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【番外編】一次共生はシアノバクテリアだけなのか?

前回 [1]に引き続き、もう少しシアノバクテリアについてその構造を見ていきます。

地球に生命が誕生してから、初めて光を利用し、酸素発生型光合成を行った生物は原核生物の「シアノバクテリア」です。
その特徴は細胞を包む膜が2枚あることです。細胞質と接している内側の細胞膜は「内膜」、リポ多糖類に覆われている外側の膜は「外膜」といいます(図:シアノバクテリアの外側2つの実線の円)。内膜と外膜の間には「ペプチドグリカン層」があります(図:シアノバクテリアの外側2つの実線の円に挟まれた点線の円)。内膜の内側には光化学反応が起こる「チラコイド膜」(図:細長い円)があり、そこで光合成をしています。また、チラコイド膜には、「フィコビリソーム」(図:チラコイド膜に付着する黒い丸)という大きなタンパク質複合体が結合しています。

                           (Keeling 2004をもとに作図)

光と二酸化炭素を使って糖を貯めて酸素を放出する「酸素発生型光合成」は、数億年とも数十億年ともいわれるくらい長い時間をかけて出来上がった仕組みと言われています。シアノバクテリアが単系統であることはつまり、原核生物の中で光合成の代謝系を作ることに成功した生物が1つしかいない可能性を示しています。

生物の進化の中で、光合成の代謝系を作ることがいかに大変であるかを物語っています。

生き物が様々な代謝系を作り、且つ連携させることは非常に長い時間が必要です。光合成の代謝系も同じです。

真核生物は、ちょっと異なる性質を獲得した個体が生まれ、やがて元の生物とは異なる新たな生物種に分岐・進化してきましたが、多様化した生物種の代謝系は、どの種を取ってもほぼ同じなのです。

ところが、真核藻類の光合成の代謝系は、真核生物の進化の中で突然現れた代謝系です。どういうことでしょうか?この答えが、「一次共生」といわれる細胞内共生なのです。

長い期間をかけて作られたシアノバクテリアの光合成の代謝系は、光と二酸化炭素と水があればエネルギーが作り出せる素晴らしい仕組みです。この光合成の代謝系を自分のものにできたら、独立栄養で生きていけます。仮に、私たちが光合成をできたら、食事をしなくても生きていける、というようなイメージです。

この光合成の仕組みを丸ごと取り込んでしまった現象が「一次共生」といわれるものです。言い換えると、真核生物がシアノバクテリアごと細胞内に取り込んで、自分の一部として共生させてしまったのです。そして、この共生したシアノバクテリアこそ、真核生物の光合成器官の「葉緑体」となったのです。
しかし、葉緑体は植物細胞だけにあって、動物細胞にはありません。
(※そもそも動物と植物はどのようにして生まれてきたのでしょうか。)

生物にはさらに菌類、原生生物、バクテリアがあるので、全体で5つの界がありますがその大先輩がシアノバクテリアです、20億年前から光合成をしていました。しかし生物の全部が光合成するわけではありません。

そのエネルギーはどうやって得られるのでしょうか。

エネルギーには運動、位置、熱、電気、化学、核、質量エネルギーなど、いろいろな種類があってしかもお互いに変換できます。

エネルギーは高低差で生まれる。
例えば燃やすという現象は化学変化ですが、厳密にいえば電子が低い軌道に落ちることでエネルギーを出します。
原子炉でも原子核の中で陽子や中性子が落ちることで莫大なエネルギーを放出するのです。生命のエネルギーも化学反応であり同じ原理となっています。

炭水化物と酸素が反応して、エネルギーゼロで安定した水と炭酸ガスになります。
それをまた高いところに持ち上げるのが、葉緑体の捉えた太陽エネルギーで、逆の反応によって安定した水と炭酸ガスから炭水化物と酸素をつくるというわけです。これが光合成で、生命エネルギーの源はやはり太陽エネルギーです。

さてそれでは光合成システムを持たない生物はどのようにしてエネルギーを得ているのでしょうか。

彼らは光合成でつくられた有機物を食べています。そこでおきている反応は光合成とは反対で、呼吸などによって酸素を消費し、有機物を分解してエネルギーを得ているのです。その役割を担っている器官がミトコンドリアで、生命エネルギーの発電所になっています。

植物自体も有機物を生産するだけでなく、夜間には自分でも酸素を取り入れてエネルギーを消費して二酸化炭素を放出しています。葉緑体とともにミトコンドリアも持っているからです。
しかもそれぞれが独立したDNAを持っています。太陽光エネルギーを光合成でとりいれたらそのまま使えばよいのに、一度有機物にしてからまた分解してエネルギーにしているのです。

ミトコンドリアもまた独立したバクテリアでした。まずミトコンドリアがある真核細胞に侵入し、酸素を呼吸することによって有機物から莫大なエネルギーを得てその細胞は活動的になり(=代謝を高める必要があり)、やがて動物へと進化してゆきました。

ところが、ミトコンドリアを取り込んだ細胞のなかで、シアノバクテリアも取り込んだものが現れたのです。
この細胞は大きなエネルギーを消費しますが、同時に太陽光と水だけでエネルギーを生産できるので、もう動き回る必要がなくなって太りすぎて寝て暮らすようになりました。それが植物になったのです。

動物の中にも光合成する種が存在します。
『光合成~色素体とは何か?』 [2]でも紹介したウミウシの仲間やサンショウウオの仲間以外にもヒドラやカタツムリなどのようにシアノバクテリアと共生して、光合成を行っているのです。

これを動物へと進化以降の過程で取り込んだのかと見るべきか、あるいは動物の真核細胞も葉緑体の原型のようなものを持っており通常は発現しておらず(封鎖されており)、環境の変化など適応の仕方で発現するとみるべきなのでしょうか。
もう少し追求してみたいと思います。

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