2007-06-22

生命とは動的平衡にある流れである~福岡伸一著「生物と無生物のあいだ」より

生命の起源あるいは原始生命についてのエントリーが続いていますが、「生物とは何か?」を考える入門書を紹介します。
ズバリ「生物と無生物のあいだ」福岡伸一著、講談社現代新書2007年5月発刊
注目は「ノックアウトマウスから見えてきた、ネットワークとしての生命」ですが、こちらは既にるいネットにも紹介投稿があります
http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=600&t=6&k=0&m=153584
そこで、今日はもうひとつのポイント「生命とは流れである」について、
以下はルドルフ・シェーンハイマー(1898~1941)の実験についての紹介と福岡氏による分析である。
>普通の餌で育てられた実験ネズミにある一定の短い時間だけ、重窒素で標識されたロイシンというアミノ酸を含む餌が与えられた。この後、ネズミは殺され、全ての臓器と組織について、重窒素の行方が調べられた。ネズミの排泄物もすべて回収され(た)
>ここで使用されたネズミは成熟したおとなのネズミだった。もし、成長の途中にある若いネズミならば、摂取したアミノ酸は当然、身体の一部に組み込まれるだろう。しかし、成熟ネズミならもうそれ以上は大きくなる必要はない。事実、成熟ネズミの体重はほとんど変化がない。ネズミは必要なだけ餌を食べ、その餌は生命維持に必要なエネルギーとなって燃やされる。だから摂取した重窒素アミノ酸もすぐに燃やされてしまうだろう。アミノ酸の燃えかすに含まれる重窒素は全て尿中に出現するはずである。
>しかし実験結果は予想を鮮やかに裏切っていた。

さて・・・どのような結果がでたのか??

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>尿中に排出されたのは約三分の一弱だけだった。糞中に排泄されたのはわずかに2.2%だから、ほとんどのアミノ酸はネズミの体内のどこかにとどまったことになる。では残りの重窒素は一体どこへいったのか。答えはタンパク質だった。しかも、その取り込み場所を探ると、身体のありとあらゆる部位に分散していた。特に取り込み率が高いのは、腸壁、脾臓、肝臓などの臓器、血清(血液中のタンパク質)であった。
>実験期間中、ネズミの体重は変化していない。これはどういうことを意味するのだろうか。・・つまり、ネズミを構成していたタンパク質は、たった三日のうちに、食事由来のアミノ酸の約半数によってがらりと置き換えられたということである。
>つまりここにあるのは流れそのものでしかない。私たちは、自分の表層、すなわち皮膚や爪や毛髪が絶えず新生し古いものと置き換わっていることを実感できる。しかし、置き換わっているのは何も表層だけではないのである。身体のありとあらゆる部位、それは臓器や組織だけでなく、一見、固定的な構造に見える骨や歯ですらもその内部では絶え間のない分解と合成が繰り返されている。
>よく私たちはしばしば知人と久闊を叙するとき、「おかわりありませんね」などと挨拶をかわすが、半年、あるいは一年ほどあわずにいれば、分子のレベルでは我々はすっかり入れ替わっていて、お変わりはありまくりなのである。

シェーンハイマーは、この自らの実験結果をもとにこうした生命現象を「身体構成成分の動的な状態」と呼び、福岡氏は「生命とは動的平衡にある流れである」という定義を導いている。
私たちの身体、生命というものは、決して「確固たるもの」ではなく、常に外部から必要なものを取り込んでは入れ替わる変化し続けるものなのです。そして、そのような動的な変化を繰り返しながら、形や機能といった秩序を維持し続けているのですね。
さて、このような「生命現象の事実」から私たちを学ぶことが出来るでしょうか?
よく「自分をしっかりと持て」とか「自己分析が重要」などということばに無駄に「自分探し」を繰り返し、疲
弊しては「生きるって何?」と聞いてくる人がいます。これら「周りに影響されない、流されない確かな自分」という「自我信仰」は「(身体の内外を貫く)動的平衡にある流れ」という「生命現象の事実」に反して、外部を捨象し内面ばかりを探索する誤った認識であることは明白ですね。そしてそのような「誤った認識」で自分を捕らえたところで(新陳代謝がないので行き詰まり)「自分がしんどくなる」のも明白でしょう。私たちは、このような「固定観念」から身体を開放し、「生命原理」に即して「まっとうに外部を捕らえて、それを内部に転換させていく(言い換えれば外圧を内圧に転換する)」べくまずは「意識的にでも対象に向かって開いていく、周りををよくみる」ことに注力すべきでしょう。

List    投稿者 yama3 | 2007-06-22 | Posted in 未分類 | No Comments » 

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