2008-10-17

RNAがタンパク質の鍵穴を変化させる ~GluRS(グルタミルtRNA合成酵素)の研究事例~

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画像はコチラからお借りしました
10月14日記事  「原核細胞の分裂制御機構 ~群による外圧適応~」のまとめは、「その指令(分裂を開始する指令)には、なんらかの情報伝達物質と、その受容体が関与しているようです。」で結ばれています。
また09月22日記事  には、増殖因子の情報を受け取ることで細胞分裂が開始されると報告されています。
 
この2つの事例は、細胞分裂という生物にとっての基幹システムを生起させるには、何がしかの情報を認識する機能が不可欠であることを示しています。
 
生物にとっての認識機能は膜タンパクであり、情報の授受を中心的に担うのは受容体であるたんぱく質です。
タンパク質の認識機能は、ポケット(鍵穴)と基質(鍵)による特異的な認識としてよく知られています。
ところで、今回紹介するGluRS(グルタミルtRNA合成酵素)と呼ばれる酵素タンパク質は、タンパク質だけでは特異的認識が十分に機能せず、RNAと会合(2つの分子が互いに規則正しい意図した構造体を自律的に形成すること)してはじめてその特異的認識機能が発揮されるという興味深いタンパク質です。
さらにこのタンパク質は生命の歴史上最も古くから存在していると考えられており、生命の起源に近い認識機能をこのRNAタンパク複合体(RNP)が担っていたのでは?と想像させる研究発表です。
 
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■aaRS(アミノアシルtRNA合成酵素)とは?
GluRS(グルタミルtRNA合成酵素)は20種類あるaaRS(アミノアシルtRNA合成酵素)のひとつです。
では、aaRS(アミノアシルtRNA合成酵素)とはなにか?
 

tRNAはその末端にアミノ酸を結合し、塩基の配列をアミノ酸の配列に変換する橋渡しの役割をするRNA分子です。翻訳が正常に行われるためには、20種類のアミノ酸の各々が、そのアミノ酸専用のtRNAと正しく結びついていなければなりません。それを実現しているのが「アミノアシルtRNA合成酵素(aaRS)」とよばれる20種類の酵素です。各々のaaRSがひとつのアミノ酸を担当しており、適切なアミノ酸とtRNAのペアを高い精度で選び出して結合させます。遺伝暗号の正確な翻訳、つまり正常なタンパク質合成は、aaRSによるアミノ酸とtRNAの厳密な対応づけに大きく依存しているのです。

 
trna_diagram.bmp
 
tRNAの形は上記図のとおり。mRNAと接する部分のコドンの種類により1対1の関係で正確にアミノ酸(Aminoacid)を結びつける(運んでくる)必要があります。このときtRNAに正確な形のポケット(鍵穴)を形成し、目的のアミノ酸(鍵)と結合することが、aaRS(アミノアシルtRNA合成酵素)の大きな役割です。
 
そして20種類あるアミノ酸のうちグルタミン酸を正確に認識するためのaaRSが、GluRS(グルタミルtRNA合成酵素)です。これが正確に機能してはじめてGAA, GAGというコドンに対しグルタミン酸が対応することになります。
  
  
■鍵穴の形をRNAが変化させる
ではこの鍵と鍵穴に着目して下図をご覧下さい。
 
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図(A)がGluRS(タンパク質)で(B)がGluRS-tRNA複合体の立体構造で、鍵穴に相当する部分です。ここにグルタミン酸(中央部)という鍵がはまり込むようにして目的のアミノ酸を識別していますが、Aの場合は、グルタミン酸以外のアミノ酸も識別してしまい、特異的認識が十分に図られていません。
これをもう少し拡大した図が下の図で、グルタミン酸(D図中央部分の緑色の部分)しか認識できないように、周囲の分子構造(水色・紫)が正確な鍵穴を形作っているのが分かります。
 

GluRS-tRNA複合体では、かたち、大きさ、電荷分布の点でグルタミン酸を収容するのに最適な結合ポケットが形成されていました。詳細な比較から、RNAに依存したアミノ酸認識のメカニズムが明らかになりました。
 
(1)RNAの結合によってGluRS(タンパク質)に構造変化が引き起こされ、結合ポケットの再配置が行われます。
そして驚くべきことに、
(2)RNAの一部が直接グルタミン酸の認識に関わっており、タンパク質と協調して特異的な結合ポケットをかたちづくっていました。
 
tRNAと会合すると、グルタミン酸に特異的なポケットが形成されるため、グルタミン酸との親和性は上昇し、逆にそれ以外の不適切なアミノ酸との親和性は失われることになります。したがって、RNAとタンパク質が一体となることによってはじめて特異的なアミノ酸認識が達成され、アミノ酸とtRNAの正確な対応づけが可能になるメカニズムが理解されました。

引用はすべて 「タンパク質とRNAが協調して基質に適合するポケットをかたちづくる」
東京大学大学院HPより行っています。

■まとめ
それにしてもtRNAのRNAの役割が、mRNAとの照合をはかるものだけでなく、アミノ酸選択に重要な役割を果たしているとは驚きでした。
ところで、GluRSのように機能の一部をRNAに依存しているaaRSは、GluRSを含めて3種類しかないようです。
このようなRNAタンパク複合体(RNP)が単独タンパク質よりもより原始に近い認識機構だとすれば、外部要因、外部因子認識後の反応(細胞分裂やタンパク質合成)を引き起こす重要な基幹機能である、RNAタンパク複合体(RNP)に注目が集まります。

List    投稿者 chai-nom | 2008-10-17 | Posted in ①進化・適応の原理3 Comments » 

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コメント3件

 バブル | 2008.12.05 3:29

へぇ~たしかに、
>①「核」も含めて、細胞内の小器官レイアウトは、中心小体が決定している。
っぽいですね!
中心体、注目です。

 くまな | 2008.12.06 16:55

>①「核」も含めて、細胞内の小器官レイアウトは、中心小体が決定している。
どのように決定しているのかがとても気になります。何か分かっていることはないのでしょうか?

 まつこ | 2008.12.06 20:01

>「娘中心小体」
注目ですね。

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