2014-09-02

健康・医療分野における微生物の可能性を追求する 03 皮膚常在菌の作用・役割 

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画像はこちらからお借りしました。

健康・医療に対する社会的期待は大きく、次々と新しい技術が開発され、生活環境の向上に貢献してきました。
しかし、実は人間の身体には、生まれた直後から最先端の技術をも凌ぐ健康/医療のエキスパートがいます。それは、常在菌(身体に日常的に存在する細菌)です。
常在菌は、腸内、皮膚表面、口腔内など人体のあちこちの部位に存在しています。そして、種類毎に、あるいは相互に連携しながら、様々な働きを担っています。

今回は、有用微生物を活用した製品による肌への効果を探っていく前段として、肌の健康のカギを握っている皮膚常在菌について調べてみます。

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※特記なき引用文は以下のサイトが出典です。  <常在菌について ドクターズオーガニック>

1.皮膚常在菌の種類 まずは、皮膚表面に存在する主要な常在菌について紹介します。

皮膚常在菌の種類
皮膚常在菌はその名のとおり、皮膚の上に存在する微生物のことです。
身体部位や健康状態、加齢によっても変動しますが、多いところでは皮膚1平方cmに10万個以上もの菌が存在しており、もちろんそれらを肉眼で確認する事はできません。
代表される皮膚常在菌としてはプロピオニバクテリウム属(アクネ菌もこの一種)や表皮ブドウ球菌(※1)、黄色ブドウ球菌、マラセチアなどがあり、2009年にサイエンス誌に掲載された論文では205種類が同定されています。

表皮ブドウ球菌
表皮ブドウ球菌は、皮脂成分のトリグリセリドを脂肪酸とグリセリンに分解します。 この2つの成分が重要ポイント。脂肪酸は酸性であるので皮膚を弱酸性に保ち、アルカリ性が大好きな病原菌が増えるのを防いでいます。

アクネ菌
にきび菌として有名ですが、日頃は表皮ブドウ球菌と同じように働き、皮膚を守ってくれる大切な菌です。
ところが思春期や、食事の内容が肉に偏ったり、ストレスがあって皮脂が過剰に分泌されると毛穴に棲んでいるアクネ菌が異常に増殖し、炎症を起してにきびができてしまいます。

◇黄色ブドウ球菌
身のまわりのあちこちにいて、多くのヒトの皮膚にも棲みついている菌です。
普段はおとなしくしているのですが、皮膚がアルカリ性に傾くとがぜん元気になります。
ひっかき傷やけがのじゅくじゅく、洗い過ぎでお肌がアルカリ性になると増えて、炎症やかゆみを起します。
手の傷が原因の食中毒や、とびひはこの菌が原因です。

◇マラセチア真菌
酵母菌の1種。正常な皮膚では、マラセチア菌がいてもあまり影響がありませんが、脂漏性皮膚炎やフケの原因になったり、デンプウという病気の原因になったりもします。アトピー性皮膚炎の増悪因子であることが報告されています。
(※1)表皮に生息するブドウ球菌は多種存在するが、一般的に表皮ブドウ球菌といった場合、表皮に生息するブドウ球菌の中で皮膚に最も多く分布するS.epidermidisを指す

表皮ブドウ球菌 アクネ菌
表皮ブドウ球菌            アクネ菌

黄色ブドウ球菌 マラセチア真菌
黄色ブドウ球菌                      マラセチア真菌

もちろん肉眼で見える大きさではなく、日頃実感しにくいのですが、1人の人間には、約1兆個、200種類超の皮膚常在菌が存在しているそうです。

2.皮膚常在菌の作用・役割
そして、皮膚常在菌は、人が生まれたときから、様々な作用をもたらしたり、役割を担ったりしてくれています。

◇ヒトは生まれたときから菌と共生している
菌はいつ人間の皮膚にすみつくのでしょうか。
人間は母親の胎内にいるときには無菌状態であり、生まれてくると同時に菌の定着が始まります。
つまり、人間はこの世に生きている限り菌と共生する事を強いられ、それらの菌は生体に様々な影響をあたえます。

◇常在菌が生体に働く作用—拮抗現象—
生体に有利に働く作用として拮抗現象が挙げられます。
拮抗現象とは、すでに数種類の菌で平衡状態を保っているところに新たな病原菌が侵入してきても定着することができないことを言います。
抗生物質の投与などで常在細菌を弱めた状態にすると、投与された抗生物質に耐性のある菌が異常に増殖して炎症を引き起こし感染することがあります。
平衡状態を保つことで常在菌が他の菌から守る大きな役割を果たしている事がわかります。

◇常在菌が生体に働く作用—免疫系刺激作用—
免疫系刺激作用とは、常在菌が免疫系を刺激して免疫能力や抵抗力を強くする作用のことです。
実験で、常在菌をまったく有しない無菌室で飼育した動物は一般に細胞免疫が低いレベルにあることがわかっています。
常在菌とともに共生する事で免疫力の強化につながることを知っておきましょう。

◇常在菌が感染源となるケース
常在菌が不利に作用する場合として主に何らかの理由によって(ストレスなどで)人間の抵抗力が弱まっているときに感染源となり悪影響を人体に及ぼすことが明らかとなっています。感染源になるのは悪玉菌に限らず善玉菌もなることがあり、皮膚表面にいるときは問題がなくても体内では悪影響を及ぼす菌や、抵抗力や免疫力の高低によっても人間に与える影響は異なってきます。

◇皮膚常在菌の役割—拮抗現象—
前述の拮抗現象は皮膚の防御機能に付け加えて、さらに常在菌がバイオフィルムとしての役目を担っているので大きな役割のひとつと言えます。
抗生物質などの投与によって均衡状態が崩れるとまたたくまにその抗生物質に影響されない細菌がとってかわって現れ増殖することで感染が起こることからその均衡状態がいかに大事かということがわかります。

◇皮膚常在菌の役割—静菌作用—
静菌作用も皮膚常在菌の役目のひとつです。静菌作用とは細菌の発育や増殖を抑制する作用のことです。
どのような過程で静菌作用が行われているか知る為にまず皮脂とはなにかについて知らなければなりません。
*皮脂と常在菌のエネルギー源
皮脂とは皮脂腺から分泌された分泌物で、その成分はグリセリド(トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリド)や脂肪酸で60%以上を占めます。
グリセリドとはグリセリンと脂肪酸のエステルの総称でありグリセリンの3個の水酸基すべてが脂肪酸とエステルを形成したものをトリグリセリド、2個の水酸基と脂肪酸のエステルならジグリセリド、1個ならばモノグリセリドである。
イメージしやすいように簡単に説明するとグリセリンひとつに対して脂肪酸が3つ結合していればトリグリセリド、2つならばジグリセリドといったように、結合している脂肪酸の数によって呼び方が変わるということです。

表皮ブドウ球菌などの皮膚常在菌は有機物質を分解する事によってエネルギー(ATP)を生成します。
リパーゼ作用(※2)はそのひとつと言えます。皮膚常在菌はリパーゼ作用を持ち、トリグリセリドを分解して脂肪酸を遊離(※3)することができ、分解する事でエネルギーを生成しています。
トリグリセリドから遊離されたオレイン酸やプロピオン酸などはph5~6(ph0=酸性、ph7=中性、ph14=アルカリ性)であり、それらの酸が皮膚に遊離する事で皮膚表面を弱酸性にしています。
皮膚表面を弱酸性に保つことによって、アルカリ性を好む黄色ブドウ球菌、化膿レンサ球菌などの増殖を抑制し、一方で弱酸性を好む表皮ブドウ球菌やプロピオニバクテリウムといった常在菌の増殖を促進します。
以上のように、皮膚を弱酸性に保つ事によって化膿性炎症や食中毒の源となる黄色ブドウ球菌や化膿レンサ球菌らの増殖を抑制する静菌作用は常在菌の役割のひとつです。

(※2)リパーゼ作用とはトリグリセリドを基質として加水分解を行うこと
(※3)遊離とは環境を変化させてある物質がその環境から出てくること

数種類の菌が皮膚表面で平衡状態を保って病原菌の定着を妨げたり、免疫系を刺激して活性化させたり、皮膚表面を弱酸性に保つことで病原菌の増殖を抑制したりと、良好な健康状態をもたらす様々な役割を果たしています。

ここで注目しておきたいのは、悪玉菌に限らず善玉菌も病気の感染源になること、皮膚表面では有用な働きを担う菌が体内に入ると悪影響を及ぼすこともあるということです。

つまり、“100%善玉菌”や“100%悪玉菌”というものは存在せず、菌の相互作用や存在比率、あるいは存在する部位(環境)など、関係性によってどのようなプラス(マイナス)作用が生じるのです。

3.皮膚常在菌の衰弱⇒どうする?
続いて、皮膚常在菌が機能しなくなるのはどのような時なのかをみてみます。

◇乾燥
菌は乾燥が苦手です。皮膚常在菌も例外ではなく、皮脂や汗が少ない表皮では存在(増殖)することができません。
表皮ブドウ球菌やアクネ菌によって皮膚表面にある皮脂は分解され、肌を弱酸性にする脂肪酸が遊離されますが、皮脂が少ないと遊離される脂肪酸も少なく弱酸性を保つ事ができなくなります。
そうすると、黄色ブドウ球菌などアルカリ性で活発に働く菌が優位になり、肌の炎症をまねきかゆみや湿疹をおこします。

◇運動不足の人
またエアコンの効いた部屋で快適に過ごし、汗をかく習慣が無い人は、汗腺の機能が落ちています。
体温調節のためにエクリン汗腺からでる「いい汗=さらさら汗」は、99%が水分で残りは塩分、ミネラル、乳酸、尿素などです。身体に大切な成分は無駄にしないようにと、汗腺にはミネラルなどを再吸収するシステムがありますが、汗をかき慣れていない人ではその機能がうまく働かず、ミネラルたっぷりの汗をかいてしまいます。
ミネラル分の多い「悪い汗=ねばねば汗」はアルカリ性で、上記と同じように黄色ブドウ球菌が多く分布する事で優位になりかゆみ湿疹を起します。

◇洗い過ぎが及ぼす影響
水での洗顔で皮膚表面の細菌はほとんど流れ落ちてしまったかのように見えます。
しかし、通常は毛穴の中などに残っていた菌がすぐに増え始め、30分から2時間ほどで元に戻ります。
ところがクレンジングや洗浄剤を使って洗顔すると、肌はアルカリ性に傾きます。クレンジング剤は菌だけでなく、まだはがれ落ちるには早い角質細胞や細胞館脂質まで洗い流してしまうので皮膚は極度に乾燥します。
乾燥してアルカリ性に傾いた皮膚では、表皮ブドウ球菌やアクネ菌は増える事ができません。
皮脂が洗い流されてしまっている上に、菌の数が足りなくて、新たに出てきた皮脂を元に作り出される酸性物質が少ないため、肌は弱酸性になかなか弱酸性にもどりません。バリア機能も保湿能力も失われてしまいます。

乾燥、運動不足、洗い過ぎなどによって身体の生理的循環が滞ると、皮膚常在菌の平衡状態が崩れて、本来の役割を果たせなくなるのです。
特に洗い過ぎ→過度の清潔志向は、常在菌を含むすべての菌を除去することに繋がり、病原性を持つ菌が極めて侵入しやすくなる環境をもたらす危険性があります。
【参考】
お尻を洗いすぎる女たち(行き過ぎた清潔志向の問題)
toilet_washlet
画像はこちらからお借りしました。

現代社会では、機械(ex.空調機)や薬剤(ex.化粧品)などに頼った“快適性”、“利便性”、“快美性”を追い求める生活が主流になっていますが、その結果、遙か昔から人類の生命活動を支えてきてくれた常在菌のバランスを破壊し、自ら健康問題を引き起こしています。

しかし、人類は細菌(常在菌)とともに歩んできた存在です。
近年、常在菌への注目が高まり、その役割や働きの解明が進んでいますが、“善悪二元論”的に捉えたり、単体の働きのみに注目して、“○○菌が身体にイイ!”という発信が大勢を占めています。
しかし、常在菌(細菌)の持つ能力は、菌相互の連携や役割分担、あるいは存在する環境との関係から生み出されます。

今一度、常在菌との共生によって生かされているという認識のもと、本シリーズでは、実験や調査によって、この共生関係を最大限に活かす方法を追求していきたいと思います。

 

List    投稿者 seibutusi | 2014-09-02 | Posted in ⑩微生物の世界No Comments » 

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