雌雄の役割分化 2 ~単細胞生物の「接合」~
前回の記事で紹介したように、生物がオスとメスに分かれたのはかなり昔のことで、そのはじまりは単細胞生物の段階までさかのぼります。
なんでオスとメスというふたつの性が登場したのか?
いつごろ、どのようにしてオスとメスに分かれていったのか?
興味がつきないところです。
これから数回にわたって「雌雄分化の起源」(雌雄分化へのあゆみ)について追求したいと思います。
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生物史上の大進化はいくつもあるが、中でも生命の誕生に次ぐ様な最も劇的な進化(=極めて稀な可能性の実現)は、光合成であり、それに次ぐのが雌雄分化であろう。
生物が雌雄に分化したのはかなり古く、生物史の初期段階とも言える藻類の段階である。
(補:原初的にはもっとも古く、単細胞生物の「接合」の辺りから雌雄分化への歩みは始まっている)
★単細胞生物の「接合」(せつごう)とは、単細胞生物同士が部分的にくっついたり、細胞同士が合体する現象です。生物によって様相が異なりますが、いずれも細胞間で遺伝子の交換or受け渡しが行われ、新たな組み合わせを生じるところがポイントで、有性生殖の原基的なかたちと言えます。
■原核単細胞生物の接合
原核生物が子孫を残す方法は単純で、大きくなった細胞が2つに分かれる単純分裂によって増殖します。これを無性生殖といいますが、クローン増殖ですので(変異は不確実な突然変異に委ねられるので)、外圧変化への適応には欠点もあります。
原核生物には、無性生殖(単純分裂)だけでなく、「接合」によって遺伝子の変異を生み出すものが存在します。
●大腸菌
画像はコチラからお借りしました。食品ネット分析室
大腸菌には、「Fプラスミド」という遺伝子を持つものと持たないものがあります。
(プラスミド:染色体DNA以外のDNA。染色体とは別に独立し複製を行う)
Fプラスミドを持っている大腸菌は、繊毛で毛むくじゃらですが、Fプラスミドを持っていない大腸菌は繊毛が一本もありません。この繊毛を持つ大腸菌(F+菌)は、繊毛を持たない大腸菌(F-菌)を見つけると、繊毛を使って抱え込みます。これを接合と呼び, F+菌からF‐菌へ Fプラスミド を送り込むのです。すると、F‐菌は変異して繊毛を生やし、毛むくじゃらになるのです!
また、稀にFプラスミドが染色体内に組み込まれ、遺伝子交換を頻繁に行う種に変異することもあるようです(通常遺伝子組換えが起こる頻度は1×10-5と非常に低いですが,Fプラスミドが染色体DNAに組み込まれた種は、1000倍以上の高頻度で遺伝子組換えが起きる)。
ポイントは、大腸菌はFプラスミドの有無で接合の相手=「型」を認識していること。また接合による遺伝子組み換えは(おそらく外圧変化に対応する)変異促進機構として働いていること。
※参考
「バイオフィルム」(生物はいつから群れを作るようになったの?)の中でも細菌同士で遺伝子の受け渡しが頻繁に行われていることが分かっています。細胞同士で遺伝子をやりとりして変異を促す仕組みは、生命の初期段階から原初的に備わっていると考えられます。
■真核単細胞生物の接合
●クラミドモナス
画像はこちらからお借りしました。「環境ホルモンがクラミドモナスの性分化に与える影響」
クラミドモナスは日常的には単純分裂(無性生殖)ですが、タンパク質の原料となる窒素が不足すると配偶子へと変化し、2つの細胞が「接合」(合体)して2倍体(染色体が2対)の遊走子となります。
そして環境が良くなるまで硬いからに閉じこもり、環境が良くなると減数分裂を行って遺伝子を組み替え、融合する前とは異なった遺伝子を持った2体に分かれます。
つまり接合して組み替えることによって、外圧変化に適応するために変異=多様性を持った同類他者をつくりだします。
原核生物の接合は(大腸菌のように)「部分的な融合、部分的な遺伝子受け渡し」に留まっているのに対して、真核生物の接合は「細胞同士の合体→遺伝子の組み換え→減数分裂」というかなり複雑な機構を有しています。
ここには、「有糸分裂」という正確な細胞分裂のシステムの獲得が大きく関わっています。
さらに、クラミドモナスで注目すべきポイントは、同形配偶子にもプラス型とマイナス型の2種類がいること。接合する場合は必ず、プラス型とマイナス型の違う型同士が接合します。
(この違いは遺伝子の違いによる、マイナス型のクラミドモナスはMID遺伝子を持っている)
クラミドモナスが進化し群体化したと考えられているボルボックスは、精子と卵子による生殖を行いますが、精子に性決定遺伝子があり、この遺伝子はマイナス型クラミドモナスが持つMID遺伝子から進化したことが確認されています。
つまり、単細胞同士が接合する初期の形態である同形配偶子の段階で、精子と卵子の分化につながる遺伝子が組み込まれているのです。クラミドモナスは、雌雄分化の歴史の中で、同形配偶子から異型配偶子の転換点にいるとも言えそうです。
※参考
「はじめて明らかにされた“メスとオス”のはじまり? オス特異的遺伝子“OTOKOGI”の発見 ?」
●ゾウリムシ
※図版引用元:『視覚でとらえるフォトサイエンス生物図録』数研出版編集部, 鈴木孝仁監修、数研出版(2007/02)
ゾウリムシが接合を行う条件は、細胞が成熟していること、餌を食べ尽くした状態であること、互いに相補的な接合型であることです。
互いに型の合うゾウリムシを選んで接合するのですが、その型は繊毛に含まれる糖蛋白質の種類によって決まっており(大きくはE型O型の2つ、細かくは16の接合型グループに収斂進化して現在に至っている) 、互いの繊毛を接着させることで型を正確に認識し合っています。
●酵母菌
画像はコチラからお借りしました。ウィキペディア 酵母
出芽酵母菌(パンやビールなどの醗酵にも使われる)も不思議な生き物で、出芽(無性生殖)と接合の二種類の増殖様式を持っており、通常の好環境下では出芽で増殖しますが、環境が悪化すると接合で増殖します。接合した細胞は、増殖を停止して減数分裂を行い胞子が形成されます。そして胞子のまま厳しい環境に耐え、やがて環境が好転すると発芽し、再び出芽による増殖を開始します。
酵母細胞にはa型とα型というはっきりとした型の分化が見られ、栄養源が枯渇すると緊密なコミュニケーションをとって、細胞が一対一で接合(融合)します。このとき、性フェロモン様の物質を分泌し互いに認識することで接合過程が促進されています。
■まとめ
★単細胞生物の接合は、外圧の変化(逆境)を契機として行われる事例が多い。環境に対する適応戦略として遺伝子を組み換え、多様な同類他者=変異体をつくりだすことが「接合」(→雌雄分化)の本質だと言える。
★「接合」の起源は真核単細胞生物だけでなく、さらに生物の初期段階である原核単細胞生物までさかのぼることができそう。その意味でも、雌雄分化は生物にとって根源的な原理を基盤としていると言えるだろう。
★同一種の単細胞生物においても類型の異なる「接合型」がはっきり存在し、互いに認識し合いながら接合が行われている。クラミドモナスの事例に見られるように、この接合型が異型配偶子(→卵子と精子)へと分化、進化していった可能性が高いのではないか。
※参考投稿
変異(安定)進化論史② 真核n体~真核2n体
真核単細胞の接合にも、”性システム”の原型が
接合型から異型配偶子へ進化した?
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コメント2件
iwaiy | 2011.06.03 19:26
サルピテクスさん、コメントありがとうございます。
大本営(政府、官僚、東電、マスコミ)は、とにかく今回の事故を小さく見せよう、小さく見せようとして、事実を認めるのに何ヶ月もかかったり、情報を隠蔽したりという状態で、本当に困ったものです。
欧州勢(IAEA、アレバetc)の動きについて何かわかったら教えてください。
サルピテクス~saru910~ | 2011.06.03 8:49
興味のある予測・検討ありがとうございます。
国からももっと今後の大雨・台風の対策等について、検討結果の対策案を情報公開して欲しいですね。
国や東電(マスコ含む)だけでの検討だと、また想定外で対応出来ませんでした。。。と言いかねないですからね(ー_ー)!!
また、国際原子力機関IAEAの動きも興味がありますね(・∀・)
今回の汚染・被爆(実験?)の被害影響情報の収集のために来ている目的もありそうですね。
長崎・広島の原発の時も、裏で被害影響の情報収集をしていたみたいですし(`・ω・´)