前回『3段階の進化の原理と陸上進出した両生類』 [2]で、38億年に及ぶとされる悠久の生命の歴史の中では、実に不思議なことに滅び去っていったのは強者である勝者たちであり、最終的に生き残ったのは常に敗者の方であり、その敗者たちによって、生命の歴史が作られてきたことを、進化の歴史の中に見てきた。
その事例が、魚類の中の敗者の中から進化した両生類であるが、ほぼ同じ時期にエビやカニなどの水生節足動物から昆虫が進化し、陸上適応した。それではその歴史を見ていこう。
☆☆昆虫の環境への適応力
☆小さな体と、高速で反応できる小さな脳
昆虫の脳の神経細胞は100万個程で、人間の脳の1,000億個に比べて、極めて少ない。そのため、大容量の情報を高度に統合する能力は昆虫にはない。
しかし、昆虫は、脳以外に頭部、胸部、腹部にある神経節という分散脳ともいえる器官を使って行動している。たとえば、昆虫は頭部を切断されても羽ばたきや歩行をし続ける。これは、胸部や腹部に残った神経節だけで運動の一部が制御されているからだ。 [3]
このため、昆虫は外圧に対して、反射神経に近いスピーディーな反応が出来る。
これらの機能を利用して、現在でも昆虫類は地球上で繁栄を極めており、500万種以上の種類があると言われている(ほぼ毎日新種が見つかっているそうだ。ちなみに現在のほ乳類は約4000種である。)
昆虫の脳と神経節 [4]
つまり、昆虫はずば抜けた環境への適応力を持っているのだ。
このシステムは、小さな昆虫の素早い運動を支えている。このような特徴を備えた昆虫はどのように進化してきたのかを見てみよう。
☆☆昆虫の陸上進出
古生代に世界中の海に大繁栄していた三葉虫は古生代の終りに絶滅したが、約4億年前頃からその仲間である節足動物(エビやカニ)が繁栄し、カブトガニやエビの仲間が、植物に続いて地上に進出した。さらに、その中から昆虫が登場する。 [5]
脊椎動物の両生類と同じく、節足動物も魚類から逃げて、空気呼吸の機能を獲得して地上に進出したことになる。
☆節足動物系が陸上進出できたのはなんで?
節足動物系がいち早く陸上進出を果たせた要因は、「草食」、「外骨格」、「気管呼吸」にある。まず、外骨格は、体内における水分保持や紫外線、重力等から体を保護するのに役立ち、陸上での生活に早く適応することを可能にした。
さらに、彼らの呼吸法が、脊椎動物と比して、陸上適応し易い種であった事も、陸上進出を実現した重要な要因だと推察される。
それは、昆虫類の体の側面には、気門という穴が開いていて、そこから気管が体中に張り巡らされ、体中の組織に直接酸素を届けていることが関係している。
つまり、昆虫以前の節足動物は、水の中にいる間、酸素を含んだ水を気門から取り入れることで呼吸をしていたが、陸上に出てもその仕組みは、水を取り込むか、空気をそのまま取り込むかの違いがあるだけで、ほぼそのまま用いることができたからである。
但し、昆虫は気門を利用して「体の隅々まで酸素が供給できる大きさまでしか巨大化できない」という制約があるのであまり大きくなれない。それ故に、小型化の道を選んだ。
この進化の傍流に、約3億年前の酸素濃度が高かった時代に、体調70cm程度のメガネウラ [6]と呼ばれる巨大トンボも存在していた。酸素濃度が大きさを規定している事例である。
それに加えて、水域に生活していた昆虫類の祖先は、先に陸上に進出した植物=餌を求めて水際に集まったが、そこにムカデ類、サソリ類、クモ類などの多くの捕食者も集まるようになり、水際は熾烈な捕食関係の舞台となった。
この結果として、有翅昆虫類が登場した。この進化も小型で軽量と、分散脳による俊敏な羽ばたきができるという特性をうまく使って、飛翔するという機能を実現したことになる。
トンボのヤゴと成虫