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政府広報「放射線についての正しい知識を。」の社会的問題性

image2 [1]2014年8月17日付政府広報「放射線についての正しい知識を。」(リンク [2])という政府広報が、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、産経新聞、日経新聞の大手5紙と、福島民報と福島民友の地方紙2紙に掲載されました。

 

今年の8月3日、政府が福島県から避難されている方々を対象に行った放射線に関する勉強会を開催し、放射線に関する様々な化学的データや放射線による健康影響などについて、東京大学医学部附属病院 放射線科准教授の中川恵一氏と、国際原子力機関(IAEA)保健部長のレティ・キース・チェム氏の専門家による講演の概要をまとめたものです。

中川恵一氏の講演まとめの見出しは「放射線について慎重になりすぎることで、生活習慣を悪化させ、発がんリスクを高めている」というもので、小見出しとして「放射線の影響に関する深刻な誤解」「福島で被ばくによるがんは増えないと考えられる」「運動不足などによる生活習慣の悪化が発がんリスクを高める」となっています。

レティ・キース・チェム氏の講演のまとめの見出しは「国際機関により設定された科学的な基準に基づく行動をとってほしい」というもので、小見出しとして「放射性物質は様々な場所に」「人体にとって有害な放射線量とは」「科学的な根拠に基づいた国際基本安全基準」となっています。

講演の概要の下には、放射線と生活習慣の発がんリスク比較した表、震災後検診結果の推移(糖尿病型が9.4%から11.3%に増加していることと、糖尿病によるがん罹患リスクの上昇を示したもの)が掲載されています。

この政府広報に対しての抗議や問題視する声がネット上にもたくさん上がっています。日本国民を愚弄している上、筆者と政府広報官の心の有り様や知性が余りに酷いものです。このような稚拙な政府広報で新聞の一面に掲載するなど許しがたい行為です。今日は政府広報の問題性についていくつか記事を紹介したいと思います。

 ■放射線リスクの問題と政府広報

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放射線のリスクについて、さまざまな意見がある中、政府広報としてこのような全面広告を掲載することについて考えたい。

原発事故による健康影響が放射線リスクだけではなく、運動不足などが糖尿病の原因となり、さらには癌の罹患リスクが上昇する、という指摘は誤りではない。

むしろ運動不足だけではなく、原発事故に伴う、生活環境・住環境の悪化、地域の生活基盤の破壊、コミュニティ・人間関係の悪化、将来の不安等によるストレスなどの健康影響は、いずれも原発事故によって生じているものであり、紙面では、これらの点についての言及が足りないくらいである。

また、事故前からもともと存在する自然起源等の放射線とその程度を知ることも、現実の生活において放射線問題に対処するにあたり有用なことでもある。

この政府広報の一番大きな問題は、国が原発事故の反省もなく他人事のようにこれらを示していることにある。福島第一原発事故について、国に大きな責任があることは言うまでもなく、スタートラインにおいて、国に対する大きな不信があると認識することが重要である。

原発事故に責任のある国が、放射線リスクより運動不足のリスクが大きいので、放射線リスクは気にしないようにしましょう(とは書いていないがそのような印象を与える)、喫煙、大量飲酒、やせすぎのリスクの方が被ばくリスクより大きいから放射線リスクは気にするまでもない(とも書いていないがそのような印象を与える)と広報をすれば、却って不信を増大するばかりではないだろうか。

※『政府広報「放射線についての正しい知識を。」の問題 [4]』より引用。

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このような講演者の言葉を「政府広報」として載せるのは、「個人が言ったことをそのまま載せたので政府に責任はない」では済まされないことです。こんな乱暴な論理を政府広報として発信して許されるわけがありません。

■必要とされているのは一般論的な放射線の「知識」ではない

Rethy K Chhem [5]

国際原子力機関(IAEA)保健部長のレティ・キース・チェム氏は「皆さん不安を感じており、放射線に関する知識を求めていることを実感しています」とあるが、被災者が必要としているのは本当に「知識」なのだろうか。

チェルノブイリ事故から10年後にベラルーシのオルマニーという人口1300人の村で欧州委員会の支援を受けて行われた取り組みでは、放射能の知識を教え込むことや、住民の持つ不安を否定することでは問題が解決しない、という教訓を得ている。実際に住民が生活の中で自らの取り組みを通じて被ばくを低減し、生活を回復するのに役に立つことが、生活を取り戻すために有効な方法であることが、地に足のついた取り組みを通じて分かっているのである。

住民の不安を気のせいだとばかりに否定し、トップダウンで「正しい知識」を与え、「問題はなにもない」と説明することでは解決しない問題であることを、日本政府は全く理解していないことが、今回の政府広報によく現れている。

国(環境省)は、災害がれきの広域処理の際にも、広告代理店に二十数億円の税金を投じて、事実と異なる印象づけを熱心に行ったが、全く役に立たなかったどころか逆効果だった。単にマスメディアを「大本営発表」に利用することでしかなかった。

足りないのは「一般論的な知識」などではない。被災者が本当に直面している困難と必要としているものが何かを現場から学ぼうとする努力、意思決定の透明性や住民自らの関与の機会、被災者の選択肢を増やし具体的に支援する努力が、絶対的に不足しているなかで、そうした上っ面の情報提供はかえって被災者や不安に思っている人々の気持ちを考えていない。

※『政府広報「放射線についての正しい知識を。」問題 [4]』より引用。

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“リスク・コミュニケーション”は、リスクに関する情報をできるだけ公平に説明し、受け手がリスクとメリットを判断して行動を選択できるようサポートするものであるべきです。その判断は説明者が押し付けるものでなく、受け手が考え追求する材料を提供するものであるべきです。

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低線量被ばくリスクに関する情報には、原爆被爆者の調査だけでなく、CT検査のがん影響、自然放射線のがん影響など、数多くの報告がなされています。それらをまったく無視して中川恵一氏の「100ミリシーベルト以下の被ばくではがんが増加しないことを証明するのは、「福島にパンダはいないことを証明する」ことと同じほど困難」とするのは、不誠実な態度であるといわざるおえません。また、メリットに関しては、医療行為に使う放射線は被ばくを受ける個人に利益が発生するものだが、原発事故による環境汚染由来の被ばくは、個人が受けるベネフィットはない。選べる前者と、押し付けられる後者の被ばくは比較できません。対立する意見があればそれに言及した上で、リスクとメリットの幅広いデータを公平に示し、個人が納得して判断できるようサポートするべきと考えます。

被ばくを恐れて運動不足になるとがんリスクが増えるというのは、脅しのようなロジックで使うべきでないのです。

 

今回のような政府の姿勢も含め、今、我々自ら考え追求していかなければならない時代が来たのだと思います。現在、このブログでも、この問題を改善するために多様な視点から、追求していっています。みなさん、共に追及していきましょう!

【放射性物質を無害化する微生物vol.1】~放射性物質を吸収する微生物編~ [6]
【放射性物質を無害化する微生物vol.2】~放射性物質を分解する微生物編~
【放射性物質を無害化する微生物vol.3】~原爆と原発の違いと放射能耐性微生物の効果~ [7]

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