雌雄の役割分化9 哺乳類の集団形態(事例紹介)
哺乳類は、雌雄の差別化をより推進させていった生物です。
その結果、雄は闘争負担、雌は生殖負担をより多く負うようになりました。特に雌は、「体内保育(胎生)」と「産後保護」という他の生物には見られない特殊な生殖負担を負っています。その結果、哺乳類の集団形態は『内雌外雄』と言われる様式をとるようになりました。
基本の集団形態はこの様式ですが、種によって生殖負担の度合いは異なるし、晒されている外圧も違います 🙄 。
そこで、進化系統樹から主観なく選んだ10種類の哺乳類の集団形態から、普遍的な部分と外圧により特殊化していった部分を分析していきます。
今回は、事例紹介を主にし、分析は次回に行ないます。
その前に復習として、これまでの記事も併せて覗いてくださいね
【過去シリーズ記事】
雌雄の役割分化 1 ~雌雄分化って何?~プロローグ
雌雄の役割分化 2 ~単細胞生物の「接合」~
雌雄の役割分化 3 ~雌雄分化の第一段階=殖産分化~
雌雄の役割分化4 ~雌雄分化の第二段階=精卵分化~
雌雄の役割分化5 ~雌雄分化の第三段階=雌雄躯体分化~
雌雄の役割分化6 ~雌雄分化の第三段階=躯体分化(特殊編)~
雌雄の役割分化7 ~オスとメスが決まる仕組みとその進化~
雌雄の役割分化8 ~雌雄分化の中間まとめ~
【図:哺乳類の進化系統図】
大きな図はコチラからダウンロード
分析した種類は下記の10種です。
■モグラ
■ネズミ
■カンガルー
■オオカミ
■ウマ
■ゾウ
■ネコ
■コウモリ
■クジラ
■シカ
では、それぞれの特徴をみていきましょう!
■モグラ
基本的に集団は作くらず単独生活。無益に争うことは少ない。
繁殖期になると、オスはなわばりの境界をこえて、広く出歩くようになる(繁殖期のオスのなわばりは、メスの3倍におよぶ)。その際、雄や子どもを生む用意ができてない雌に出くわすと縄張り闘争が起こる。縄張り闘争に負けた雄は、縄張りを失うこととなり(食糧を得ることができず)死んでしまう。以上により、雄の淘汰が行なわれ、結果的に内雌外雄の集団形態を作る。
■ネズミ
ネズミは集団を形成し縄張り(テリトリー)を持ち、自分達の地域内への他の集団の侵入を許さず餌の確保を行っている。また、この縄張りの外にさらに広い行動圏(ホームレンジ)を有している。行動圏は主として餌を求めて歩く範囲であって、他集団のネズミとの争いがあっても縄張り争いほど激しくは争わない。
オスは縄張り意識が強く、ボス集中婚の集団を形成するものが主流。乱婚や、一対婚も部分的に存在する。
■カンガルー
アカカンガルーは群れを作って生きており、最大で約100頭程度になる。群れの固定度は低く、放浪するものもおり不定形。婚姻様式はボス集中婚(群れの優位の雄が数匹の雌と交尾する)。優位なオスは他の雄から売られる喧嘩には必ず勝たなければならない。天敵は(人間とオオイヌワシを除くと)ディンゴのみであり、制覇種とも言える。
■オオカミ
オオカミは複数の雄と雌で構成されている群れで生きている。その構成要素はパックと呼ばれる優位のつがいとその子供たちであり、それぞれのパックがそれぞれ縄張りを保持し、護っている。ただし、異なるパックでの狩りの協働は無い。
婚姻様式は一対婚(生涯を共にするつがい)。例外的に他の個体が繁殖することもある。
■ウマ
メスと子どもからなる群れで生活する。群れはそれを守って統率するオスが率いている(首雄集中婚。オス1匹に対して、メス1~6匹)。このオスは群れの縄張りを守ると同時に、群れのメスと他のオスが交尾するのを防いでいる。
若いメスは母と同じ群れにとどまることが多いが、違う群れに合流することもある。
若いオスは成熟すると群れを離れ、他のオスとなわばり争いを挑む。
■ゾウ
女長老を中心として母親と娘、姉妹と雄の小象からなる一族の群れを形成(アフリカゾウは8~15頭、アジアゾウは20~30頭)。
親族や一族からなる群れはお互いからあまり離れることなく、防衛のためや混んだ場所で繁殖するときは、一時的に小さな群れが一緒になって総勢100~200頭の集団を形成することもある。
一方、雄は性的に成熟(12~14歳)すると群れを離れ、単独生活あるいは少数の独身雄象の群れを形成する。雌の発情期だけ群れに合流する。
■ネコ
オスの縄張りに複数のメスの縄張りが包摂され、それぞれ単独行動をしている形態が主流で、ライオンのようなボス集中婚的な集団を形成しているのは少数派。
例えばトラは、群れは形成せず、繁殖期以外は単独で生活する。オスは数十平方キロメートル、メスは20平方キロメートルにもなる縄張り(縄張りの規模は獲物の量などで変動がある)を形成して生活し、オスの縄張りの中に複数のメスの縄張りが含まれることもある。縄張りの中を頻繁に徘徊し、糞や爪跡を残す、尿を撒くなどして縄張りを主張する。
■コウモリ
コウモリの集団は、通常、雌+子で形成されているが、生殖時期になると雄が加わるようになる。通常、雄は単独行動もしくは雄集団を作るが、なにをやっているかは不明。
■クジラ
全てのクジラ類の中で最も大きな性差をもつマッコウクジラでは、雄は単独行動をし、雌と子の集団を作る。若い雄は結びつきの弱い雄だけのグループをつくるが、その後は単独生活が基本。雄は高緯度の寒流域にも夏場の餌を求めて進出するが、雌と子が暖流域の外に出ることは滅多にない。
繁殖期になると、大きな雄が10頭ほどの雌を引き連れて単雄複雌群(首雄集中婚)を形成するため互いに性闘争を行う。
(人間を除く)唯一の天敵はシャチ。若い個体と雌はしばしばシャチの餌食になる。しかし雄の成体は大きく攻撃的なので、尾の一撃によってシャチを返り討ちにする。
■シカ
群れは繁殖期を除くとほとんど単一の性別、つまりメスと子ども集団、オス集団それぞれで行動している。繁殖期には、オス同士はメス集団の獲得を巡って性闘争を行う。
メスと子どもの母系集団を生殖集団とし、繁殖期に性闘争に勝った雄が入って単雄複雌型(首雄集中婚)となる。
以上10種類の集団形態の特徴を紹介しました。
種によって様々な集団形態がありますが、大きなところで言えば、内雌外雄の集団形態をとっていると言えそうですね。
その中で、制覇種となり闘争圧力が下がった種の雄は単独行動するものが多く、逆に弱者であるものは集団行動をとるということがわかってきました 😀 。
今回の紹介を踏まえて、次回は詳細に分析していきます。
お楽しみに!
(masamune)
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://www.seibutsushi.net/blog/2010/12/1066.html/trackback
日本を守るのに右も左もない | 2011.09.13 16:24
近代科学の史的総括1~市場拡大とともに自我肥大し、自然を支配(破壊)してきた近代科学
「原発問題から見える特権階級・近代科学の問題性11 ~近代科学に対する誤った認識~」 「同12 ~”学び”を忘れた学者達~」 「同13 ~近代科学の源流…