2007-03-06

直立二足歩行は樹上生活において準備されていた

脳についてのホットな議論が続いていますが、今日は少し「サルからヒトへ」のお話に戻ってみます。というのはNHK 生命40億年遥かな旅8 第8集「人が猿から分かれた日」を紹介しているHP http://www.wink.ac/~ogaoga/seimei8.html を読んでみると、樹上生活においてサルと人類の共通の祖先はかなり直立二足歩行を可能にする‘前適応’を成し遂げており、ある意味でサルが直立二足歩行へと移行しなかった理由にこそ、人類誕生のヒントがあるように思われてきたのです。

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まず‘前適応’とは何かというと、「ある環境変化に対する適応機能はそれまで他の動きに用いられてきた形質が転用されることで実現される」という仕組みがあって、‘適応’の前には‘前適応’があるのです。地上進出した両生類の足が本当は水中で水草を掻き分けるために進化したものであることも、その1例です。そして人類の直立二足歩行が適応的になったのは、サルの樹上生活における木登りと腕渡りにおける本能変化が前適応としてあったのです。
>人間が2本の足でバランス良く歩くために欠かせない中殿筋。その同じ筋肉が、木の幹をよじ登る時に使われているのです。木の幹に前足で捕まりながら、後ろ足で体を上に押し上げる動き。足や腰の他の筋肉を調べてみても、この動きと人間が2本足で歩く時の動きには、多くの共通点がある事が分かりました。実は、この木登りが、2本足で歩くための訓練になっていたのではないかと考えられるのです。
>また、チンパンジーのように体重の重いサルは、木の枝の上を歩くのではなく、枝からぶら下がることが多くなります。このとき背骨はまっすぐに伸びています。これもまた、まっすぐに立つための訓練になっていると考えられることです。どの様にして2本足で歩くようになったのか?その謎を説くのはそんなに難しいことではありません。私達はチンパンジーや他のサルを参考にして、2本足で歩き始めた人類の祖先の姿を想像することができます。それはたぶん、500万年以上前の森に住む体が大きくて木登りの上手いサルだったのではないでしょうか?
>森の木の上を4本の足で歩いていたプロコンスルたち。その子孫の中には、次第に大型化するものも現れました。豊かな森で育った大型のサル、それが人類とチンパンジーの共通の祖先だったとサスマン博士は考えています。体重が重くなると、いったん地上に降りて歩いて移動してから別の木の幹を登ったり、木の枝にぶら下がることが多くなりました。このような生活の中で、知らず知らずのうちに2本の足で歩くための準備が出来ていたのです。人類とチンパンジーは、この段階までは同じ進化をたどってきたと、サスマン博士は考えています。
確かに、腕渡りの猛者であるシロテテナガザルやジェフロイクモザルは二足歩行ができるそうですしhttp://www.mita.cc.keio.ac.jp/~mb050018/jehuroikumozaru.htm 、オランウータンが直立する映像を以前NHKで見た覚えがあります。
しかし、木登りと腕渡りという前適応を果たし、大型化し地上生活時間も長くなったにも関わらず、どうして地上派ザルは直立二足歩行へと移行しなかったのでしょうか?
その答えは「地上の肉食動物という外敵の脅威から逃れるには樹上を完全に捨てられなかったから」だと考えることができそうです。
サルとヒトが分かれていった時代の環境を見てみると、乾燥化が進む時代であり、森林、湿原、草原がモザイク状に広がっていた時代で、地上にはトラだのヒョウだのといった強敵がいたことが分かっています。そんな状況では、一定の地上生活は送っていたとしても、万一の場合はすぐに樹上へと避難できることが最優先の課題であって、いくら前適応していたからといっても樹上生活を捨てて、完全に地上に適応するというのはありえない選択肢だったようです。
現在でもチンパンジーもボノボも昼は地上で生活をおくるのですが、夜は樹上のベッドで眠ります。ゴリラは地上にベッドをつくるが、それでもボスが死んでメスだけの集団になると、樹上にベッドをつくるといいます。(「ヒトはどのようにしてつくられたか」山極寿一編、岩波書店)
こうしたサル学の成果を踏まえると、人類の地上進出は、ゴリラをもしのぐスーパーサルになっていたからできたことか、そうでなければやむにやまれぬ究極の選択であったか、ということになるでしょう。勿論、体の大きさ、洞窟に逃げ延び死肉漁りで生き延びたというた事実から考えると、前者であったとは思えません。さらには樹上の硬い果実に適応した私たちの祖先の歯からは、すでに犬歯は失われており、いわば丸腰同然だったのだそうです。
おそらく、そうした逆境の中、棒を持ち、集団を組んで死肉を洞窟へと持ち帰るという生活の中から、二足歩行は完成されていったのでしょう。それ程の逆境的進化を私たちの祖先が選んだのは、やはり「足が木を掴めなくなったから」なのだと思います。

List    投稿者 yama3 | 2007-03-06 | Posted in 未分類 | No Comments » 

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