール構造の体を作り上げてきました。これは、体の各部分を失っても、個体の生存が危険にさらされることがないための根本的な選択です。植物は、 肺も、肝臓も、胃も、膵臓も、腎臓も持ちませんが。それでも、それらの各器官が動物において果たしている機能すべてを、植物もきちんと果たすことができます。

植物は、信号を伝える3つのシステム(電気、化学物質、水)を持ち、一つの植物内部で互いに補いあって機能しています。これらのシステムが協力しあうことにより、短い距離であれ長い距離であれ、多様なタイプの情報が伝えられ、それによって植物の健康バランスが保たれ、生命がが支えられます。

植物は、知的機能を管理する特別な器官をもっていないので、群れを作るほかの多くの生物によく見られる、「分散知能」という形式を発達させています。分散知能のもとでは、生物の各個体が集まって群れを作るとき、個体そのものには存在しない性質が全体として現れる現象です(「創発」という)。

これは、アリやハチ、シロアリといった社会性昆虫のにも見られるという現象で、個々の行動の相互作用は単純で,例えば,アリの場合,別のアリが残したにおいを追うだけだ。しかし,集団として見ると,餌(えさ)場までの無数の経路のうち,最短のものを選ぶといった難しい問題に答えを出している。社会性昆虫に共通のこうした性質は「群知能」と呼ばれるものの一種です。

こうした創発行動に関しては、植物と動物はよく似ていますが、大きなちがいもありす。動物の 場合は、人間、哺乳類、昆虫、鳥などの個体が多数集まることで群れが形成されまう。けれども 植物の場合、創発行動は、植物の一個体だけでも(つまり一個体の根のあいだで)起こりうる。ようするに、植物の個体一つひとつが、一つの群れ(コロニー)そのものなのです。

■「ニューロン(脳)中心主義」からの脱却
地球上に植物が出現したのは5億~10億年前だとされているので、それより前に人と植物の共通祖先がいたことになります。現在の植物も人も、それぞれ10億年かけて進化してきている。そう考えれば、定住の生活を選んだ植物は、人とは 異なる豊かな感覚や知覚があることは不思議でも何でもありません。

このように、植物が知性を持っていることは疑いの余地はないにも関わらず、植物の知性を否定するのは、根拠のない「ニューロン(脳)中心主義」にほかならないと思います。植物は、人のような脳は持っていないものの、周囲の環境からの刺激に対して、適切に対応することができます。植物は自分の廻りに何があるのか?何がおきているのかを知っているのです。

確かに「脳」というシステムは複雑ですが、だからといって脳だけが特別だとは言え無いはずです。そもそも、人の脳が他の生物のそれに類 する仕組みよりすぐれているという前提は正しいのかも考える必要があります。人類は脳を発達させたおかげで他の生物を支配する力を得たかもしれませんが、その発達した脳のせいで、怒りや憎し・みといった負の感情にとらわれ、無益な争いをするなど、不幸になっている面もあることは事実です。

「脳」の有無といった植物と動物は違いからではなく、「知性」という共通点を比較することで、知性とは何か?、脳にできること/出来ないことは何か?といったことも見えて来るのかも知れません。

[参考]
『植物はそこまで知っている』著:ダニエル チャモヴィッツ
『植物は〈知性〉をもっている 20の感覚で思考する生命システム』著:ステファノ・マンクーゾ、アレッサンドラ・ヴィオラ

List    投稿者 seibutusi | 2018-12-29 | Posted in ⑧科学ニュースよりNo Comments » 

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