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哺乳類の知能進化(番外編) ~快感物質と呼ばれるエンドフィンの本来の役割とは?~

これまで、哺乳類の知能進化の謎を追求していますが、それには「皮膚感覚の発達」が関係していました。

 

皮膚感覚の快感回路(安心感)の発達は同時に不快感や、何かおかしいという違和感や、しっくりこないなどの不整合感の感覚も鋭敏にさせます。
実はこの不整合感の回路こそが、探索回路を発達させる駆動力になります。

したがって、快感回路=「充足への欠乏」が探索回路を発達させ、知能進化の駆動力になっているということなのです。

哺乳類の知能進化⑤ ~皮膚の発達が先か?脳の発達が先か?~ [1]

 

 

この皮膚感覚の快感回路。これは明らかに快感物質(つまり駆動物質)を皮膚が発生させているということだと思いますが、この快感物質をはじめとした、そもそも情報伝達物質(現在では”情報の伝達”というよりも、行動を起こす為の駆動力の根源とも言える為、駆動物質とも言っていますが)とは、そもそもどんなものなのかを整理する必要があります。

 

今回は、快感回路の最も根源的とも言えるであろう、エンドルフィンについて扱います。

 

 

■■■ エンドルフィンについて~実は“快”を感じさせるのは二次的な要素?~

エンドルフィンは機能的には体内麻薬物質であるといわれています。実際に、モルヒネと構造的にも似ており(脳内の阿片薬や阿片様物質をオピエート・オピオイドと呼んでいます。他にエンケファリンなど3系20種類ほど見つかっています)、実際にβエンドルフィンはモルヒネの10倍の鎮痛作用があるようです。ちなみにドーパミンはどちらかといえば、体内の覚醒剤です。

 

~中略~

 

エンドルフィンは脳内での作用の仕方として、他のドーパミンのような快感物質とは違う作用をします。ドーパミンは快感物質として、その物質そのものに快感という色をもった神経伝達物質です。ドーパミン作動性の最大の神経(束)はA10神経です。これを制御抑制する神経がギャパ作動性神経です。ギャバ作動性神経によって、負のフィードバックを受けているわけです。ずっと、ドーパミンが出っ放しだと頭の中が快感に酔いしれて狂ってしまいますから、他の神経で制御抑制しているわけです。

 

ところが、このギャバ作動性神経の末端に多くのエンドルフィンのレセプター(麻薬レセプター)がついているのです。エンドルフィンが制御抑制回路を抑制することで、結果としてA10神経に対して正のフィードバックをしていることになります。また、フィードバックといえば多くの神経はオートレセプターを持ちます。快感回路も同様です。出しすぎたあるいはシナプスに滞留する神経伝達物質を自らが回収する負のフィードバック機能です。ところが、多くの麻薬物質はこのオートレセプターにくっつくわけです。そうすると、回収されずに快感物質が長く脳内に滞留したり、多く伝達されることになります。

 

つまり、もともとはエンドルフィンそのものは「快感」という色を持っているのではないということでしょう。快感を感じさせるのが、二次的(間接的)な働きということになれば、その本質的な意味はどこにあるのか、あったのか。

 

引用:エンドルフィンの不思議① [2]

 

 ではエンドルフィンの本質的な機能・役割とは?

 

■■■ 不全を解消させる為の充足物質がエンドルフィンの本質的な機能・役割

 

エンドルフィンは視床下部の弓状核(神経細胞が多く集まる神経核ひとつ)で、母体たんぱく質(POMC)からACTH(小型ペプチド:副腎皮質刺激ホルモン)とともに作られます。そして神経細胞から出る長い線維を伝わって脳内に広く送り出されます。ここで、エンドルフィンの本質的(根源的)意味を明らかにするために、構造的にも非常によく似たACTHについて。

 

ACTHは、最近しょっちゅう病気の原因とされるストレス病、このストレスに対する抵抗反応の原動力といわれているホルモンです。ここでいうストレスは、現在医学で使われている「心の秩序を乱す、快も不快も+-のストレスというのではなく、体に有害な刺激と捉えた方が分かりやすいと思いますので、その意味で進めます。副腎皮質ホルモンは、有害な刺激によって生じた体のひずみを修復し、正常な状態に戻すという恒常性を保つためのホルモンです。

 

また、ACTH自体もエンドルフィン同様に、脳内でも分泌されています。精神的なストレスというのは、脳回路的にはある回路で電気の流れが悪くなった(あるいは神経伝達物質がうまく伝わらないなどの障害が発生した)、あるいはストップした状態でしょう。そこで、それを流れやすくするために脳内のストレス解消物質として、脳内に伝達されやすい小型ペプチドのACTHやエンドルフィンを利用したのではないかと思います。麻薬レセプターがほとんどの神経に備わっていることからも、この視点を裏付けます。また、単細胞レベルでも存在するということは、単細胞も生命体である限り、秩序統合ベクトルに貫かれているわけで、外圧環境の変化によって何らかの体内の秩序維持の不都合が生じたときに、それを(感じさらに)復旧・補修する物質として働いていたのではないでしょうか。

 

現在わかっている範囲では、ACTHの脳内の働きは意識の動機付け集中力を高めるということらしいです。おそらく、同じ系統のACTHとエンドルフィンは、進化の段階で役割分化を強めていったのではないかと思います。

人間を始めほとんどの生物が鋭い痛みを覚えるのは、その不全をつまり問題を発見するためです。(痛みを感じるホルモンとしては、P物質などのホルモンが発見されています)。

 

不全や問題はそのままでは解決しないので、それを補修すべく指令を出すのがACTH。その痛みをそのままにしておくわけにはいかないので、それを解除するのがエンドルフィン。そして、弱者である原始哺乳類さらに、本能不全を抱えた人類は、絶えざる不全の中でエンドルフィンの快基調を強める方向で意味合いを変えていったのでしょう。

 

つまり、痛みを解除しようとしてエンドルフィンを分泌する。ところがすぐに解決されないからさらに痛みが続く、そこでさらにエンドルフィンを分泌する…。それだけでは痛み-が解消されず、より+を強める形で、快感を付加するようになったのではないでしょうか

 

つまり、外圧→絶えざる不全→痛みの解消→快感に転換することで、可能性収束したのだと思います。実現論では、共認源回路における期応(期待応望)物質として、エンドルフィンを候補に上げていますが、性淘汰されずに縄張り闘争を繰り返さざるをえないその不全から、解消物質としてのエンドルフィンのプラスを強化することで使ったのでしょう。…解脱物質と言われるエンドルフィンですが、快感物質というよりも、どちらかといえば不全に対する充足物質としての意味合いのほうが強いと私は思います。おそらく、現代人の脳内のホルモンはエンドルフィンを強める方向にあるのではないでしょうか。

 

引用:エンドルフィンの不思議② [3]

 

 

 

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