2009-09-24

体細胞分化能の進化過程

私たち多細胞生物はなぜ、どのようにして誕生したのか?本ブログ5月の記事「生命の起源と進化に学ぶ-6-多細胞生物の誕生」では、多細胞生物へ至る大きな進化過程が以下のように整理されました。

減数分裂の機能を獲得し、安定と変異を両立することが可能になった、2n体の単細胞生物から、多細胞生物が登場します。

1.体細胞と生殖細胞の分化
2.体細胞の専門分化と統合
3.生殖細胞の精卵分化
4.オスメスの躯体分化
5.オスとは何か、メスとは何かのまとめ
6.動物と植物の進化戦略の違い

この記事では、この中でもとりわけ、様々な体細胞の分化を成立させたメカニズムが、いつ頃、どのような外圧の下で獲得されたのかを考えてみたいと思います。
つづきはクリックのあとで。
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■多細胞化に必要な遺伝子は予め用意されていた?
まず、多細胞生物登場前後の地球史を概観してみます。
 約10億年前 始原多細胞生物(カイメンなど)
8.0~6.0億年前 スノーボール・アース
          Snowball.gif
6.0~5.5億年前 エディアカラ生物群
5.4~5.3億年前 カンブリア大爆発(→バージェス動物群)

※エディアカラ生物群とバージェス動物群の記事はこちら。
エディアカラ生物群の生き物たちは、動物とも植物とも分類し難いものが多く、第三の分類も提起されています。「生命の起源と進化に学ぶ-6-多細胞生物の誕生」の最後に書かれている、動植物の生存戦略が明確に分かれたのは、エディアカラ生物群時代とカンブリア大爆発の間ではないかと考えられます。
多細胞生物を生み出した地球の外圧として考えられるのは8~6億年前のスノーボール・アース(全球凍結)がありますが、必ずしもそれだけではなさそうです。何故なら、スノーボール・アース以前に、多細胞化に必要な遺伝子は既に用意されていたと考えられるからです。

るいネット「機能進化は遺伝子の変化に直結していない。」より。
③動物固有の遺伝子は、最古の多細胞生物(カイメン)が登場する以前(約10億年前後)に多様化している。主要に細胞間のシグナル伝達系や形態形成に関わる遺伝子群である。多様化は約1億年間で完了し、その後カンブリア大爆発が6~7億年前に起こり節足動物が登場するなど生物界は一気に多様な種が登場するが、カンブリア大爆発の時期にはほとんど新しい遺伝子は作られていない。

■遺伝子発現を選択する仕組み
多細胞生物の体細胞の最大の特徴は、受精卵から、全く同じDNAを持ちながら多様な機能・形態を持つ=各々異なるタンパク質を合成する細胞が分化していく、ということです。このメカニズムには大きく2種類あります。
①DNAやヒストンの修飾(メチル化・アセチル化)
多細胞生物の体細胞の最大の特徴は、受精卵から、全く同じDNAを持ちながら多様な機能・形態を持つ=各々異なるタンパク質を合成する細胞が分化していく、ということです。この仕組みの一つは、細胞分化に伴って、遺伝子全体の中から発現させない遺伝子を選択してタンパク合成のストッパーをかける、というもの。例えば、CH3がヒストンや開始コドンにくっつく「メチル化修飾」があります。

DNA-methyl.jpg
DNAのメチル化はエピジェネティックな遺伝子の発現制御に関与しています。 DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)によってDNAのC(シトシン)塩基の5位炭素原子にメチル基が付加され、メチル化DNAが生成されます。 DNAのメチル化には2種類あり、DNMT1による維持型DNAメチル化(DNA複製後もメチル化状態が維持)と、DNMT3aとDNMT3bによるde novo型DNAメチル化(メチル化されていないDNAを新たにメチル化)があります。

上図と引用はこちらより。
こちらも参照ください。エピジェネティックは遺伝するか
上図のCH3(メチル基)が遺伝子の開始コドン部分にくっつくことで、メッセンジャーRNA~タンパク質の合成が封鎖されます。目は母親似、鼻は父親似、などといった現象も、二倍体の遺伝子の片方にこのメチル化が施されることによって起こります。
②選択的スプライシング
もう一つの仕組みは、「選択的スプライシング」です。同じDNAを転写したメッセンジャーRNAから、スプライシング(イントロン部分の切り取り方)の違いによって、異なるメッセンジャーRNAを再編集し、異なるタンパク質を合成する機能のことです。これについては以下を参照ください。
一つの遺伝子から多様なタンパク質がつくられる
エキソン、イントロンって何?
■多細胞生物を生み出した外圧は?
DNAのメチル化は、原核生物でも見られ、細菌では定期的にDNA全体のメチル化が見られ、バクテリオファージなどからのDNAの防御のためと説明されています。
DNAメチル化の機能解析
選択的スプライシングは、エキソンが無いとされる細菌では確認されていませんが、真核単細胞生物では存在することが分かっています。
ここまでのDNAメチル化と選択的スプライシングの進化の大まかな流れは、
1.原核生物段階で生体防御のためのDNAメチル化機能を獲得
2.真核単細胞段階で選択的スプライシング機能を獲得
3.その他の多細胞化に必要な遺伝子群を獲得
4.原始多細胞生物(カイメンなど)
5.スノーボール・アース時代
6.エディアカラ生物群~カンブリア大爆発

つまり、ここからは、多細胞生物になる以前から獲得され、一部は眠っていた機能遺伝子が、スノーボール・アースという強烈な外圧を受けて、細胞同士の緊密性を高めると同時に一気に応用・発現し、多細胞生物が誕生した。とりわけ動物の生存戦略をとった一群で、バラエティーに富んだ体細胞とそれら全体を統合する能力が発達した、と考えることができます。
さて、ここまで考えて、新たな疑問も生じてきました。

①メチル化する遺伝子やスプライシングパターンを選択しているのは何か?
②動物と植物は、どこで大きく生存戦略を分けたのか?
③単細胞生物が細胞同士を緊密に結び付けた理由は?

①については、多細胞生物の体細胞は、分裂増殖過程での細胞の位置関係で決まると言われています。とすると、細胞の中で位置認識能を持つ組織=中心体が鍵を握っているのかも知れません。
中心小体と同じ構造をもつ基底小体(記事の中段参照)
②を考える際の切り口になりそうなのが、体細胞が多様になるほど全体統合が必要になる、ということです。多細胞生物でこの全体統合を担っているのが、神経系細胞とホルモン分泌細胞だと言えます(カンブリアの動物たちも既に原始的な神経系はあった筈)。これらの細胞の登場が、動物と植物を分かつ分水嶺になったのかも知れません。
上記は仮説ですが、またいつか、このブログで追求してみたいと思います。

List    投稿者 s.tanaka | 2009-09-24 | Posted in 未分類 | 2 Comments » 

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コメント2件

 andy | 2010.04.24 1:24

原哺乳類の祖である原モグラの単体生活は、哺乳類全般からみて、かなり特殊なんですね。
進化の礎を築いたモグラですが、その先端可能性がかなり無理のある進化だった、というのはなんとも興味深いところです。

 matsu子♂ | 2010.04.27 19:08

哺乳類に結構単独生活するやつがいるのでなぜか疑問に思ってました。
これを読んでかなりスッキリしました。ありがとうございます。

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