2008-10-21

RNAポリメラーゼのはたらきを制御する「σ因子」

RNAを合成する役割を担っている、RNAポリメラーゼという酵素があります。
この酵素のはたらきを調べている中で見つけた、RNAポリメラーゼのはたらきを制御している「σ因子」について紹介します。
Chapt92.gif
RNAポリメラーゼが、遺伝子を読み取りながらmRNAを合成するようす
ブログランキング・人気ブログランキングへ 😀   にほんブログ村 科学ブログへ 😀  

 にほんブログ村 科学ブログへ


RNAポリメラーゼと一言でいっても、実はいくつかのパーツが合体して形成されています。
例えば、細菌のRNAポリメラーゼは、4個のサブユニットからなるコア酵素と、σ(シグマ)因子1個から構成されています。
spo_02.jpg
細菌のRNAポリメラーゼのコア酵素は1種類しかありませんが、シグマ因子は数種類あります。
なぜ、σ因子はいくつもの種類があるのでしょうか。
…それを考える前に、まずσ因子の役割をみてみます。
RNAポリメラーゼは、σ因子がなくても、DNAに結合して一定方向に進んでいくことができます。ところが、そのままでは、いつまでたってもRNAを合成することはありません。
σ因子が、遺伝子にあるRNA合成のスタート地点(プロモーター)を認識して、そこに強く結合することではじめて、RNA合成がスタートするしくみになっています。
遺伝子のプロモーター配列に結合したσ因子を持つRNAポリメラーゼは、転写を開始する前に、かたちを少し変化させます(コンホメーション変化ともいいます)。
そして、転写開始の準備が始まり、まずはじめの短いRNA鎖が合成されます。
そしてこのとき、RNAポリメラーゼのかたちが変わることによって、RNAポリメラーゼにくっついていたσ因子が、ポロリとはずれてしまいます。
σ因子がなくなると、RNAポリメラーゼのプロモーターへの特異的な結合は解消されます。
そうすることで、RNA合成開始点からRNAポリメラーゼは離れることができ、遺伝子を読み取りながらRNAを合成していきます。
ここまでみて分かることは、σ因子が、遺伝子のどの部分を転写するかを決定する重要な役割を担っているということです。
(転写開始位置を読み取りその部位に結合し、その後転写には関与していないことから、この役割を担っているとされています。)
いわば、RNAポリメラーゼの司令塔?と言えるのかもしれません。
このσ因子、先にも記したように、大腸菌でも数種類発見されています。
そして、その種類によって、いろいろな環境変化に対応した遺伝子を発現するのです。
(σ因子の種類によって、認識するプロモーターに違いがあるようです。言い換えれば、プロモーターの塩基配列によって、σ因子の結合の強さが決まるそうです。)
例えば、σ70因子は、大腸菌細胞内で最もよく使われており、細菌の対数増殖期に、菌体内に一定量存在します。σ70因子と会合したRNAポリメラーゼは、多数の遺伝子を転写しすることができます。
(増殖に必要ないhouse keeping遺伝子群などの恒常的発現を制御する機能があるとも言われています。)
ところが、実際の大腸菌の生存環境は、起伏に富んでいます。
つまり、栄養が枯渇したり、高熱環境になると、細菌の代謝系に急激な変化が起こるわけです。
そうすると、芽胞形成、球状体形成、鞭毛形成、耐熱性細胞形成など、環境の変化に適応した機能的・形態的変化が起こります。
こうした場合に働くのは、上述以外のσ因子です。
熱ショック、栄養障害、紫外線照射による障害、胞子形成、脱水など、さまざまな環境変化に応じて、特異的遺伝子の発現を制御しているのです。
(それぞれの環境変化には、固有のσ因子が対応しているそうです。)
———-
環境変化に応じて、すばやく適応するしくみが、こんなふうに実現されているのかぁ~、と感心してしまいました。
参考文献
『ホートン 生化学』東京化学同人
『生化学 分子から病態まで』東京化学同人
『標準微生物学』医学書院

List    投稿者 zakky | 2008-10-21 | Posted in 未分類 | No Comments » 

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.seibutsushi.net/blog/2008/10/589.html/trackback


Comment



Comment