2010-07-08

原猿から真猿へ5 ~共感回路の獲得~

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前回紹介した様に、樹上逃避機能を獲得した原猿の若オスたちは、縄張りは持てないけれども死ぬことも出来ず、過剰な緊張や怯えや飢えの苦痛など、全ゆる不全感に恒常的に苦しめられる、本能不全の状態に陥りました。(原猿から真猿へ4 ~原猿が陥った「本能不全」~

本能ではどうにもならない(従って本能を超え出るしかない)という未明課題に直面した原猿たちは、共感回路を獲得することでこの不全を乗り越えて行きます。どうやって共感回路を獲得したのでしょうか。前回に引き続き、「実現論:第一部前史」を参照しながら追求して行きます。

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■依存本能に収束し若オスたちは身を寄せ合う
実現論:前史 ニ.サル時代の同類闘争と共認機能 より引用。以下同じ)

彼らは恒常的に飢えの苦痛に苛まれ、いつ襲ってくるか分からない敵=首雄の攻撃に怯えながら暮らしていたが、それらの極度な不全感が生命の根源を成す適応欠乏を強く刺激し、生起させた。加えて、恒常的に強力な危機逃避回路(未解明だが、おそらくアドレナリンetc.の情報伝達物質)が作動する事によって(これも未解明だが親和系のオキシトシンetc.による性封鎖力ともあいまって)性闘争が抑止され、それによって、モグラ以来性闘争物質によって封鎖されてきた追従本能が解除された。
かくして、不全感の塊であった境界空域の弱オスたちは、適応欠乏に導かれて強く追従本能に収束する。
しかし、互いに追従し合っても、誰も(縄張りの確保あるいは不全感の解消の)突破口を示すことは出来ない。そこで、わずかに可能性が開かれた(=不全感を和らげることのできる)親和本能を更に強化し、追従回路(アドレナリンetc.)に親和回路(オキシトシンetc.)が相乗収束した依存本能に収束してゆく。つまり、「縄張りを持たない敗者たちが互いに身を寄せ合う」。

縄張りを持てず、本能不全に陥ったのは原始原猿類にだけ見られる特徴ではありません。
「真猿への進化を、現存する原猿の特徴から探る」でも紹介した現代の原猿にもこのような本能不全からの依存収束=「敗者たちが互いに、身を寄せ合う」といった現象は観察されています。

ショウガラゴは基本的に単独生活で、雄は複数の雌の縄張りを包摂する縄張りを持ち、その場所の全ての雌と交尾します。しかし、そのような縄張りを持てなかった雄達は淘汰されるのではなく、しばしば小さな独身同士のグループを作り生活します。(ショウガラゴより

真猿類に近しい群れを形成するワオレムールも、ある程度成熟した雄たちは自身達の群れを離れ、初めは首雄に排他的に扱われながも、しだいに他群れへ移籍していきます。
その際、群れを離れた若雄達は2・3匹が連れ立って寄り添い行動します。(参考:サルの百科 杉山幸丸著)

■同一視→共感回路の獲得

不全課題を抱えて依存収束した弱オスたちは、依存し合う中から、「どうする?」⇒「どうにかならないか?」と可能性を相手に求め、互いに相手に期待収束してゆく。こうして、依存収束⇒期待収束し、互いに相手を注視し続ける内に、遂に相手も同じく依存し期待している事を発見し(探り当て)、互いに相手の課題=期待を自己の課題=期待と同一視して理解し合うに至った。
自分以外は全て敵で、かつ怯え切っていた原猿弱者にとって、「相手も同じく自分に依存し、期待しているんだ」という事を共認し合えた意味は大きく、双方に深い安心感を与え、互いの不全感をかなり和らげることが出来た。この様に、不全感を揚棄する為に、相手の課題=期待を自己のそれと重ね合わせ同一視することによって充足を得る回路こそ、(未解明だが、おそらくは快感物質βエンドルフィンを情報伝達物質とする)共感回路の原点である。

「βエンドルフィン」とは、脳内神経伝達物質のひとつで、鎮痛、多幸感をもたらす等の作用から「脳内麻薬」とも呼ばれます(鎮痛作用はモルヒネの6.5倍)。長時間のマラソンによるランナーズハイ(二人以上で走ると効果が高い)や性行為の快感などにも関係しているそうです。また人間の感情として、感謝、喜び、安心、感動、幸福感、リラックス状態の時などに脳内、神経内で増加すると言われる伝達物質です。

βエンドルフィンは進化史的にはかなり古くから形成されたホルモンで、単細胞生物にもその原型が見られますが、その機能の本質は、「外圧等から生じる不全を解消する」(恒常性を回復する、補修する、秩序化するetc)ことにあると考えられています。
原猿の段階で直面した、絶えざる不全感=意識的な極限状況を少しでも解消するために、βエンドルフィンに快感の度を強めていったとも考えられます。
参考
エンドルフィンの不思議
エンドルフィンの不思議、その2
エンドルフィンの基礎から  

■猿・人類の第一の意識の統合様式、共感統合

この安心感+が、相手+⇒仲間+共感を形成し、原猿たちは不全感の更なる揚棄を求めて、より強い充足感を与える(=得る)ことのできる親和行為(スキンシップなど)に収束していく。そこでは、相手の期待に応えることが、自己の期待を充足してもらうことと重ね合わされ同一視されている。つまり、相手の期待に応え充足を与えることは相手に期待し充足を得ることと表裏一体である。
従って、相手の期待に応えること自体が、自己の充足となる。共感の真髄は、そこにある。共感の生命は、相手(=自分)の期待に応望することによって充足を得ることである。こうして、不全感に苛まれ本能が混濁したサルたちは、その唯一の開かれた可能性=共感充足へと収束することによって、はじめて意識を統合することができた。これが、サル・人類の意識の、第一の統合様式たる共感統合の原基構造である。

現在、共感機能をつかさどる神経細胞は「ミラーニューロン」だと考えられています
ミラーニューロンは、一言でいえば他者の行動やその意図を理解する手助けになると考えられている神経細胞です。
(※1つの神経細胞がある現象を引き起こすとは一般的にはありえないので、神経細胞のネットワーク(神経細胞群)全体が、ある活動を行う際に活性化していると考えられています。)

ミラーニューロンの機能については多くの説があり、他人の行動を理解したり、観察した行動をシミュレートしたり、他人の気持ちを理解する能力に寄与していると考える研究者もいます。また、ミラーニューロンの障害が、特に自閉症などの認知障害を引き起こすという研究者もいます。

ミラーニューロンは、マカクザルで直接観察され、ヒトやいくつかの鳥類にも存在すると考えれれています。

マカクザルにおいて、ミラーニューロンは下前頭回(F5領域)と下頭頂葉で発見されています。
サルのF5領域は、ヒトの運動性言語野(ブローカ野)に相当する位置にあることから、ヒトの言語機能との関係が議論されています。人間のミラーニューロンも、言語をつかさどるブローカー野の領域にある可能性が高く、ミラーニューロンが同一視⇒共感回路⇒共認機能⇒観念機能(言語)を生み出していった回路である可能性が高いと考えられます。

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この画像は脳の世界 中部学院大学 他者の運動を理解するミラーニューロンからお借りしました
参考
生物史から、自然の摂理を読み解く『ミラーニューロンが共感回路か?』
るいネット『最近の研究;他者と自己の区別をしない神経細胞=ミラーニューロン』
wikipedia
脳の世界 中部学院大学 他者の運動を理解するミラーニューロン

■共感機能が猿・人類の脳の発達を促した

補:六〇〇〇万年~三〇〇〇万年も昔の原猿時代に形成されたこの共感機能は、その後真猿時代の共認機能(規範や役割や自我を形成する)や人類固有の観念機能を生み出してゆく。

原猿段階における最初の脳進化は『視覚機能の発達』が大きな要因と考えられます。近年発表された研究によると、約5,500万年前に登場したイグナシアス・グレイブリアヌスという猿の脳は非常に小さく、現生の霊長類の中で最小とされている脳と比べても、2分の1から3分の2ほどしかありませんでした。そしてこの猿は、視覚機能は未発達で、木から木へ安全に跳び移ることは不得手でした。
つまり、『木から木へ素早く移動するため視覚機能を発達させ、脳容量の増大を実現した』と推測することができます。

そして、共感回路の獲得が、その後の猿の脳進化を加速しました。
イギリスの人類学者ロビン・ダンバーによると、霊長類のすべての種を調べてみると、「集団規模」の平均が大きくなればなるほど大脳新皮質も大きくなるようです。
また、脳科学者澤口俊之氏によると、「集団規模」だけでなく、「婚姻様式の違い」によっても違いがみられ、一夫多妻制より乱婚の方が脳容量が大きいことがわかっています。
つまり、集団内のコミュニケーションを深め、より大きな規模の集団を統率する、あるいは集団行動を取ることで脳を発達させていったと考えられます。集団生活を営むためには、相手の期待に応える共感機能は不可欠であることは言うまでもありません。

■現代人が忘れた「共感」のイメージ

逆に云えば既に無数の規範や観念に脳内が覆われた現代人には、原基的な「共感」をイメージすることが極めて困難である。しかし、ごく稀にそれに近い感覚を体験することはある。例えば阪神大震災の時に、多くの関西人が体感した感覚が、それである。
大地が割けたかと思う程の大揺れに見舞われ生きた心地がせず、足が地に着かないような恐怖に慄いている心が、外に出て誰かと言葉を交わすだけで(それ以前に、生きている人々の姿を見るだけで)、すーっと安らぎ、癒される感覚、その時作動していたのが意識の深層に眠る原猿時代の共感充足の回路ではないだろうか。
特に留意しておきたいのは、その凄まじいほど強力な安心や癒しの力は、自分の家族や知人からではなく(そんな意識とは無関係に)、誰であっても誰かが居りさえすれば湧き起こってくるものであったという点である。

原猿は、どんな生物も体験したことのない本能不全と言う状況におかれた結果、本能を超えた共感機能を獲得し、新しい進化の道を進み始めました。次回はさらに次ぎの段階である、共認機能の獲得過程を追求します。

List    投稿者 nodayuji | 2010-07-08 | Posted in 3)地上へ進出した哺乳類(原猿から真猿へ)5 Comments » 

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コメント5件

 jepe | 2011.02.21 17:16

いつもありがとうございます。
素敵なブログですね~
お礼になりませんが紹介させて下さい。
私の書いたものでは有りませんが・・・
http://twitter.com/fransisco_G
何かの役に立てる事をお祈ります。
ありがとうございました。

 サルピテクス~saru910~ | 2011.02.23 15:12

ちょっと確認です☆
全生物(単・多細胞・藻類などは除く魚類以降の神経官から脳を獲得していったものたち)において脳内のカテコールアミン(覚醒物質)は外圧適応(不全解消)のため獲得した機能と言うことでよいでしょうか?
そして、
魚類・爬虫類においては、ほぼノルアドレナリンとアドレナリンで外圧適応。
哺乳類においては、種間闘争上弱者ゆえに大半をノルアドレナリンとすることでで外圧適応。
サル・人類においては、同類闘争(初期人類は自然外圧)ゆえにドーパミンがノルアドレナリンに達するほど増加することでで外圧適応(不全解消機能の強化)していったのですね。
更に、同じ人類の性別「女」「男」でも、置かれた外圧に適応すべく脳の仕組みを分け、脳内のカテコールアミンによって外圧適応(不全解消)していったのって、生命の進化(種として外圧適応)ってスゴーーーーイですね(^o^)/

 kawait | 2011.02.25 20:52

屋久島の雌猿は、発情期になるとすごいらしいですよ。
5~15分程度の時間をかけて交尾を行うと、雄の方はぐったりとして30分以上はへばってしまうが、雌の方はすぐに別の雄を見つけては交尾を繰り返す。多いときには一日に10回くらい繰り返すんだとか。
この群の観察をしていた岡安直比さんは、群の中心は雌が握っている、という事を掴みとっていました。雌の視点からの研究事例は意外と少なく、人間の片寄った見方による固定観念は、まだまだありそうです。

 andy | 2011.02.26 22:47

>脳内のカテコールアミン(覚醒物質)は外圧適応(不全解消)のため獲得した機能と言うことでよいでしょうか?
カテコールアミンは、交感神経が刺激されると分泌されるので、闘争系の不全解消に利用されるのでしょう。
(例えば怯えや痛みを弛緩するため)

 andy | 2011.02.26 22:49

>屋久島の雌猿は、発情期になるとすごいらしいですよ。
5~15分程度の時間をかけて交尾を行うと、雄の方はぐったりとして30分以上はへばってしまうが、雌の方はすぐに別の雄を見つけては交尾を繰り返す。
すごいですね。充足に貪欲です。

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