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サル社会の構造16 ~テナガザルの特徴 チンパンジー編~

これまでサル社会の構造を追求していく中で、様々なサルが登場してきました。

特に共認機能を獲得した真猿では、テナガザル・オナガザル・オランウータン・ゴリラ・チンパンジー…etcと種類も様々。現在の定説ではチンパンジー起源説が主流ですが、人類との類似点はオランウータンの方が多いことから「オランウータンが起源ではないか?」などの仮説も出ています。何が事実かは分かりません。

そこで、サル社会の構造をより深めていく上でも、各種サルの特徴や違いを掴み、この先の追求の土台としていきたいと思います。本日は「チンパンジー編」を扱っていきます。

■分布

・哺乳綱霊長目ヒト科チンパンジー属に分類される類人猿。

・生息地はアフリカ(ウガンダ、ガーナ、カメルーン等)。熱帯雨林から山地林・サバンナなどに生息する。

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※画像はリンク [2]より引用

 

■形態

・頭胴長(体長):オス85センチメートル、メス77.5センチメートル。

・体重:オス40 – 60キログラム、メス32 – 47キログラム。

・全身の毛衣は黒く、顎の毛衣は白い。脳容積は397ミリリットル前後である。

・顔は黒や肌色。成長に伴い額がはげ上がり(オスで顕著)、顔が黒ずむ。

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※画像はリンク [2]より引用

 

■生態

<行動圏域>

・樹上性だが、地表では前肢の指関節外側を接地して四足歩行(ナックルウォーク)する(昼行性)。

・10~20平方キロメートルの行動圏内で生活するが、乾燥した地域では行動圏が数百平方キロメートルに達することもある。

 

<食性>

・食性は雑食で、主に果実を食べるが種子、花、葉、樹皮、蜂蜜、昆虫、イノシシ類・サル・ダイカー類・ハイラックス類・リス類などの小型から中型哺乳類なども食べる。サルをオスが集団で協力して、狩猟することもある。

 

<繁殖>

・繁殖様式は胎生。野生下での妊娠期間は207 – 259日、飼育下では202 – 261日という報告例がある。生後8 – 11年で性成熟し、生後14 – 15年で初産を迎える。

・授乳期間は4~5年。

 

■知能

・チンパンジーは極めて知能が高く、訓練によって簡単な言語を習得できる。習得する言語には一般に図形文字が用いられ、「抽象的な記号と単語を理解して、その上で短い文章を作り、相手に伝えることができる」。じゃんけんも理解することができ人間の4歳児程度の知能を有するとされる。

・人類と同様に道具を使うことが可能。蟻塚に棒を差込みシロアリを捕食する、石や倒木を使って堅い果実の殻を割る、木の葉を使って樹洞に溜まった水を飲む、木の葉を噛みちぎる音を使って求愛するなど様々な用途で道具を使う(穴を空けるための棒と釣るための棒を用いてシロアリを捕食する・雨避けに葉を用いるなど、22種類にわたる道具の使用が報告されている)。

・人のマネができる。檻の鍵を開ける人の動作を見て覚え、自ら檻の鍵を開けて脱走した例も報告されている。

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画像はリンク [5]より引用

 

■集団性

<集団規模・構成>

以下チンパンジーの社会 [6]より引用

・チンパンジーの社会は複数のオスと複数のメスからなる複雄複雌集団で、普通は20から100頭のメンバーが含まれる。

・メスは繁殖可能な年齢に達すると他の集団へ移籍する。このようにチンパンジーが父系社会であるという特徴は、社会構造という観点で、ニホンザルのようなオスが移出する母系社会との大きな相違がある。

・チンパンジーは単位集団といわれるグループを形成している。この集団はニホンザルの群れのようにきっちりと集まったものではない。そのメンバーが一度に全員集まるということはなく、食べ物の量などによって、サブグループといわれる小集団に別れて離合集散している

・離合集散といっても、食物の種類や分布の季節的変化によって大きく様変わりする。一般的にいって、食物が豊富な季節はメールクラスターを核とするパーティに、メスや子の多くが加わり、単位集団の6割から9割を含む大集団で遊動することがある。・・その反面、食物が少ない季節になると、無数の小さなパーティに別れてしまい、互いに声を出しあうこともしなくなる。

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画像はリンク [8]より引用

 

<子殺し>

・チンパンジーの特筆すべき習性として「子殺し」がある。なぜ子殺しをするのか、未だ解明し切れていないが、いくつかの仮説としてあるのが(オスによる子殺し vs. メスによる子殺しへの対抗戦略 [9]より引用)、

①性選択仮説

多くの哺乳類では、メスが子供に授乳している間は排卵を再開せず、次の子供を受胎しません。そのため、オスは自分と血がつながっていない離乳前の乳児を殺すことによって、メスの排卵の再開を早めさせ、自分の子を受胎させることが可能になることから、子殺しはオスにとっての繁殖上の利益があるという仮説です。

②栄養仮説

殺した乳児を食べることによって栄養的な利益を得る。

③資源競合仮説

食物資源や繁殖資源を争う可能性のある将来的な競合相手を殺すことによって資源獲得上の利益を得る。

いずれも、可能性はありますが乱婚のチンパンジーは自分の子の区別がないため、①性選択仮説の可能性は無いか?ただ、下記のように犠牲となる子供、そして殺害する性別にも関連があるみたいです。

 

<参考文献> 立花隆 「サル学の現在」 平凡社

・チンパンジーの子殺しはいくつかのバリエーションが観察されている。犠牲となる子供は主に新生児~3歳児までの小猿

①オトナオスが別集団の子供♂を殺す

②オトナオスが別集団の子供♀を殺す

③オトナオスが自集団の子供♂を殺す

④オトナメスが自集団の子供♂を殺す

⑤オトナメスが自集団の子供♀を殺す

*数匹のワカザル達が連携して小猿殺しを救うケースもあり

殺された子はその後、殺害の実行者及び、数個体に喰われる=共食い。観察されている事例からは、他集団の子供を殺すのはオトナオスのみ。自集団の子供♀を殺すのはオトナメスのみである。また実行者はオトナオス・オトナメス共に1,2位の上位ランクのサルである。また、チンパンジーは肉が好物で、肉を食べる時、集団は異様な興奮状態に包まれるそうです(サラダ感覚と言うわけではないだろうが、彼らが肉を食べる時は必ずアフリカショウガ等の木の葉と一緒に食べる事が知られる。また脳や髄も大好物で、必ず骨を割って啜る)。

また、他のサル集団(例えばゴリラ)を集団で襲い、他集団の子供を殺す例や、人を殺害した事件も報告されており、一般的にチンパンジーは非常に狂暴と言われています。この狂暴性が何を意味しているか?は未だ未解明で追求ポイントですが、子殺しは狂暴性だけでは片づけられない問題。上記の仮説も踏まえながら継続追求したい課題です。

 

 

本日はここまで。

この先で、ゴリラ・オランウータンを扱っていきます。

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