2015-11-08

変異促進機能という概念で生物史を読み解く

生物は同類他者を作り出すことにより外圧に適応してきた。その、代表的な機能が前回取り上げた「雌雄分化」である。

雌雄に分化した系統の生物は著しい進化を遂げて節足動物や脊椎動物を生み出し、更に両生類や哺乳類を生み出した。しかし、それ以前の、雌雄に分化しなかった系統の生物は、今も無数に存在しているが、その多くは未だにバクテリアの段階に留まっている。これは、雌雄に分化した方がDNAの変異がより多様化するので、環境の変化に対する適応可能性が大きくなり、それ故に急速な進化が可能だったからである。このように、雌雄分化の本質は、『変異促進機能』の獲得にある。

この『変異促進機能』という概念で生物史をみていくと、雌雄分化以前からその機能は実現されていることが分かる。

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1. 生物進化の根元にあり、始原生物に近いる耐熱菌(原核生物)
《単純分裂=無性生殖》

耐熱菌の仲間[ウエルシュ菌](画像はコチラから)
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始原生命体に近い耐熱菌の遺伝子は、この後に進化した大腸菌などの遺伝子に比べて、半分以下の小さなもの。そして、そのほとんど(92%)が現在も設計図として機能している。ここでは、生命誕生間もない時期に、ただ命をつなぐことが最大課題で、有り合わせの材料を無駄なく使用し、簡単に分裂できることで適応した。

2. その後進化した原核生物(大腸菌など)
《単純分裂=無性生殖が主だが、接合により遺伝子注入という変異促進機能を持つ、雌雄同体》

大腸菌(画像はコチラから)
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耐熱菌に比べ、普段は使用しない遺伝子をたくさん持っている。この遺伝子の代表は、プラスミド(やファージ)と呼ばれ、細菌の分裂増殖を担う染色体遺伝子とは別れて存在し、サイズも染色体遺伝子よりかなり小さい。これにより、外圧適応のために、変異要素としての遺伝子を他集団と共有。遺伝子交換の方法は、接合と呼ばれる、他集団個体への遺伝子注入や、環境水中に溶存態の断片DNAを利用などがある。

3. 真核単細胞生物(ゾウリムシなど)
《単純分裂=無性生殖が主だが、接合により遺伝子交配という変異促進機能を持つ、雌雄同体》

ゾウリムシ(画像はコチラから)
ゾウリムシ /httpblogs.yahoo.co.jpblowin_blowin_blowin_200819246408.html>

真核細胞になり、原核細胞に比べはるかに複雑になるが、単純分裂で増殖。しかし、500回程度の分裂しかできない。細胞内には、大核=代謝専用、小核=遺伝子交換専用の2つの核をもち、他の個体と接合により、減数分裂した小核遺伝子の交配を行い、それを複数転写して大核遺伝子を総入れ替えすることで変異を実現する。そうすると、また500回分裂できるようになる。

4. 真核単細胞生物(クラミドモナス)
《単純分裂=無性生殖が主だが、同型配偶子による遺伝子交配という変異促進機能を持つ》

クラミドモナス(画像はコチラから)
crami2

もともと、減数分裂をした状態の1倍体遺伝子を持つ個体。普段は単純分裂だが、他個体と合体し2倍体の接合子をつくり遺伝子交配、発芽して減数分裂を行って複数個体を作ることもできる。基本的に全てが生殖細胞(有性生殖も無性生殖も行える)とも見ることができる。

5. 真核単細胞生物の群体(プレオドリナ)
《単純分裂=無性生殖が主だが、異形配偶子による遺伝子交配という変異促進機能を持つ》

プレオドリナ(画像はコチラから)
pleo1

クラミドモナスが、100個程度集まった群体。一部の細胞が生殖細胞になるが、どの細胞ででも生殖細胞になれるという意味で、生殖細胞専門の細胞が出来たわけではない。この生殖細胞は大きく栄養を溜めた雌型配偶子と運動能力の高い雄型配偶子に別れ、それらが接合子を作り遺伝子交配を行う。この配偶子は、運動能力の差はあるが双方とも移動能力を持ち合わせている。

6. 真核単細胞生物の群体(ボルボックス)
《単純分裂=無性生殖が主だが、精子と卵子による遺伝子交配という変異促進機能を持つ》

ボルボックス(画像はコチラから)
ボルボックス

クラミドモナスが、1000~10000個程度集まった群体。それぞれの細胞が細い糸で連絡、群体に分類されている。
ここでは、栄養を溜めため運動能力の無い卵子と、運動能力は高いが極めて小さい精子が誕生し、遺伝子交配を行う。

※これ以降、多細胞化して、体細胞と生殖細胞が明確に分化する殖産分化にいたるが、この段階では体細胞は明確に分化しては無く、どれも生殖細胞とも言える。

7. カイメン(カワカイメン)

ワカカイメン(画像はコチラから)        ワカカイメン(画像はコチラから)
ワカカイメン p3

初期多細胞生物。群体ではなく多細胞生物であるという理由は、

①生殖細胞が分化している。有性生殖も無性生殖も専門の生殖細胞を持つ。無性生殖の場合は芽球と呼ばれる専門細胞を持つ。

②体細胞も分化している、内胚葉、外胚葉に分化。襟鞭毛室という簡易な消化器官ももつ。

の2点で、
ボルボックス等が、栄養細胞を分裂させ子孫を増やす(無性生殖)ように、どの細胞も分裂増殖できるわけではない。

一般的に多細胞生物の細胞は、複雑に機能分化した体細胞を作るために、生殖細胞を起点に、なんにでも変わる多能性肝細胞から、ある機能細胞に分化する肝細胞を経て形成される。そして最終的に分化が完了した体細胞は分裂できない。つまり、当たりまえではあるが、体を作る基は生殖細胞であり、体細胞ではない。

これは、高度に分化した体細胞は、それ自体で大変な機能を担う必要があるため、生殖負担を軽くする必要があること。また、多くの体細胞がそれぞれ分裂増殖していたのでは全体統合ができないことが理由だと思われる。

進化の歴史からすると、

①分化していない細胞が単純分裂する無性生殖

②無性生殖と併用で、

1) 分化していない単純分裂する細胞のひとつが同型配偶子になり、遺伝子交配を行う

2) 分化していない単純分裂する細胞のひとつが異形配偶子になり、遺伝子交配を行う

3) 分化していない単純分裂する細胞のひとつが精子と卵子になり、遺伝子交配を行う

これらの場合の配偶子は、どの細胞も配偶子に変化できるという意味で、生殖細胞に特化しているわけではない。

③多細胞化してから、生殖に特化した細胞と、体細胞の分化が始まるのが主流。

このように、多細胞化の鍵は、生殖に特化した細胞と、生殖負担を免れた体細胞の機能分化にある。

また、変異促進機能は有性生殖の原型でもあり、多細胞化に先立ってこのような機能が獲得されたことにより、明確な雌雄分化ができるようになったとも言える。
これ以外に、ウィルスによる変異促進機能は、原核生物から真核生物まで普遍的に存在する。

List    投稿者 seibutusi | 2015-11-08 | Posted in ⑧科学ニュースよりNo Comments » 

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