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歳をとるにつれて時間経過が早くなる?~動的平衡から見る時間の流れ~

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 大人になり、1日・1ヶ月・1年が早く感じるようになったとよく聞きます。

なぜ大人になると時間が短く感じられるのでしょう?

科学的には、人間の時間の感じ方の差異について、いまだ解明されていませんが、 生物学的理由から一つの仮説が立てられます。

生命とは動的平衡にある流れである1 動的平衡とは何か? [1]」より、生命の流れである動的平衡は、以下のように定義づけられています。

生物が生きているかぎり、栄養学的要求とは無関係に、生体高分子も低分子代謝物質もともに変化して止まない。生命とは代謝の持続的変化であり、この変化こそが生命の真の姿である。

このように生物は日々代謝を繰り返し、その機能を維持しています。

この代謝のスピードは各生物で異なることに注目すると、代謝のスピードによって時間感覚も変化すると考えられるのではないでしょうか?

そこで、人間の時間感覚について、動的平衡という視点から調べてみました。

 

 

○体重とエネルギー消費量の関係~体格が小さいほどエネルギー消費量は大きい~

はじめに、動的平衡の代謝のスピードについて、生物別に注目してみましょう。

生物の体格とエネルギーの消費量の関係を考えると、小型の生物ほど早く動けるのでエネルギーの消費量は多くなり、その分の食事を必要とします。例えば、ネズミは4日で自分の体重と同じ量の食事をしますが、ゾウは一ヶ月以上掛けます。

つまり、小型の動物ほど、代謝のスピードが早いと考えられるのではないでしょうか。以下に、生物の体重と、エネルギー消費量の関係を示します。 生体別体重・エネルギー消費量

グラフの通り、体重に対するエネルギー消費量に注目すると、大型の生物に比べ、小型の生物は体重に対する食事量の比率が大きくなります。 人間でみた場合、成長のためとも考えられますが、子供は大人よりも、体格が小さいため、体重に対するエネルギー消費量が大きいと言えます

以下に、人間の年代別に、基礎代謝量と心拍数を比較した表を示します。

 年代別基礎代謝量・心拍数

 

表の通り、子供から大人へ成長するにつれて、心拍数が下がり、体重に対する代謝が低くなっていることが分かります。

 

○動的平衡から見る、体内時計の仕組み

 動的平衡の流れの中で、生物はその体を構成するタンパク質の分解・合成を繰り返して、生命を維持しています。 

見た目にはわからないけれども、私たちの体の細胞という細胞は身体の中で、ものすごい勢いで入れ替わっています。この細胞の新陳代謝速度が体内時計の秒針であると仮定します

 例えば、生まれたての赤ちゃんは、半年で体重が3倍近くにもなるし、子どもたちは、1年で身長が驚くほど伸びます。代謝速度がとても早い分、体内時計の進み方も早いと考えられます。一方、大人は、タンパク質の代謝回転が遅くなる分、体内時計の進み方も遅くなります。

以下に、人間の成長における、感覚的時間と体内時計のグラフを示します。

成長による時間感覚の変化

 グラフのように、時間の感じ方は徐々に長くなっていきますが、実際の物理的時間は、いつでも同じスピードで過ぎていきます。

自分の中で感じる感覚では、まだ半年くらいしか経っていないように感じているにもかかわらず、カレンダーを見ると、予想以上に時間が経っているというギャップを感じることになるというわけです。 

人間の時間の感じ方の差異については、いまだに解明されていませんが、新陳代謝から比較した時間感覚は理論整合した仮説と言えるのではないでしょうか。

【参照】

○「動的平衡1」福岡伸一著

脈拍数・心拍数の正常値・基準値Q&A [2]

ゾウの時間・ネズミの時間 [3]

 

[4] [5] [6]