2018-08-02

メンデルの法則「優性の法則」の発生構造が見直されている。

有名なメンデルの法則「優性の法則(性質として現れる遺伝子を優性遺伝子、発現しない方を劣性遺伝子と呼び、これまで劣性遺伝子は一般に機能を失っているために性質が現れないと考えてきた)」との定説が見直されている。

>優性の遺伝子から作られる小さな分子(低分子RNA)が、劣性の遺伝子の働きを阻害するという全く異なる仕組みを発見しました。さらに今回新たに、この低分子RNAを構成する塩基(核酸塩基)の配列が変化することによって、特定の遺伝子同士で複雑な優劣関係が生み出されることを明らかにしました。

生物は外圧適応態として、安定性を担う DNAと変化を担うRNAによって適応してきた。その具体的な手法の一つが「外圧に適応する遺伝子を発現させる≒優性の法則」である。

>“遺伝子の優劣”という生命原理を今後考えていくときの注意点について、高山さんはこう述べる。「優劣性という言葉から、優性の遺伝子が『優(すぐ)れている』と誤解してはなりません。表現型として現れるものを『優性』と呼んでいるにすぎないのです。例えば、緑の革命につながった高収量品種は、ある『劣性遺伝子』を持つ品種です」。

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奈良先端科学技術大学院大学の研究レポートより

http://www.naist.jp/pressrelease/2016/12/003571.html

 【遺伝子の優劣関係を決める新たな仕組みを解明メンデルの優性の法則の謎を100年ぶりに】

 

【概要】

奈良先端科学技術大学院大学(学長:小笠原直毅)バイオサイエンス研究科の和田七夕子(わだゆうこ)助教、高山誠司客員教授(現東京大学大学院農学生命科学研究科教授)らの研究グループは、農研機構、東北大学、大阪教育大学、神戸大学との共同研究により、どちらか片方の親の遺伝子の性質だけが子に現れるというメンデルの「優性の法則」として知られる現象について、複雑な優劣関係を決定する新たな仕組みを世界で初めて明らかにしました。

親から子へと遺伝子が受け継がれる遺伝現象において、片方の親の遺伝子の性質のみが子に現れる場合が多く見られます。これはメンデルの「優性の法則」として古くから知られており、性質として現れる遺伝子を優性遺伝子、発現しない方を劣性遺伝子と呼びます。これまで劣性遺伝子は一般に機能を失っているために性質が現れないと考えられてきましたが、同研究グループは、優性の遺伝子から作られる小さな分子(低分子RNA)が、劣性の遺伝子の働きを阻害するという全く異なる仕組みを発見しました。さらに今回新たに、この低分子RNAを構成する塩基(核酸塩基)の配列が変化することによって、特定の遺伝子同士で複雑な優劣関係が生み出されることを明らかにしました。約100年前、遺伝子間の優劣性を決定する因子が進化する可能性について遺伝学者間で激しい論争がなされましたが、今回、その時に想定された仮説の因子が低分子RNAであり、それが進化することを証明しました。

今回の研究は、遺伝子の優劣関係を制御する新たな仕組みを明らかにしただけでなく、有用な遺伝子を働かせたり、有害な遺伝子の働きを抑えたりする技術へと結びつく可能性があり、植物育種への応用が期待できます。

【解説】

子供は両親から一組ずつの遺伝子を受け取るため、父親と母親の両方の性質を持ち合わせることになりますが、いずれか一方の性質のみを示す場合が多く知られています。これはメンデルの「優性の法則」として古くから知られる現象です。各遺伝子は父親・母親由来のもので一対になっており、それぞれを対立遺伝子と呼んでいます。その対立遺伝子間で複雑な優劣関係が生じる場合も知られており、例えば、4種の対立遺伝子(S1S2S3S4 )の間でS1 > S2 > S3 > S4という階層的な遺伝子の優劣関係が見られる場合、両親からS1型とS2型の遺伝子を受け継ぐと子供にはS1型の遺伝子の性質のみが現れます。しかし、S2型とS3型の遺伝子を受け継ぐと、今度はS2型の遺伝子のみの性質が現れます。このような複雑な優劣関係がどのように決まるのかは未解明でありました。

【実験の手法・結果】

(略)

【本研究の意義】

遺伝子に優劣関係が生じる原因については、古くから激しい議論が繰り広げられてきました。約100年前にイギリスの遺伝学者によって優劣関係を制御する架空の因子が進化する可能性が提唱されました。しかし、その後、優性遺伝子は機能を持っているのに対し劣性遺伝子が機能を失っているという説が広く支持されるに至り、そのような因子の存在自体が疑問視されていました。

今回我々が見出した低分子RNAは、過去に提唱された仮説の因子そのものであり、100年を経て半ば忘れ去られていた説がようやく立証されたと言えます。さらに、遺伝子が低分子RNAを獲得し優性遺伝子となっていく道筋も明らかとなりました。アブラナ科植物において発見したこの仕組みは、動植物に広く存在する可能性もあり、今後の研究の進展が期待されます。

また、本知見を応用することで遺伝子の働きを人為的に調節できるようになるため、有用な遺伝子を働かせ、有害な遺伝子を働かせなくする等、新たな植物育種技術としての発展も期待できます。

 

List    投稿者 seibutusi | 2018-08-02 | Posted in ⑧科学ニュースよりNo Comments » 

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