2010-11-05

雌雄の役割分化4 ~雌雄分化の第二段階=精卵分化~

生物は環境に対する適応戦略として遺伝子を組み換え、同類他者=変異体をつくりだす「接合」という方法を生み出しました。それをより多様化させる方向に進化させたのが雌雄分化です。その段階は3つあり、殖産分化→精卵分化→躯体分化と進んでいきます。今回は精卵分化に焦点を当てます。
約10億年前、多細胞化=「殖産分化」とほぼ同時に、生殖細胞=配偶子は精子と卵子に分化しました。これが「精卵分化」です 8) 。
なぜ、精子と卵子に分化したのでしょうか
まず、精子と卵子の特徴から考えてみましょう!
精子:小さい、動く、多い
卵子:大きい、不動、少ない

精子は運動機能を持ち、卵子は栄養を蓄えて大型化しているのが特徴です。このあたりは生物になじみのうすい方でもイメージしやすいのではないでしょうか
なぜこのような特徴を持ったのでしょうか?歴史を紐解きながら見ていきましょう

その前に復習として、これまでの記事も併せて覗いてくださいね
【過去シリーズ記事】
雌雄の役割分化 1 ~雌雄分化って何?~プロローグ
雌雄の役割分化 2 ~単細胞生物の「接合」~
雌雄の役割分化 3 ~雌雄分化の第一段階=殖産分化~

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同型配偶子から異型配偶子へ

同型配偶子から異型配偶子へ進化していく過程を残してくれているのが藻類です。
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藻類には同一系統群の中で同型配偶子接合(ex. ワタモ、カヤモノリ)、異型配偶子接合(ex. ムチモ)、卵生殖(ex. ヒバマタ、コンブ)といった有性生殖の多様性が見られます。

同型配偶子接合とは、文字どおり雌性配偶子と雄性配偶子が同じ大きさで、同じ形の配偶子が融合する受精をいいます。同型配偶子接合の雌雄配偶子はともに鞭毛をもっており、お互いが泳ぎ、出会ってから受精をします。

異型配偶子接合とは、雌性配偶子が雄性配偶子より大きいが、卵生殖ほどその差が顕著ではない場合の受精をいいます。鞭毛を持たず不動の卵と精子の受精と異なり、異型配偶子接合も同形配偶子と同様に雌雄配偶子がともに鞭毛を持ち、泳ぎ、出会ってから受精をします。
同型生殖と卵生殖のちょうど間の生殖方法と言えます。

卵生殖とは、雌性配偶子(卵)が雄性配偶子(精子)より大きく、その差も顕著な受精をいいます。雄性配偶子は、鞭毛を持ち、泳ぐことができ、雌性配偶子は、基物に付着するなどして不動となり、性フェロモンで雄性配偶子を誘引するという特徴をもちます。

動物や陸上植物では普遍的な卵生殖ですが、有性生殖の初期の段階では現在の卵と精子に見られるような大きな形態の違いや役割分担はなかったものと考えられます。有性生殖が誕生した当初は、雌と雄の配偶子は同型同大であった、つまり同型配偶子接合を行っていたと考えられています。そして、徐々に雌の配偶子が雄の配偶子よりも大きくなった異型配偶子接合が出現し、卵生殖へと進化していったものと推測されています。

最初はお互い動きあっていた配偶子ですが、一方が動き、一方が静かに待つ方が出会う可能性が上がりエネルギー保持にも優れていることから、運動役割を担う精子と栄養役割を担う卵子という形に進化していったのだと考えられます。

参考:有性生殖の進化の軌跡を藻類に探る

環境による精子と卵子の違い

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精子は運動性に、卵子は栄養性に特化した生殖細胞です。これらの機能が進化過程でどのように変化していったのでしょうか?

精子の運動能力の源泉である鞭毛は、生殖環境・生殖様式によって、多少異なります。
原始的な多細胞生物である珊瑚の精子は、海中に放出されても動きません。しかし、卵の近くに来ると遊泳を開始します。これは、卵から分泌される親水性の物質が関与していると言われています。
また、魚の段階では、精子の運動性は集団形態によって異なることが報告されています。

東アフリカのタンガニイカ湖に生息するカワスズメ科魚類は集団形態の多様さによって、精子の運動能力が異なるようです。一対一で集団を形成する種と複数のオスメスで集団を形成する種では、精子の数、遊泳スピード、寿命が異なります(複数のオスメスで集団を形成する種の方が精子の運動性が高い)。
この違いは、霊長類の集団形態でも同様の傾向が見られます。

次に卵子についてみていきます。
卵の大きさには、動物の間でかなり大きな違いがあります(ヒトで0.14mm、カエルで2mm、サケで6.5mm、ニワトリで3cmほど)。
哺乳類の場合は、受精した後は胎盤やへその緒を通して母親から栄養をもらえますが、卵で孵化する動物は、卵の中にある栄養分だけで、孵化するまでの栄養を賄わなければならない。だから、胎生の動物より、卵生の動物の卵の方が大きくなる傾向があります。

以上より、精子は「運動性」、卵子は「栄養性」といった根本的な役割は保持しつつ、生殖様式や生殖環境に応じて部分的に進化を遂げているのがわかります。
精子も卵子も外圧適応態なんですね。

精子の役割の本質は?

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卵子が安定、精子が運動を担う配偶子であることはわかりましたが、進化の適応戦略から考えると「変異」という軸が抜けています。

そこで、精子は変異配偶子を担っているのではないか?という仮説を立て、検証していきます。

①精子細胞自身の変異性
DNAの複製を伴う細胞分裂時に、一定の確率でDNAの変異(複製ミス含む)が発生します。雄の生殖細胞の分裂回数は、雌の生殖細胞に比べて格段に分裂回数が多くなっています。また精子は活性酸素を多く産生する上に、その酸化反応を受ける標的分子も数多く持っています。細胞質も少なく遺伝子の転写も行われていないので、DNA修復酵素や抗酸化物質も少なくなります。よって、雄発=精子発で変異が蓄積していきます。
※参考:
雄は闘争存在=変異存在 ①精子生成における大きな変異
精卵分化(なぜ精子が変異で卵子が安定か)

・精子母細胞の分裂の際に生じるDNAの変異は、とりわけY染色体上でより頻繁に起きるという説があります。つまり精子の段階で、Y染色体を持つ(オスになる)精子が、X染色体を持つ精子(メスになる)精子よりも、大きく変異していることも考えられます。実際Y染色体をもつ精子はもたない精子より素早く動くことが出来ますが、寿命は短くなっています。

※参考:
オスは徹頭徹尾、変異⇔淘汰存在
性染色体のそもそもの役割~トランスポゾンとの関係(仮説) 

②精子中心体が変異を伝達している可能性
受精卵→発生過程における「中心体」は精子由来です。この中心体自身が変異活性度が高い組成であることに加え、(雄の)個体に生じた外圧による変異を次世代へ伝達している可能性があります。

哺乳類のオスの体細胞には抗原タンパク質(HY抗原)という物質があり、さらに精嚢と精巣を結ぶ輸精管の途中には、抗原物質?を精子に浴びせるシャワー機能があることがわかっています。

これらから考えられることは、体細胞で外圧変化(大気etc)の異変をキャッチして、何らかのパスを経由して、精子に伝達するシステムを哺乳類のオスが持っているということ。

仮説ですが、オスの体細胞でキャッチした外圧変化を精子(中心体)へと伝達し、通常のDNA情報とは異なる変異情報を継承、もしくは、変異情報を通常のDNAに転写して、遺伝的に継承していく機能が精子(中心体)にはあるのではないかと考えられるのです。

中心体が組み替わりやすいRNAで構成されていることも考慮すると、十分ありえる仮説です
(DNAは安定構造なので、シャワーを浴びても組み替わることがない。)

※参考:
精子と中心体  
精子と変異(仮説)
外圧は排泄経路を通じて生殖細胞へとフィードバックされる 

・また、中心体には独自の(核DNAとは別の)遺伝情報が搭載されている可能性が示唆されています。

※参考:中心体にもDNAがある? 

・受精卵形成から発生過程においては、卵子由来の核小体が重要な働きを担っていることが知られています。主に変異ベクトルの中心体は精子由来(オス由来)、主に安定ベクトルの核小体は卵子由来(メス由来)という役割分化が存在するのではないでしょうか。

※参考:
哺乳類の受精卵の発生には卵子由来の核小体が重要

このように考えると、やはり精子は「変異配偶子」への進化だと言えそうです。
その一方で卵子は栄養の蓄積から発生を主要に担う「安定配偶子」となっていったのではないでしょうか。
つまり精卵分化の本質は、変異と安定を両立しながら種を残していく仕組みにあると考えられます。

まとめ

最後にポイントをまとめておきます。

・精子と卵子に配偶子が分かれたのは、運動と栄養の役割分担により、受精過程(出会い)と発生過程(エネルギーを要する)の両方に適応的な形態への分化だといえます。

・そして精卵分化の本質は、精子:変異配偶子と卵子:安定配偶子への分化であることが見えてきました。変異と安定の分化、これがオスメス分化の原基となったと考えられます。

・これは、変異+安定を両立しながら種を残していく生殖システムと言えます。

次回は躯体分化になります。徐々に雌雄分化の中身がわかってきましたね。来週も楽しみにしてください。

<参考>
精子と卵子に配偶子が分化したのはなんで?~栄養と運動、受精と発生、精子・卵子の淘汰適応
変異(安定)進化論史③ 多細胞生物 殖産分化~精卵分化
オスメス分化の塗り重ね構造
11月23日なんでや劇場レポート③「精子・卵子の違いの本質はこれだ!!」

List    投稿者 MASAMUNE | 2010-11-05 | Posted in ③雌雄の役割分化2 Comments » 

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コメント2件

 kawait | 2011.08.19 16:57

ayoan igokahさん
発散対結合という視点、面白いですね。
生物進化は、分化と統合の両立、あるいは安定と変異の両立という、常に矛盾した構造の調和を持って実現されています。
その意味では、自然界全体におけるバランスも、発散と結合(集合・群れ)という形で安定秩序の形成に向かおうとしているのかもしれません。

 yuko | 2012.01.10 23:51

放射能から子どもたちを守る活動をしている者です。
貴HPをリンク、また文章を引用させていただいてもよろしいでしょうか?

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