2008-12-13

古細菌の細胞膜

Halobacteria.jpg
(図は古細菌の一種halobacteria)

 真正細菌や真核生物とならんで、ひとつのドメイン(生物界)を形作る古細菌。進化系統樹としては、下図のとおり「共通祖先がまず真正細菌と原始古細菌に進化し、その後原始古細菌から古細菌と真核生物が分かれた」( http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%A4%E7%B4%B0%E8%8F%8C )とされています。(下図の”Archaea”というのが古細菌)
800px-Simplified_tree.png

したがって古細菌は、われわれ真核生物にとって直接の祖先ではなく、あくまで傍系ということになります。しかし、真正細菌と真核生物の性質を合わせもつ古細菌は、謎の多い始源生物の有り様や、その進化過程を考える上では、欠かせない存在となっています。そこで今回は古細菌の細胞膜について、です。

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img2.jpg
上図は独立行政法人 海洋研究開発機構のサイトから引用させていただきました。

古細菌の細胞膜の特徴は、その脂質がエーテル結合である点です。というよりも、その点こそが、古細菌を他の生物と分け隔てている最大の特徴です。

「細胞膜を構成する脂質の違い」と言われても、大した違いがあるように思えませんが、われわれを含め、古細菌以外の生物は例外なくエステル型脂質で構成されているのです。古細菌の最大の謎は一言で言えば下記引用の通りです。
(引用はすべて、「蛋白質核酸酵素」の1993年No.10の古賀洋介氏の論文からです。)

最も気になる点は、共通の祖先から分かれた真正細菌と真核生物が共通のエステル結合をもっていながら、真核生物に進む枝の途中から分かれた古細菌だけがエーテル脂質をもっていることである。

以下、基本的な膜脂質の違いについて引用。

エーテル脂質は古細菌以外の生物には存在していない。真正細菌、真核生物のエステル結合と比べて、エーテル結合は酸またはアルカリに安定なので、エーテル型結合の存在は容易に認識することができる。(中略)
各生物ドメインを通じて例外がなく、共通性が高く、各生物の脂質の最も根本的な相違点と思われるのは、古細菌では、エーテル結合、グリセロール部分の立体配置、およびイソプレノイド炭化水素鎖である。(中略)
真正細菌、真核生物ではエステル結合、グリセロール部分の立体配置、および脂肪酸である。

以下、生育環境と膜脂質との関係について引用。

(筆者注:古細菌の特徴である)イソプレノイドの生合成には酸素は必要としない。地球上で遊離の酸素の発生以前の嫌気的環境下での生命の起源または進化の初期にはイソプレノイド炭化水素鎖が生体膜の脂質成分として広く存在していた可能性を仮定できる。もちろん嫌気的な不飽和脂肪酸生合成もこの時期に同様に可能であったと仮定できる。イソプレノイドカルボン酸という化合物は非常にまれな存在であるので、嫌気的条件下では不飽和イソプレノイドアルコールはカルボン酸に酸化されるよりも不飽和化されて飽和イソプレノイドアルコールとなりやすいであろう。その結果グリセロールまたはそのリン酸エステルと縮合してエーテル結合を生み出すことになる。これがイソプレノイドエーテルの嫌気的起源の仮説である。脂肪酸はイソプレノイドよりも不飽和化によって生育環境の変化に対して膜の物理化学的性質を調整しやすいだろう。それゆえ、脂肪酸をもつ生物は多様で変化しやすい環境に容易に適応することができ、かなりの量の酸素が地球上に蓄積した後には、そのような生物が繁栄したのではないだろうか。

地球上に遊離酸素が無かった頃は、(古細菌型の)エーテル型脂質(イソプレノイド)をもつ嫌気的的生物が適応的であり、酸素が蓄積されて以降は不飽和脂肪酸型脂質の生物がより適応的だったのではないか、という仮説です。
とすると、少なくとも共通祖先あるいは始源生物の細胞膜には、古細菌の同様のエーテル型脂質が使われていた可能性が高い。しかし、その後に分かれた真正細菌と真核生物それぞれの細胞膜はエステル型結合で共通性もあることから、真正細菌と真核生物のそれぞれが独自にエステル型脂質や不飽和脂肪酸を獲得したとは考えにくく、原始古細菌の段階ですでにそれらを獲得していたのではないでしょうか。
とすれば、現存する古細菌の膜構造は、始源生物への壮大な「先祖返り」という可能性も考えられます。膜脂質を合成する遺伝子の比較はまだできていないようですが、その点が解明されれば、古細菌の進化系統上の位置づけもはっきりはずです。

参考サイト
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%A4%E7%B4%B0%E8%8F%8C

List    投稿者 blogger0 | 2008-12-13 | Posted in 未分類 | 2 Comments » 

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コメント2件

 ぶーけ☆ | 2009.01.15 14:42

糖脂質やリン脂質が膜状でいかだのように浮いているイメージについて質問です!
糖脂質やリン脂質が外部から情報をキャッチするのだと思いますが、情報をキャッチする場合、それからが膜上で動いて集合したりしているのでしょうか?
そしてまたもとに戻ったりしているということでしょうか?

 fkmild | 2009.01.17 17:45

脂質ラフトの大きさは、ラフト自身がその大きさや形を流動的に変えるため一定ではなく、刺激に応じて集合状態を変化させるそうです。
それからすると、情報キャッチと膜上で動くということは関係しているかも知れませんね。

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