2008-05-06

最近よく聞く「iPS細胞」ってなに?

最近、ニュースでよく聞く「iPS細胞」。京大の山中教授が先に開発したとか、ドイツ系のバイエル薬品が先だとかで特許を巡る争いが始まってるようですが、そもそもiPS細胞って何?ということで、ちょっと勉強してみました。
iPScell.jpg yamanaka.jpg
ヒトiPS細胞(左)とTIME誌で「世界の100人」にも選ばれた山中教授(右)

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◆再生医療で注目されている『万能細胞』とは?
多細胞生物の体細胞は全て同じDNAを持ちますが、細胞分裂の過程でDNAに部分的な「封印」が施されることで、細胞自身が作り出すタンパク質の種類が変わり、異なった細胞に分化していきます。今、なんでや劇場で扱われている免疫細胞もその一つ。DNAの封印の場所の違いが体細胞の違いというわけです。

体細胞分化の過程。分裂のたびにDNAに異なる「封印」が施され、その違いが様々な体細胞を生む。
画像はこちらから頂きました。

通常、この封印は後戻りできません。だから、同じDNAを持っていても、一度筋肉になった細胞は神経の細胞になることはできない。逆に、まだ封印の無い状態なら色々な細胞になることができる。ここに目をつけ再生医療に使おうと研究されてきたのが、いわゆる「万能細胞」で、iPS細胞もその一つです。
「万能」といっても、実際には受精卵のように本当に何にでもなれるわけではなく、多能性幹細胞と呼ぶのが正しそうです(“理論的”には卵子・精子もできると山中氏も言っているようですが、まだまだ机上の空論らしい)。
さて、その多能性幹細胞として、今までも幾つかの細胞がマスコミ等で取り上げられてきましたが、素人には違いがサッパリ。Newton最新号によれば、こういうことのようです。
ES細胞(胚性幹細胞)
受精後3.5日目(6~7回分裂後)の「胚」から取り出した幹細胞。’81年にマウス、’98年にヒトで培養に成功。しかし、ドナーの受精卵を犠牲にしないと取り出せないという倫理問題と、DNAがドナーのものなので本人以外は拒絶反応を起こし使えないという課題が残った。
クローンES細胞
ドナーの受精卵に患者の核を移植し、一定の分裂の後、幹細胞として取り出したもの。受精卵への核移植でDNAの「封印」が解かれる、というクローンの原理を応用。患者のDNAを持つので拒絶問題は解決できるが、誰かの受精卵を犠牲にするという倫理問題は残る。
iPS細胞
DNAの「封印」を解く『初期化因子』と呼ばれるタンパク質を生成する遺伝子を、患者の細胞内に人工的に送り込み、幹細胞状態に戻す。本人の細胞しか使わないので倫理問題も拒絶問題も生じない、ということで期待されている。
要するに、つくろうとする細胞はほとんど同じで、つくり方と、それによって起こる実用上の問題が違うということでした。
◆ウイルスを利用して遺伝子を送り込む
山中教授の功績は、この初期化因子=「封印」を解くタンパク質と、そのタンパク質を作り出す遺伝子を4つまでに絞込み、実際にヒトの皮膚細胞から多能性幹細胞の作成に成功したことです。では、iPS細胞ではどうやって初期化因子を細胞内に送り込むのでしょう?これにはなんと、私たちの病気の原因にもなるウイルスが使われています。
レトロウイルスという、RNAを遺伝子として持つウイルスの一派は、細胞内に入り込み自分の遺伝子を宿主のDNAに組み込むことで増殖します。下はその一種であるHIVウイルスがヒトの免疫細胞に感染する様子ですが、これと全く同じ方法で初期化因子を患者の核DNAに組み込み、発現させることで幹細胞に戻す、というのがiPS細胞の作りかた。
HIV.gif
HIVの感染方法。レトロウイルスベクターの場合、⑤以降の自己増殖は起こさないらしい。画像はこちらから
遺伝子治療の分野では既に実用化されている方法で、この時使われるウイルスは「レトロウイルスベクター」(ベクターは“乗り物”の意)と呼ばれています。つまり、「無害なウイルス」を運び屋に使って、目的の遺伝子をRNAの切れ端の形で細胞核まで送り込み、宿主DNAの組み換えを行うというもの。おいおい本当に大丈夫?という気もしますね。
◆iPS細胞の問題点
いいところばかりが報道されてる感のあるiPS細胞ですが、やはりまだまだ課題は多いようです。最大の問題は、
もとのDNAのどの部分が組み換わるかはウイルスのみぞ知る
というところ。レトロウイルスは侵入した細胞のDNAの一部を切断し自らの遺伝子を割り込ませますが、どこに割り込むかはウイルス次第。そこに大事な遺伝子部分があれば細胞自体が異常化します。現に、この方法でうまくiPS細胞ができる確率は今のところ0.1%。しかも、この遺伝子治療法では、一見成功したように見えても時間が経過してから細胞ががん化する場合もある。つまり、iPS細胞自体ががん細胞になる可能性もゼロではないのです。
「病を治す」。この一点で、元来敵だったウイルスさえ操作するまでに医療技術を高度化させてきた人間。しかし、その行為がもたらす影響の全貌が分かったわけではない。そして倫理問題と呼ばれる領域。今回のようなニュースを目にするたびに、知識と技術の先行に比べ、その知を使いこなすために必要な“グランドセオリー”は相変わらず全く進化していない、という気がします。

List    投稿者 s.tanaka | 2008-05-06 | Posted in ⑧科学ニュースより2 Comments » 

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コメント2件

 はじめまして | 2008.06.05 21:25

たまにブログを拝見しますが、色々なresearchがあって面白いですね。大学時代の研究の日々を思い出しました。私も毎日更新ですのでよろしければどうぞ。役立つ知識は皆とシェアするのが私のモットーです。

 fu~ji~ | 2008.06.07 23:40

コメントありがとうございます♪
知的好奇心ライブラリー見ました☆
まだ始めたばっかりなんですね。
でも、毎日更新していてすごいです!
私たちも毎日更新できるように頑張ってます。
これからもちょくちょく見に行こうと思いますので、どうぞよろしくお願いします♪
大学時代は何を研究されていたんですか?
よければ教えてください☆

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