2013-02-25

「生き物ってすごい」第4回~しなやかで強い、クモの糸

こんにちは~
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*画像はこちらからお借りしました。
好評の「生き物ってすごい」シリーズ、第4回は「クモの糸」です。

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(以下、枠内は「自然に学ぶ粋なテクノロジー」石田秀輝著より引用しました)

●しなやかで強いクモの糸
クモはいろいろな性質の糸を使い分けている。通常、大きく分けて七種類の糸を操っているが、その各々は太さや伸びの性能がすべて異なっていて、水に濡れると長さが半分になる糸や、引っ張ると二倍くらいまで伸びる糸などもある。その中でもっとも丈夫な牽引糸と呼ばれるクモの糸は、太さを0.05ミリメートルに換算すると絹糸119グラム、ナイロン130グラムに比べ、424グラムもの重さを吊り上げることが可能だという。
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上図に示した7番の糸(クモがぶら下がっている)が、牽引糸です。
獲物をすばやく捕まえるときや、危険から逃げる場合などの「命綱」として使います。
(画像はこちらよりお借りしました)
この牽引糸は、弾性率限界(力を取り除いても元に戻らなくなる限界、つまり伸び切ってしまうとき)ではクモの体重の二倍を、破壊限界(切れてしまう)では六倍の体重まで支えることができる。計算上、直径4センチメートルのクモの糸があればジャンボジェットをもち上げられるともいわれていて、オニグモの巣にスズメがかかって外れないことさえある。しかも、糸の重さは、同じ体積で鉄の5分の1くらいしかない。

なんだかスゴイ材料のようです。
実際、どのくらい強いのでしょうか?
人間界にある物質と比較してみましょう。



上の図は、力学分野で用いられる「応力‐歪み曲線図」と呼ばれるもので、材料に張力を加えて、どの程度の力でその材料が破断するかを、実験したデータです。
図に示す★のポイントを「降伏点」といい、このポイントよりも左側は「引っ張っている力を取り除くと、元の形状に戻る領域(=弾性領域)」、このポイントよりも右側は、「かけている力を取り除いても、伸びっぱなしでもう元の形状に戻らない領域(=塑性領域)」です。
この図から、クモの糸の特徴を2点、読み取ることができます。

特徴①「しなやかさ」=弾性限界応力が大きい
これは、「より大きな重さのモノを吊り下げても、それを外せばもとの長さに戻る」ということです。
ちなみに、クモの糸の弾性限界(=力を取り除けば、元の長さに戻る領域)は、クモの体重の約2倍。これは、必要最低限の命綱としての役割を担っていることを示しています。しかもこの強度は、クモの成長に合わせて、それぞれの時期の体重の約2倍の強度をもつように設計されているのです。この効率の高さには、目をみはるものがあります。

特徴②「強さ」=破断強度が大きい
クモ糸の中でも命綱として機能する「牽引糸」は、2本以上の糸がより合わさってできています。図の一番大きな山は、2本のうち1本目の限界点を示しています。その後、1本目が破断しますが、まだもう1本が残っているため、クモの糸の線形はこのような独特の形を示すのです。1本が切れても体を支えられるよう設計された、安全性の追求された糸なのです。またこの「切れにくさ」ゆえ、一度巣にかかった獲物が逃れにくいのです。
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鳥を捕食するキイロジョロウグモ。沖縄に棲息し、世界でもっとも頑丈な糸を吐くクモだそうです。
(写真はこちらからお借りしました)

         

クモの糸は、お腹の中のドロドロした液状のタンパク質が、おしりの先端から分泌するときに、引張り応力により不溶性固体へと変わることで作られます。熱を加える必要のない、クモ糸生成のメカニズムは、きわめて効率的なのです。

クモの糸をカイコのシルクのように大量につくることができるようになれば、まったくあたらしい丈夫な繊維として利用できる。しなやかで軽く、鉄よりも丈夫な繊維はパラシュート、防弾チョッキなどへの代替だけでなく、新用途として一般衣類、ロープ類、生活用品、さらには、新規な繊維強化プラスチック(FRP)素材などへの展開も考えられる。
ただ、大量に糸をつくることは容易ではない。クモは肉食で共食いをしてしまうので、カイコのように大量飼育して糸をつくることができない。大腸菌やヤギにクモの糸のタンパク質をたくさんつくらせるという試みもあったが、うまくいっていない。現在は、遺伝子組換えカイコにクモの糸を吐かせるという試みが精力的に行われている。

うーん、具体的な製品開発まではもう少し時間がかかりそうです。
とりわけ、実用に耐えられる製品をつくるには、大きなエネルギー(=コスト)がかかるのも、難問のひとつと言えそうです。
クモは、4億年という長い進化の歴史をかけて、環境に適応したすごい糸を作り上げたのです。
その歴史を思うと、私たち人間がわずか数十年でこの技術を真似するのが難しいのは、当然かもしれませんね。

いかがでしたか?
今日は、クモの糸の「しなやかさ」と「強さ」を、応力 と ひずみ という材料力学の視点から見てきました。
生物のすごさが、またひとつ明らかになったと思います
次回の「生き物ってすごい!シリーズ」もお楽しみに

List    投稿者 kanae | 2013-02-25 | Posted in ⑨おもしろい生き物No Comments » 

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