iPS細胞の可能性と壁
みなさん、こんにちは。
今回は「iPS細胞」について調べて行きます。
「iPS細胞」の「i」が小文字なのは、「iPhone」のように世界的に広まってほしいとの思いが込められているのです。みなさん、ご存知でしたか???
その思いが叶ったのか、京都大学iPS細胞研究所をはじめ世界的に開発が進められています。まだ実用化までは道のりが遠いですが、広まり方はまさに「iPhone」なみと言っても過言ではありません。
実はこれまで生物史ブログでも何度か扱いましたが、前回記事から大分時間も経過しておりますのでここで改めて「iPS細胞」って何?から始まり、その開発経緯、最後に最新情報をご紹介したいと思います。iPS細胞を知っている方も、知らない方も是非読んでいただきたい内容です。
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人間の皮膚などの体細胞に、極少数の遺伝子を導入し、数週間培養することによって、様々な組織や臓器の細胞に分化する能力とほぼ無限に増殖する能力をもつ多能性幹細胞に変化します。この細胞を人工多能性幹細胞 (induced pluripotent stem cell:iPS細胞)と呼びます。名付け親は、世界で初めてiPS細胞の作製に成功した京都大学の山中伸弥教授です。
体細胞が多能性幹細胞に変わることを、専門用語でリプログラミングと言います。山中教授が見出したわずかな遺伝子の操作でリプログラミングを起こさせる技術は、再現性が高く、また比較的容易であり、幹細胞研究におけるブレイクスルーと呼べます。
「iPS細胞」とは、、、簡単にいうと自分の皮膚の細胞から作った「何の細胞にも変化できる細胞」のことです。何らかの障害・負傷を負った細胞・部位に付加することで、当該部位の細胞が増え、これまで移植に頼らなければならなかった臓器までも修復できる。まさに画期的な細胞なのです。この研究・実用化が進めば、再生医療の観点で様々な病気・怪我の改善に大きな可能性が見出されます。現在、研究は進行中ですが、これまでも同じ目的で開発されたES細胞という細胞がありますが、決定的に違う点があります。iPS細胞が注目される理由もそこにあります。ではその辺りの経緯を見てみましょう。
iPS細胞を知るためには、まず「幹細胞」について知っておく必要があります。少し前まで、再生医療と言えば「ES細胞」(Embryonic Stem cells=胚性幹細胞)でした。iPSの親戚?と思う人もいるでしょう。いずれも幹細胞の仲間。作り方が違います。
ES細胞は、胚性という言葉が示すように、受精卵(胚)を人工的に細胞分裂させ、ある段階まで来た時に内部にある細胞の塊(胚盤胞)を取り出してさらに育てて作ります。幹細胞は、臓器・組織の元になるとの意味で「幹」という言葉を使います。
ES細胞があるのなら、それを使えばいいじゃない!?と思いますが、実は、その作り方をめぐって様々な意見があります。先に書いたようにESは受精卵を材料にしています。「生命の始まりである受精卵を壊すのは倫理的に問題」と思う人がいても不思議ではありません。「人の命を救う医療の進歩に貢献する」この大義の一方で、生命倫理もないがしろにできない、という状況にあるのです。
であれば、受精卵を使わずに、別の方法でESと同じ万能性のある細胞を作れば、問題は一気に解決します。世界中の科学者がそう考えたのです。そして、京都大学の山中伸弥教授が世界で初めて実現しました。それがiPS細胞です。
神奈川県予防医学協会 https://www.yobouigaku-kanagawa.or.jp/kenkana/491.htm
考えてみればそうです。人は男性の精子と女性の卵子からなる「受精卵」から出来ていますから、そこに新しい遺伝子を加えればどんな細胞にも分化誘導が可能です。しかし倫理面での壁はどうしても否めません。ここにこそ「iPS細胞」のメリットがあるわけです。
しかし、そんなiPS細胞も乗り越えなければならない壁があります。それは「ガン化の可能性」です。ES細胞がなぜできたのか、iPS細胞との違いはこちらがわかりやすいですので是非ご覧ください。
http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=600&t=6&k=0&m=265032http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=600&t=6&k=0&m=265033
http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=600&t=6&k=0&m=265034http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=600&t=6&k=0&m=265035
細胞の中に遺伝子を運び込むためには「ベクター」が必須。「ベクター」とはウイルスのことであり、要は細胞にウイルスを感染させることによって、目的の遺伝子を導入している。(もちろん、病原性は無い)
しかしベクターを使用することに問題があり、遺伝子がランダムな位置に導入されてしまう(元々細胞に存在している遺伝子発現に悪影響を及ぼす危険性がある)。さらに、分化を戻すために導入された遺伝子がそのまま細胞に残り続けてしまう。
これらの要因もあり、細胞が正常な機能を失い、がん化してしまうリスクが高い。
http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=600&t=6&k=0&m=265035
このように、遺伝子を組み込むことよりガン化する危険性が孕んでいることが現在大きな壁となっているようです。逆にガン化しにくい細胞(目や毛)への実用化は進んでおり、再生医療の現場にいよいよ現れてくるといったところです。最後にその目や毛などの再生医療含め、現在の実例情報をいくつか紹介して終わりにしたいと思います。
①毛包の再生に成功慶応大医学部の大山学専任講師(皮膚科学)らの研究チームは23日、人間の人工多能性幹細胞(iPS細胞)を利用し、毛をつくったり支えたりする「毛包」を部分的に再生する実験に成功したと発表した。脱毛症に対する新しい治療の開発に向け、可能性が示せたとしている。
http://sankei.jp.msn.com/science/news/130124/scn13012410050001-n1.htm
②加齢性黄斑変性の治療研究が前進 理化学研究所(野依良治理事長)は28日、体のあらゆる細胞になる力を持つ人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使い、視力が低下する難病「滲出(しんしゅつ)型加齢黄斑変性」の臨床研究を行う計画を厚生労働省に申請した。厚労省が計画を認めれば、2013年度中にも研究を始める。iPS細胞を使った世界初の臨床研究となる見通し。
http://www.worldtimes.co.jp/today/kokunai/130301-1.html
③iPS細胞から血液のもとになる細胞東京大学の研究チームは、ヒトのiPS細胞(人工多能性幹細胞)から、血液のもとになる造血幹細胞を、マウスの体内で作ることに成功したと発表した。
骨髄にある造血幹細胞は、赤血球や白血球といった血液細胞のもとになる細胞で、免疫不全症や白血病など、骨髄移植が必要な血液疾患の治療のため、iPS細胞から作り出すことが期待されている。
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00246004.html
①iPS細胞とは、人の皮膚に遺伝子を加えて作る、どんな細胞にも分化誘導できる万能細胞である。
②受精卵を傷つけて作るES細胞は倫理的な問題があるため、
③人の皮膚から作るiPS細胞は倫理面の問題は少なく、その分、期待が寄せられている。
④しかし、生成時に遺伝子を加えることでその後、細胞がガン化するの可能性がある為その問題をクリアすべく多方面で動物実験、臨床試験が行われている。
⑤加齢黄斑変性、毛胞、血液などの研究・実用化が進んでおり、いよいよ再生医療の現場で活躍が見込まれる。
まとめるとこのようになります。
なんでこれほどまでにIPS細胞が注目されるのか? ご存じの方も初めて知った方も、少し理解いただけたでしょうか。皮膚から作ることがメリットであり、一方でガン化の可能性を立証することが大きな課題です。成人病始め、内臓系の病気は最も多いでしょう。しかし、内臓系はガン化の可能性も高いことより実用化へは時間がかかりそうですね。
とはいえ、10年もすれば、再生医療の現場は画期的な進化を遂げているでしょう。
最後に、脳の細胞もiPS細胞で増やすことができれば、みんな使いたがるだろうか。なんて冗談を言っておしまいにします。
今後の実験・実用化のニュースには注目です。
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