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脂肪由来幹細胞(ASC)って何?

前回の記事http://www.seibutsushi.net/blog/2023/02/8607.htmlでは、昆虫がさなぎになるときにドロドロの状態になっており、その正体は何なのか?を追求していきました。ドロドロの状態は「幹細胞に戻っている」こと、加えてその元は「血液」ではないか?と仮説を立てました。
今回はその「幹細胞」について深めていきたいと思います。

最近の研究ではこの幹細胞は、骨髄ではなく、脂肪内に大量に潜んでいるという事実が明らかになってきています。幹細胞が何かカギを握っていそうです。
今回は「幹細胞」についてみていきたいと思います。

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私たちの身体をつくっている皮膚や血液などは、ひとつひとつの細胞の寿命が短いと言われています。
(中でも腸壁の細胞が一番入れ替わっているそうです。)
そこで、絶えず入れ替わり続ける組織を保つために、失われた細胞を再び生み出して補充する能力のある細胞を持っています。こうした能力を持つ細胞を「幹細胞」と呼びます。幹細胞は次の2つの能力を持っています。

①皮膚、赤血球、血小板など、私たちの身体をつくるさまざまな細胞を作り出す能力(分化能)
②自分と全く同じ能力を持った細胞に分裂することができるという能力(自己複製能)

 

幹細胞と言えば、世間ではES細胞やiPS細胞が知られています。これらの細胞は人工的に作りだされた特殊な細胞です。またiPS細胞から一度組織細胞になると、再びその組織細胞はiPS細胞には戻らないと言われています。

一般的な幹細胞は“人間の成長を支える細胞”で、幼少期は大人よりたくさんの幹細胞が存在しています。大人になり、見かけの成長が止まっても幹細胞は存在しており、一生を通して、組織が損傷したときに細胞を補填する働きをしています。幹細胞にもいくつか種類があり、これらは「組織幹細胞(成体幹細胞・体性幹細胞)」と呼ばれます。
なかでも骨髄などに存在する「造血幹細胞」は、臨床応用も活発に行われはじめています。しかし、脳や心臓などの組織幹細胞など、組織によっては生体内から幹細胞を分離することが困難で、治療に用いることが難しいものもあるのが現状です。

そこで注目されているのが★「間葉系幹細胞(MSC)」です。
間葉系幹細胞は、発生過程で中胚葉から分化する脂肪や骨になることができ、その上成人の骨髄、脂肪組織や歯髄などから比較的容易に得ることができるとされています。
間葉系幹細胞は、以下の特徴を持っています。

①骨芽細胞、脂肪細胞、筋細胞、軟骨細胞など、間葉系に属する細胞への分化能を持つ
②免疫抑制作用も併せ持つ

 

以上から再生医療や治療抵抗性免疫疾患に対する臨床応用が期待されています。また最近の研究では、間葉系幹細胞は内胚葉系の内臓組織や外胚葉系の神経などの細胞にも分化する能力を持つことが分かってきています。

間葉系幹細胞は種々の組織から樹立できますが、なかでも脂肪組織は大量のMSCを含むとともに、そこより樹立したMSCは増殖が速く細胞活性も高いため有望な細胞ソースと考えられています。
脂肪組織由来間葉系幹細胞(ASC)を利用した基礎研究、前臨床試験は、血行再建、心筋再生、軟部組織修復、尿失禁、抗炎症、免疫療法、造血支持療法などの分野で進められており有望な結果が報告されているようです。

脂肪組織はその体積のほとんどを脂肪細胞で占めており、その間隙には血管内皮細胞やペリサイト (血管周皮細胞)、マクロファージ、間葉系幹細胞などが含まれています。これらの細胞群は、採取した脂肪組織をコラゲナーゼ処理し遠心することにより分離でき、分離した細胞群を培養していくと他の細胞は死滅するため ASC を樹立することができるようです。

骨髄中に含まれる間葉系幹細胞(BMSC)の数は、総有核細胞数の 0.001~0.01%と非常に低い割合とされています。加えて確定的ではないものの、加齢とともに採取した MSC の増殖スピードが遅くなるとの報告もあり 、骨髄からでは治療に必要な量のMSC 樹立が困難となる可能性があります。脂肪組織 1 gから約 5000個の ASC が採取できるとされ、これは同じ量の骨髄組織より 500 倍も多く、しかも増殖スピードはBMSC よりも早いので比較的容易に必要量を確保できるようです。

上記事実より、幹細胞は大半が脂肪でつくられているのではないか?というところが一番のポイント。
ではなぜ脂肪なのか?という部分はまだまだ追求の余地があるので、引き続き追求していきたいと思います。

参考文献
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjtc/59/3/59_450/_pdf/-char/ja

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