2012-12-30

君もシャーマンになれるシリーズ18~危機察知⇒予測思考を可能にする第一歩は、外圧の変化(自然、種間、同類)に適応すること

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画像はコチラ皆さんこんにゃちは
1ヶ月ぶりの”君もシャーマン”シリーズです。
■前回・これまで
 これまでの追求により、天敵からの回避、群れの仲間に対する認識、全体像把握は右脳の働きだとということが分かってきました。
■疑問・仮説
 生物は危険から身や集団(仲間・家族)を守るべく、どの様にして右脳の機能・回路によって危機を察知し、予測思考を可能としてきたのでしょうか。
ここで、予知・予測思考をする上で、いかに外界情報をキャッチする感覚回路を向上させられるか、その情報を元に適切な判断・対応が出来るかが重要だと推測できます。今回は、右左脳分化が始まった脊椎動物における脳の機能進化を中心に探索することで、予知予測思考を可能にした脳の進化過程とその仕組みを解明していきたいと思います。

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①生物史からみる、外部環境の認識機能の特徴と機能進化
 そもそも、生物がどのように外部環境を捉えて行動しているのかを知るために、外識機能をおさえていきましょう。生物の根源である単細胞生物から遡って見ていきます。

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単細胞生物:文字通り、たった一つの万能細胞。受容体から特定の物質の濃度を感知し、その濃度勾配によって行動する(走化性)。外部環境に行動が左右される。
棘皮生物:全身に神経細胞が分散。クラゲは何かに触れた場合、意思に関係なく神経針が出る仕組みを持つ。ヒトデは既に仲間を認識出来るとも言われているが、脳はまだ持っていない。
脊椎動物(魚類):右左脳に機能が集約される。視覚はもちろん、聴覚、側線感覚をたよりに、振動や音を感じ取り、回避行動を取る。
脊椎動物(ほ乳類):五感から得た情報を元に、脳機能が複雑化・集約され、特定の部位毎に役割分化されている。外部からの刺激に対し、多様な反応を示せるようになる。

 単細胞生物の段階では、走化性に見られるオートマチックな行動・反応を示しています。外界認識から行動を起こすまで、全てたった一つの細胞で行います。
それが徐々に感覚回路による外識機能が“複雑化“し、脳がそれら認識機能の“統合役“を担う様になり、役割分化をしながら諸機能を発達させてきました。そのおかげで、生物は外圧に対し多様な反応と行動をとることが出来る様になったことがわかります。

②危機を察知するための“感覚回路”はどう進化してきたのか
 走化性に見られるような行動では、外界の環境変化によっていとも簡単にその種の生物は絶滅してしまいます。そこで全ての生物は、より多くの外界情報をキャッチし多様な行動が取れるようになるために、感覚回路を進化させてきました。今回はとりわけ重要とされている感覚回路の嗅覚器と視覚器にクローズアップしてみましょう。

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最初にできた感覚器と言われている嗅覚器
 元来は化学受容器にて味物質やにおい物質を感知する器官が分化しておらず、1つの器官でまとめて感知していました。それが生存競争の激化により分化していきました。味覚器は接触刺激であり、主な役割は“毒見“で、生きていく上で必要な食べる行為における重要な役割を果たしています。
嗅覚器は離れたところにある敵、獲物の臭いなど“遠隔刺激”を感知することが出来ます。味覚・嗅覚の役割分化も凄まじい生存競争の中での生物の大きな進化といます。

視覚器は「食べる・食べられる」の闘争圧力を加圧した
 眼を獲得した動物達は、世界と他の動物達をはっきり認識し、互いの力関係が眼に見えるようになりました。光の認知から光を使い外界の像を認識するという認識機能の大転換を生み出しました。防御のために殻を硬くしたもの、威嚇のために大きく伸びた角のような突起を伸ばしたものや独特の原色を持つものを認知出来るようになりました。
つまり、眼の誕生は「食べる・食べられる」という関係を作り出し、外敵闘争圧力を加圧したと言えます。

このように、外的要因の変化に対応するために感覚器を発達させ、生物の進化を助けてきたと考えられます。

③生物は危機が 迫ってきた時、どうやって対応しようとするのか。
 感覚回路を進化させた生物は膨大な情報が入って来るたび、毎回判断に迫られると脳の負担はとても大きく、判断が出来ないorぶれることが推測され、情報の取捨選択が必要になってくると考えられます。
右左脳分化をした脊椎動物の魚類⇒爬虫類⇒猿人類の発達してきた脳回路を使って、生物の反応回路を具体的に見ていきましょう。

魚類の危機察知

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 魚は外部刺激を、視覚はもちろん、聴覚、側線感覚をたよりに反応しており、それらの感覚刺激に対して逃避行動を起こします。視覚、聴覚、側線感覚からの情報を延髄で受け取り、その興奮は反対側の脊髄に伝わり、筋肉を収縮させて刺激とは反対の方向へと反射的に進むことが出来ます。
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 サカナには危機に対応する特徴的な行動として「群集行動」があります。群れることで外敵から身を守るという進化適応を獲得しているのです。「群集行動」は反射的な逃避行動よりも、もっと高度な進化形態と考えられますが、この「群集行動」は脳のどの部位が司っているのでしょう。
 最近の生物分子学や遺伝子分析等の研究から、「群れ」(順位性群れや同位性群れ)や「縄張り」の行動が、サカナの脳の扁桃体(の片鱗のようなモノ)を主体とする辺縁系が関わっていることがわかってきています。サカナの群集行動は、危機対応であると同時に同類(仲間)認識でもあり、それがほ乳類の扁桃体の原型となる領域が司っていると考えられるのです。

爬虫類の危機察知

 爬虫類の特徴を見てみると、脳と舌による温度・ニオイ感知などの感覚機能を相互に連携させて発達し、危機察知や防御力を備えてきたといえます。中でも臭いは原始脳初期の感覚機能の一つで、判断の中心になっていると考えられます。
魚類以降の集団性は獲物を仲間と分け合うワニ等知能の高い生物に見られ、トカゲ等の逃避能力は擬態や偽死・自切を行う危機判断に見られるように適応力に優れ、魚類以降、外圧適応する中で脳と感覚機能の発達は数段上昇しています。

猿人類

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 哺乳類、とりわけ猿・人類にとって、なんらかの外部環境から危機を回避する上で、大脳辺縁系の扁桃体が重要な役割を果たしています。
 扁桃体は大脳辺縁系の下に位置しており、快・不快を判断するのが主な役割です。視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚など感覚回路で得た情報は、大脳皮質から扁桃体に伝わり、快・不快が判断され、これに基づき逃避・攻撃行動が取られます。自己の生存にとって、“有益”か“有害”かを判断するのに利用します。
 例えば、扁桃体を破壊された猿は、通常見ただけで恐れ逃げたり、怒って攻撃をするヘビやクモなどを見た場合でも、恐れや怒りの反応を示さないどころか、口に持っていき食べようとします。生存上有益か否かの判断が狂ってしまう行動は、扁桃体が機能していない人間でも同じく見られます。
 情動を司る扁桃体は海馬と隣接しており、記憶へ関与していると考えられています。記憶が感情によって強化されるというのは誰でも感じることですが、脳回路上はこの2つの器官の繋がりが影響しています。扁桃体(と海馬)を持つ猿・人類は、外部からの生情報に対して、扁桃体を起点に、過去の記憶を手がかりにしながら(無意識に)最適な行動をとっていると考えられます。
 扁桃体は上記のような個体の危機行動に影響を及ぼすだけでなく、相手の表情から意図を読み取るなど社会的認知行動にも影響を与えていると考えられています。

◎まとめ

初期生物は、危機に対して即座に答えを出すために、感覚回路からの情報を即座に運動神経に伝達する危機回路を発達させてきました。この原初的な危機回路は、判断軸が物質的特性に拠るため、自然外圧に対しては適応的ですが、外敵などの種間闘争に対しては十分ではありません。

 そこで、脊椎動物から哺乳類の段階で、過去の経験から得た危機回避の判断軸を扁桃体・海馬の情動・記憶器官に持たせ、より適応的な行動を取ることを可能にしました。そして、同類同士の闘いが主戦場となる猿・人類の段階では、仲間や敵の状況、意図を正確に理解することが、集団同士の闘いに勝つ上で有効だったと考えられます。
生物は、外圧の変化(自然、種間、同類)に適応するため、危機回路を進化させてきたんですね。

最後まで読んで頂いた皆さんありがとうございました。
次回シャーマンシリーズは、危機回避・適応的行動を取るための判断を司る、扁桃体・海馬について追求していきます!
来年も宜しくお願いします。

List    投稿者 haneda | 2012-12-30 | Posted in ④脳と適応1 Comment » 

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コメント1件

 我無駄無 | 2015.06.18 0:13

脳幹の持っている可能性について、検索したところ、こちらのページを見つけて、読んでいます。

脳の働きから「シャーマン」の可能性を考察するのがコンセプトのようで、極めて興味深いです。

あと、このページでは、「危険予知」について書かれていますが、このテーマで気にかかるのが、「葛西臨海水族園でのマグロの大量死」でしょう。

この現象の原因は不明で、ウィルスが発見されたというニュースもありましたが、その後なにもないまま、桝添都知事が謝罪してまたマグロが回遊水槽に入れられるようです。

で、問題は、件のマグロたちが何かの危険を察知して、それから逃れようとしているのが、原因なのではないか。

ということです、ただ、彼らがいるのが自然の海ではなく閉鎖的な水槽の中のため集団で逃げようとすると、結果的にガラスの壁面にぶつかって、それで彼らは死んでいく。

これが、真相かもしれません。では、彼らはどんな危険を察知しているのか、それが問題ですが。

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