2008-09-20

原核細胞分裂時のDNA分配について

 9/2の投稿(http://www.biological-j.net/blog/2008/09/000553.html)にあったように、「「細胞分裂過程」においては中心体がその活動の統合を担っている」のだとしたら、原核生物にも中心体に相当するものがあるのではないかと推測されます。実際、細菌などが細胞分裂する過程で、どうやってDNAの分裂がはじまり、2つの細胞に誤り無く分配されるのか、については、よく分かっていないようです。
今回は、「原核生物に中心体(の様な何か)が存在するとしたら、この辺りか?」と思われる記事を紹介します。
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 日本ウィルス学会のサイト(http://jsv.umin.jp/)から、前国立感染症研究所長の吉倉廣氏が書かれたもの(http://jsv.umin.jp/microbiology/main_007.htm)を引用させていただきます。

 複製された DNA がどうやって正確に二つの菌に分かれるかは未だ謎である。古くはJacob らが膜にDNA 複製の開始点がついているモデルを出しているが、完全に解明されてはいない(図7-3-(2))。
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(図7-3-(2))
 最近になってこの問題に関し次の様な考え方が出されている(R. Losick and L. Shapiro. Bringing the Mountain to Mohammed. Science 282, 1430, 1998)。 図7-3-(3)に模式図を載せておく(原図はここに示したものとは違うので興味あれば原著に当たること)。
 
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図7-3-(3)
 この実験はDNA複製に必要なpolC他2つの蛋白について、緑色螢光を発するGFP(Green Fluorescent Protein)との融合蛋白を細菌内で発現させ、DNA複製中の局在を調べたものである。
するとこれ等の蛋白は将来二つの細胞を分ける隔壁に当たる部分に局在した。
このことから図7-3-(3)の右側が正しいと推論できる
 上の実験で、注意して貰いたいのは、DNA合成が起こる場所は固定され、DNAの方が手繰り寄せられながら複製して行くと云う点である。DNA合成に関わる蛋白複合体が巨大な分子であることを考えると、話が良く分かる。転写の場合も同様で、RNAポリメラーゼがDNAの上を粘稠の細胞質のをかき分け動いて行くよりは、DNAを手繰り寄せてmRNAを合成していく方が合理的のように思われる。
 DNAの複製点が隔壁の出来る場所に固定されているのはよいが、これだけでは複製した2つのDNAコピーが2つの娘細胞にそれぞれ分配されることを保障できない。真核細胞の染色体はcentromereに付いたkinetochorを介して細胞の両極に別れるが(図16-3-6-(5))、細菌にも似た機構のあることが分かった。
桿菌のBacillus subtilisでRacA変異(RecAではない!)は胞子形成の異常を来すが、その原因はDNAの配分異常である。RacA蛋白をChromatin immunoprecipitationと云う技法で調べてみると、特にDNA複製中心に近い処にあるcentromere領域と結合した。 Centromereに結合するRacAは、桿状をした菌の両極に局在するDivIVAに結合した。則ち、染色体のDNA複製開始点にある centromereはRacAを介し菌の両極にあるDivIVAに結合することになる。そうなると、2つに分裂した染色体はそれぞれ1ケ所で菌の両極に付いているので、細胞分裂が起これば、染色体も2つに別れることになる。
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図7-3-(4)
 しかし、これでは、染色体の複製開始点は菌の極に付着したままになり、DNA複製に差し支える。これを制御しているのがMinCDで、菌が分裂に向けて成長している間は、MinCDが DivIVAの極在する部分に集まり、細胞分裂の開始を抑え、同時にRacAのDuvIVAへの結合も抑えるという仕組みとなっている。仮説の部分もあるが、Jacobの仮説への一つの回答である(S.Ben-Yuda, DZ. Rudner , R. Losick, RacA, a bacterial protein that anchors chromosomes to the cell poles, Science, 2003, 299, 532-536)。

リコーのサイト(http://www.ricoh.co.jp/abs_club/Science_f/Science-2003-0124.html)によれば、RacAというタンパク質が染色体をアンカーする物質として注目されていることがわかります。

細菌において染色体を分布(Distributing Chromosomes in Bacteria)
真核生物の細胞分裂においては、複雑な紡錘体構造が染色体を娘細胞に分配する。しかし、細菌においては、同様な構造体は今まで発見されていなかった。Ben-Yehudaたち(p. 532)は、枯草菌(B. subtilis)の胞子形成時に、RacAというタンパク質が染色体の分離のための役割を果たすことを記述している。RacAは、染色体の複製開始点を介してによって細胞の端に染色体をアンカーするようである。また、胞子と母細胞への染色体の分布を促進するようである。胞子を形成しない非発芽細胞において、RacAタンパク質レベルが高くなると、染色体は細胞の中心部から極へ移動する。 (An,Hn)
RacA, a Bacterial Protein That Anchors Chromosomes to the Cell Poles
Sigal Ben-Yehuda, David Z. Rudner, and Richard Losick
p. 532-536.

原核生物においてもセントロメア(動原体)と同様の構造がある、ということについては比較的よく書かれているのですが、中心体がある、という記事は見つかりませんでした。しかし、紡錘糸が存在しない以上、どこをセントロメアと呼び、どこを中心体と呼ぶべきなのか、については、さらなる検討と新たな仮説を要するのではないでしょうか。
 

List    投稿者 blogger0 | 2008-09-20 | Posted in 未分類 | No Comments » 

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