2011-08-06

「みんなが知りたい!原発と生物シリーズ」2~人工放射線と自然放射線は何が違うのか?

地球誕生、そして生物誕生の歴史を振り返ると、原初から地球上には自然状態において放射性物質が存在していた事が解っています。しかし、生物進化の過程は、地表面上での放射線濃度の低下と共に進んできています。これはつまり、生物進化は放射線耐性とは相容れない関係の中で進んできた事を意味しています。
放射線耐性の強さは、生物種ごとに大きな差異があり、概ね多細胞化が進み、複雑な体細胞分化の方向へと進化した生物程弱い。これは、放射線感受性の比較によって表されます。例えば、人類を含む哺乳類では5 Gy(Gyとは1 kgの物質が放射線から1 Jのエネルギーを吸収した場合の線量)で半数が致死に至るのに対して、腸内細菌の代表格である大腸菌の場合は、その10倍=50Gy程度の耐性を持つ事が解っています。
放射線耐性細菌の中には、ヒトの3,200倍にもあたる16,000 Gyというとてつもない強さをもっているものも存在しますが、その強さの秘訣は殆ど解っていません。仕組みが単純であるだけでなく、修復酵素の働きによるDNA修復機構の強さなどが関連していると予測されています。
09_05.jpg
放射線抵抗性細菌デイノコッカス・ラジオデュランスの電子顕微鏡写真
しかし、いくら放射線に強い生物の存在が確認できたとしても、それらは極僅かな種に限られた話であり、大腸菌のような原核単細胞生物であっても50Gyも浴びれば大半は死滅してしまうというくらいに、【生物は放射能耐性を獲得していない】、という事に焦点を当てるべきなのでしょう。
ここで、改めて自然放射線と人工放射線との違いを整理しておきましょう。
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◆自然放射線
・地球起源核種
地球誕生のとき生まれた放射性核種。その大半は、放射線を出して安定な元素に移行したが、寿命の長い放射性核種が今も残って放射線を出しています。
代表的なものは下記の通りです。
  名前     記号    半減期
カリウム40   40K   12.7 億年
ルビジウム87  87Rb   475 億年
トリウム232  232Th   140 億年
ウラン238   238U   45.0 億年
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[ウラン鉱石]
・宇宙線起源核種
地球に降り注ぐ宇宙線によって絶えず生成されている放射性核種。これらは、固有の半減期で他の元素に変わって行きますので、環境には生成量とバランスしたほぼ一定量が存在します。
代表的なものは下記の通りです。
 名前     記号  半減期  主な生成反応
トリチウム   3H    12.3年  窒素の破砕反応 14N(n,12C)3H
ベリリウム7  7Be  53.3日  酸素や窒素の破砕反応
炭素14    14C  5,730年  窒素の破砕反応 14N(n,p)14C
ナトリウム22 22Na   2.6年  アルゴンの破砕反応
◆人工放射線
殆どが核実験及び原子力発電により生成され環境中へ移行した放射性核種の事を示す。
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フランスの核実験
核分裂により生成される放射性核種は数100種類に及びますが、その大部分は半減期が短いか、 あるいは生成量が少ないため、人間の被ばくに関与する核種は限られます。
重要な核種としては、ストロンチウム90(90Sr)、ジルコニウム95(95Zr)、ルテニウム106(106Ru)、セシウム137(137Cs)、セリウム144(144Ce)など。
核分裂生成物のほかに、原子炉内で中性子照射で生成される放射性核種の代表的なものとしてコバルト60(60Co)、炭素14(14C)、トリチウム(3H)など。
その他に、夜光時計や煙探知器など微量の放射性物質を含む民生品、また、医療用や研究用の放射線利用施設で扱われるものなども微量ながら存在します。
■何が違うのか?
自然放射線も人工放射線も、どちらも核分裂時に放射線を放出するという点では、全く同じものです。しかし、人工放射線と言われるものは、自然界には殆ど存在しない物質である、という所が最大の問題点となります。
上記で説明したように、自然状態ではほぼ発生しないような放射性核種が100種類以上も生成されるという事自体が、生物進化の歴史上には刻まれていません。つまり、其の様な環境状態に即座に適応する能力等、当然ながら獲得していません。しかし、これら人工放射性核種は生物が必要とする元素と同位体のものも存在する為、仮にそれらが大量に拡散した場合、生体内には必要な元素と認識されて取り込まれてしまう事になります。
一般的に、天然由来のカリウムにおける成人男子(体重60kg)の人体あたりの放射能強度は約4000ベクレル(Bq)、内部被曝量は年間0.17ミリシーベルト(mSv)と言われています。ここに、放射性ヨウ素や放射性セシウム(カリウムの同位体)等が加われば、適応限界を超えた放射線を内外部から浴びることになる。
つまり、人工放射線とは自然の摂理を超えた放射線量を放出する危険な物質であり、自然界において数100種もの放射性核種を発生させるような環境を作れば、必然的に想定外の環境破壊をもたらすものである、という事が最大の違いだと言えます。
◆放射線と生物の関係
宇宙空間では常にどこかで核爆発(超新星誕生や太陽フレア等)が起こっており、そこで発生した放射線(宇宙線:μ粒子線、電子線、γ線、中性子線、π中間子線等)は絶えず地球上にも降り注がれています。これらの多くは、地球上の大気形成の歴史と関わりが深く、オゾン層が形成されて以降は、多くの放射線が吸収され、地表面にまで届く量は極僅かに留まるようになりました。
また、原始地球の大地にも放射性物質は存在しています。しかし、これもまた大気中の酸素濃度上昇と合わせて、ウランの酸化⇒水溶性転換と共に地中深くへ溶け出し、地表面上の放射線量は低下していったようです。放射線とは原子の持つエネルギーが安定へと向かう為の挙動であり、そこで放出される中性子等が細胞に当たれば、当然物性の変化を及ぼす訳ですから、細胞の集結により安定を保とうとする生物にとっては脅威となるのは明らかです。
ただ、自然状態でも一定量の放射線は存在しており、カリウム40(天然カリウム中に0.0117 %の割合で存在)や炭素14といった物質は人間の体内にも常に存在し、放射線を放出しています。例えばカリウムは、生物が体内組成を創りだす上での必須元素の一つであり、脳および神経などにおけるニューロンの情報伝達に重要な役割を果たす電解質として使われています。この神経系への関連は、生物の多細胞化の実現過程において、カリウムが必須元素となったと考えられます。
つまり、生命活動を行う上では無くてはならない物質ではあるが、それらを取り込む事によって同時に被曝を受ける、つまり細胞やDNAレベルでの損傷も受けるという矛盾を抱えており、この矛盾を乗り越える為に修復酵素による遺伝子変異の修復機構等を、進化の過程において獲得してきたのだと考えることができます。
生体活動とは、細胞膜等で囲われた内部空間、いわば自然環境とは異なる状態においてエネルギーを生成する仕組みの実現であり、その代謝活動を安定的に行うと同時に、外圧変化に対応すべく変異を続けていくという極めて困難な仕組みの上に成り立っています。そして、ここでの変異とはあくまでも安定を保つための範囲に限定される訳で、安定の範囲を超えて変異が促進されれば、それは単なる癌細胞となってしまう訳です。
よって、自然放射線と生物との関係性を見た場合、生物が進化・適応可能な調和的な条件下に抑えられている範囲内に限って、安全であると言える事になります。これは、生物40億年の歴史において実現してきた環境共生の結果であって、自然放射量に合わせた修復機構を、長い時間をかけて獲得してきた進化の積み重ねによるものです。
一方で、人工放射線は自然状態においては殆ど発生し得ないエネルギー反応を強制的に原子炉等の特殊空間内で発生させる事によって創りだされます。特に原子炉内部では、連続的に核分裂反応が起こりやすい状態を意図的に形成しているが故に、凡そ地球が40億年以上かけて創り出してきた安定的な大気や海洋、土壌の状態では決して起こらないような核反応を引き起こし、常に不安定な状態(=放射線を出し続ける状態)を保つ事がその秘訣となっているのです。
しかし、その副産物として生み出される放射性ヨウ素131(半減期8.06日)、ヨウ素133(半減期20.8時間)を、天然由来の非放射性ヨウ素と見極めるような機構を獲得した生物は存在しない。カリウム類似であるセシウムに関しても同様。つまり、生物にとって必要な元素としか認識されないこれらの放射性物質は、いとも簡単に生体内に取り込まれ、生体内部で想定外の被曝を受けることになってしまう。
当然、この被曝は、修復機能を超えた変異(破壊)を次々に発生させる為、結果として次のような事が起こってしまう。これが人間にどのような影響を与えるかについて、疫学的な「状況証拠」がピッツバーグ大学のスターングラース教授によって提出されている。

1958年以来運転しているシッピングポート原子力発電所の周辺でのガンの発生率を、ペンシルバニア州保健省の資料を用いて調べたものだが、58年以来10年間に、アメリカ全体ではガンの発生率は8%増、ペンシルバニア州全体では11%増であったのに対して、この発電所からオハイオ川沿いに1マイル下流のミドランドという町では184%増、35マイル下流の町で35%増、シッピングポート周辺から牛乳の供給を受けているピッツバーグ市で31%増、シッピングポートを含むビーバー県全体では39%増となっている。

これらの癌化作用は、原発の冷却水に含まれた人工放射性核種が、生物の食物連鎖を通じて生体濃縮を起こした結果と考えられている。
◆単細胞生物ほど放射能には強い?
生物進化の過程においては、一部の放射性核種は生体活動上の必須元素として活用されてきましたが、それらは謂わば外圧適応・外敵闘争の為の機能進化が齎した結果(変異の促進とその結果として表れる限界や矛盾を乗り越える為の修復機構)によるものであり、進化するにつれて複雑化の道を辿る事になりました。この、高度ではあるが複雑な仕組みこそが、耐放射性という観点においての最大の弱点となってしまたったのです。
生物界全体を見渡すと、哺乳類とは比較に成らないほど強い放射線耐性を持ち得ている生物群が確認されていますが、それらはいずれも単細胞生物や万能細胞によって構成されている植物等に限られます。次回の記事で、いくつかの事例を紹介します。
これら、放射線耐性の高い生物の存在は、既に大量の放射性核種が散乱してしまった日本の土壌や水田等の放射性除去に大きく貢献してくれる可能性が高く、今後最も注目すべき存在とも言えるかもしれません。
つい先日も、嬉しいニュースが飛び込んできたところです。 😀
バクテリアの除染に効果 飯舘の水田、線量が大幅低下(福島民報)」

 南相馬市、飯舘村で微生物を活用した除染実験に取り組んでいる田崎和江金沢大名誉教授(67)は2日、放射性物質を取り込む糸状菌のバクテリアを発見した同村長泥の水田の放射線量が大幅に下がったと発表した。南相馬市役所を訪問し、桜井勝延市長に報告した。
 水田の表面は毎時30マイクロシーベルトの高い放射線量だったが、7月28日には1桁台に下がっていた。水田では無害のバリウムが確認されており、田崎名誉教授はバクテリアの代謝によって放射性セシウムがバリウムに変わったとみている。
 金沢大低レベル放射能実験施設で水田の土1キロ当たり447ミリグラムのバリウムを検出した。バリウムは通常、土壌からは検出されないという。今後の除染実験に使用するため、バクテリアの培養も行っている。
 同村長泥の放射線量が高い湿地で根を伸ばしたチガヤも確認した。根にはカビ類が大量に付着、除染効果との関係を調べる予定。
 南相馬市原町区の水田では、バクテリアと、粘土のカオリナイト、ケイ藻土の粉末を使って稲を栽培、除染効果を確認している。

■まとめ
生物が進化の過程で獲得してきた耐放射性能力は、極めて微量の放射線に対するものでしかない。微量であれば、修復機構や免疫機能によって適応可能であるが、原発によって発生する大量の人工放射線への耐性は、ほぼゼロ。しかも、地上での外敵闘争の結果としてより高度な体細胞分化(生体機能の高度化)へと進化した高等生物ほど、弱い。
既に福島原発事故により大量に拡散してしまった人工放射線は、即座に対処できる代物では無く、また自然に任せていても簡単には安定することの無い、極めて厄介な物質である事は間違いありません。
それでも尚、原発が必要だと言い続けるのならば、これら人工放射線に対する万全の防御体制を先に構築しない事には、先には進めません。
観念進化の方向性として、改めて自然の摂理に学び、生物全般にとっての安全性、快適性といった認識を根本から見直す機会に立たされているのでしょう。

List    投稿者 kawait | 2011-08-06 | Posted in ⑪福島原発問題2 Comments » 

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コメント2件

 匿名 | 2013.05.18 9:26

味噌を摂取することによる効果には注目したいと思いますし、引用記事もよい情報だと思います。しかし、引用される方が、放射線、放射能、被曝、被爆について正しく用語を整理されていないと、すべて眉唾な情報に聴こえてしまいます。

 マグネットフォース | 2013.05.21 14:07

味噌、納豆等の大豆系発酵食品にはセレンというミネラルが多く含まれてる。
セレンはガン抑制効果が認められてる。
過剰症もあるから気を付けるべし
http://mineral.e840.net/m112500.html
http://www.nattou.com/topics/faq.html
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%91%B3%E5%99%8C

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