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デルス・ウザーラから学ぶ2 ~始原人類にとっての精霊信仰とは?~

前回 [1]に引き続き、始原人類の意識や思考に同化するにあたって、デルスウザーラから色々を学ぼうと思います。

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※画像はコチラ [3]よりお借りしました。

※黒澤明監督の『デルスウザーラ』とは?

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20世紀初頭(明治末期)のロシア沿海州への探検記(アレクセーニエフ氏記)の実話をもとに映画化されたものです。
主人公のデルスは狩猟少数民族のゴリド人で、近代化が徐々に進展する渦中ながらも、色濃く原始の風習や思考を色濃く残す人物でした。
主人公デルスのその有り様から、同類や万物と一体化するとはどういうことか、彼(原始人類)にとって精霊とはどういう存在か等を感じとっていきたいと思います。

デルス・ウザーラから学ぶ万物との一体化とは? [1]より
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前回の記事では、デルスの類まれなる洞察力や観察眼、不屈の精神などを見てきましたが、映画後半、彼は森の中のトラを猟銃で撃ってしまいます。
すると、そこから一気に彼の視力は一気に衰え、気力そのものが衰弱していってしまいます。

トラはゴリド人によって崇拝されている”森の精霊(ガニガ)の使い”として見られていたようなのですが、なぜトラを撃ったあと、デルスは(気力も視力も)急速に衰弱していったのでしょうか?

 

■1.ゴリド人が崇拝している森の精霊の象徴(カニガの使い)は何故トラなのか?

そもそも、何故トラは森の精霊の象徴だったのでしょうか?
ただ、『強い』から崇めたてられている訳ではありません。例えば、アイヌでは「クマ」、エジプトでは「フンコロガシ」が精霊として信仰されています。『強い』から崇めたてられるのは守護神信仰(自分の都合)の発想です。

生態系が崩れる時は、生態系(食物連鎖)頂点にいる動物が崩れる時。森の生態系の頂点にいるトラが減ると草食動物が増え、過剰に草木を食い荒らすため森が破壊されます。トラは、森の循環の中の”秩序を作っている”存在。デルスはそのことを掴んでいるのです。森の生態系のエネルギーから抽出した本質の要がトラであるということ。

したがって彼らにとって”精霊”とは、決して抽象的なものでは無く、徹底した現実直視によって全体を掴んで(包含して)受容したうえで、生態系のエネルギーを理解して措定している。【生態系の頂点にトラがおり、脅威の対象であることも踏まえて、森の秩序を作っている存在】として措定しているし、前回の太陽の捉え方だって、【太陽もエネルギー全体の中の秩序を作っている】というのも分かっている。

つまり、始原人類の【精霊の措定】とは、徹底して現実に立脚した”科学思考(認識)”なのだということが分かります。

 

■2.では、気力も視力も(心身ともに)急速に衰弱していったのはなぜか?

森の秩序の要であるトラを殺す=精霊を殺すということ。彼らにとっての精霊とは現実に立脚した精神的支柱のようなものです。「万物(世界)と自分が一体だ」という意識の中で、万物(世界)の秩序を壊すということは、同時に自分(=主体)の要を壊してしまったということ。
※罪悪感(罪を犯した自分、被害にあった相手という対象が分かれているわけ)ではない。

現実に立脚し、本能・共認を再統合しているのが精霊であり、精霊が全ての意識統合の最先端の位置にある。
だからこそ、トラ=精霊=その観念(意識)が壊れたことによって、観念で再統合されていた「本能も共認も」含めて、すべてがうまく機能しなくなり、心身ともに一気に衰弱していったのではないでしょうか。逆に言えば、精霊があることで本能も共認も真っ当に作動していたとも言えます。

 

■3.始原人類にとっての精霊信仰とは?⇒現代人にとっての観念とは?

凄まじい洞察力や、観察眼も本能・共認の力そのものを精霊がさらに引き上げていったからこそ。
つまり、本来人類にとって精霊や、精霊を構造化して表現した観念(言葉)は、成長や能力を規定するほどの力を持っており、活力源だということ。

デルスで1900年代くらいなので、山の中に居たとはいえど現代人に近いです。
デルスは、猟師で“鉄砲”を使って獲物を捕り、お金に変えているので、市場社会により、その精霊信仰の度合いも崩れ始めている時期の人類です。
それでもなお、その精霊が崩れたことによる活力衰弱の度合いから見て、もっと以前の始原人類の活力(=能力)は想像を絶するものであると予想できます。

★改めて、”精霊”とは抽象的なものではない。徹底した現実直視によって全体を掴み具象化したもの=科学認識であり成長や能力を規定する一番の活力源。ここが最大のポイントです。

現代は逆に活力も衰弱し、観念も衰弱し、言語能力も衰弱しています。
だからこそ、その突破口である、【万物との一体化】と【観念の再生】は、現代人にとって、非常に重要な課題だということもデルスから学ぶポイントなのではないでしょうか。

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