2007-09-11

安定と変異を兼ね備えた「性染色体」と「免疫細胞」の関係

体内に細菌やウィルスなどの抗原が侵入しても健康でいられるのは「免疫細胞」が体内で抗原を排除してくれるから。この免疫細胞が正常に機能するのに不可欠な遺伝子が、性染色体であるX染色体に非常に多く組み込まれているようです。
女性よりも男性の方が感染症などの病気にかかり易いというのは、男性の方が女性よりもX染色体の数が1本少なく、男性がX染色体の異常による発症率1/1000の割合だとすると、X染色体2本もつ女性の場合では2本とも異常になる確立は1/1000000の割合になるということです。
はじめに免疫細胞の概略に触れておくと、免疫細胞には、血球系といわれる好中球やマクロファージなど、食作用によって抗原を排除する原始的な免疫細胞と、リンパ球系といわれるT細胞やB細胞など相互に連係プレーで抗原を排除する免疫細胞があります。
抗原が体内に侵入してくるとまず血球系の免疫細胞が食作用で排除し、それでも排除しきれない時は司令塔役のヘルパーT細胞が登場します。ヘルパーT細胞は抗原の性質を見極めその抗原に適したB細胞に伝令を発し、伝令を受け取ったB細胞は抗体を作って抗原を攻撃します。またこれと平行して組織だって抗原を攻撃するキラーT細胞も伝令を受け取りマクロファージと共に抗原を攻撃します。そしてその戦況の様子を見極め攻撃の停止命令を出すサプレッサーT細胞によって抗原との戦いは終結します。
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このような免疫システムがX染色体に異常があると、T細胞B細胞が正常な免疫細胞として成熟しなかったり、T細胞-B細胞間や他のT細胞での指令伝達がうまく機能しなくなります。

T細胞がB細胞に指令を与えるためには、表面にあるタンパク質を介して両者が結合する必要がある。X染色体にある遺伝子がつくられるCD40Lタンパク質は、T細胞の細胞表面に存在する。B細胞の細胞表面にはCD40があり、T細胞上のCD40Lと結合することでT細胞とコミュニケーションをとっている。この遺伝子に異常が生じると、特定の感染症(とくにカリニ肺炎)に対しての免疫が著しく低下する。(伴性高IgM症候群)

Newton別冊『性を決めるXとY』
T細胞-B細胞の指令伝達にはサイトカインなどの伝達物質だけでなく、細胞間の直接接触によるやり取りが必要で、T細胞の表面にあるCD40L、B細胞の表面にあるCD40というタンパク質がお互い結合する事で情報伝達している。X染色体異常によって、この結合が妨げられ上記のようにT細胞-B細胞間での伝達がうまくいかず抗体異常を引き起こしたり、免疫反応を抑制するT細胞への伝達を阻害し、自己抗体の上昇や自己免疫性疾患を引き起こします。またその他に、

T細胞が正常に成熟するためには、X染色体にある「IL-2受容体共通ガンマ鎖遺伝子」のはたらきが必要である。この遺伝子に異常が生じると、T細胞のはたらきが失われるため、免疫機能が広くそこなわれる(重傷複合免疫不全症)。
一方、B細胞が正常に成熟するためにはX染色体にある「Btk遺伝子」のはたらきが必要である。Btk遺伝子に異常が生じると、B細胞の前段階で成熟が止まるため、抗体がまったく産出されなくなる「伴性無ガンマグロブリン血症」

Newton別冊『性を決めるXとY』
性染色体のX染色体には正常に免疫機能が働くのに不可欠な遺伝子が多く組み込まれているにもかかわらず、何故X染色体を1本欠落させるようなリスクの高い戦略を雄はとったのか?
この疑問に対しての仮説はるいネットにある西谷さんの見解に私も同感です。

オスの免疫機能の脆弱性も、「安定度の高い雌と変異度の高い雄」と言う役割分化の上にあると考えられる。我々自身が身をもって知っているように、病原体・ウィルスは、常に変異していく。その為、肉体の免疫システムで対応しきれない状況は頻繁に発生する。これは「固定的な免疫システム」では、適応して行けないことを意味し、病原菌・ウィルスの変異に適応して、免疫機能も塗り替えていく必要があると言うことである。
これは仮説だが、雄の免疫機能の脆弱性は、この変化していく病原菌・ウィルスに適応していく為のものではないだろうか。すなわち、オスは免疫機能の脆弱性と言うリスクを抱える一方で、病原菌・ウィルスに「感染すること」で、免疫機能を塗り替えていく。その為に、雄は安定的なX染色体の免疫機能の半分を失ったのではないか。
遺伝子的に見れば、安定的なX染色体の免疫機能に対し、変異(活性)的なY染色体に変異を起こすことで、外圧(病原体・ウィルス)に適応する新しい免疫機能を獲得していくのではないかと考えられる。このことは、チンパンジーと人類を比較した場合、人類のY染色体にチンパンジーのY染色体には存在しない、免疫系に関与する活性遺伝子「CD24L4」をもっていることからも仮説立証できる。
http://www.chosunonline.com/article/20060102000023
こうしてオスのY染色体が獲得した免疫機能は、減数分裂による相同染色体の組み換えによって、X染色体の免疫機能へとフィードバックされ、種全体として免疫機能が塗り替えられていくと考えられる。

るいネット
安定性変異、という矛盾する課題をどのように突破するのか、というのは生物の普遍的な課題。上記のX染色体異常による免疫細胞間の伝達阻害も、高度に役割分化された仕組みですら変異できる可能性を残しているといえるのではだろうか。

List    投稿者 nannoki | 2007-09-11 | Posted in 未分類 | No Comments » 

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