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脳の「すきま」と「こころの働き」

これまでの脳研究の大部分は、ニューロンやニューロンが形成するシナプスを介したネットワークに焦点を当てたものだったが、近年、グリア細胞同士が情報をやりとりし、ニューロンのシナプスをコントロールしている事が分かり、記憶や学習という脳の高次機能は、実はグリア細胞によって支えられていることが見えてきた。(参照記事 [1]

 

column_image.php [2](画像はコチラ [3]から)

 

さらに、最近の脳研究では、脳の中には「すきま」があり、そこを舞台に、様々な脳活動が繰り広げられていることがわ分かってきた。この「すきま」は、「細胞外スペース」と呼ばれ、 細胞外環境の恒常性と代謝老廃物の除去に重要な役割を果たす脳リンパ流の主要な経路であり, ドーパミンなどの駆動物質の拡散性伝達や神経細胞が生成する電場の媒質としての役割も担っている。ニューロンのデジタル的な伝達ネットワークに対して、アナログ的な伝達ネットワークを形成している。

■脳のすきま「細胞外スペース」

最近, 生きたままの組織の様子を顕微鏡レベルで観測できる内視鏡型の顕微鏡技術が発展したおかげで,これまで見つかっていなかった、 人体で最大の器官が発見されている。それは 「間質」と呼ばれる細胞間の「すきま」で、これまで最大の器官と考えられてきた「皮膚」は体重の16%だが、「間質」は20%を占めるという報告もある。この間質という「すきま」は脳にも存在し、「細胞外スペース」と呼ばれる。

最近の研究では成人の脳の細胞外スペースは、脳の体積のおおよそ20%程度だと見積もられ、実に脳の1/5が空洞になっている。また、細胞外スペースは、睡眠や覚醒など脳の状態によって増減することも分かっている。

細胞外スペースは、くまなく「間質液」と呼ばれる液体で満たされ、衝撃に対する緩衝材としての働きだけでなく、さまざまな化学物質の通り道として重要な役割を担っている。

■脳のすきまに拡散する駆動物質

脳内スペースは、血管や神経伝導のように緻密な物質の運搬ではないが、脳のすきまをゆっくり広がり、物質を運び、あるいは排出に関与し、脳内の環境を一定に保っている、ニューロンは、脳外スペースで繰り広げられる変化の上で活動するので、細胞外スペースの環境の変化が、脳の活動に大きな影響を与えていると考えられている。

ノルアドレナリンなどの脳内駆動物質は、細胞外スペースの中で拡散し、脳の広範囲の活動を調整している。この脳の広範囲の活動を同時に活性化する働きは「広範囲調整系」と呼ばれ、これを担うニューロンは、一般的なニューロンとは異なり、脳幹に集中しており、もっぱら駆動物質の生産と放出を担っている。脳幹は、脳の奥深くに存在し、生存に必須な働きを担っている、もっとも重要な器官の一つである、

この調整系ニューロンは、脳の中心部である脳幹や基底部に存在していいて、そこから能全体に軸索繊維を伸ばし、脳の広範囲に情報を送って(放出して)いる。神経繊維の末端のシナプスでは、調整系ニューロン1個が、約10万個以上のシナプスと接続し、脳の広い領域を同時に活性化することが出来る。

さらに、中には一対一のシナプス結合をせず、不特定多数の細部に信号を伝える「拡散性伝達」とう形式をとることもある。駆動物質を細胞外スペースに直接拡散することで、シナプス間隙に限定されない、持続時間の長い、ゆっくりとした調整的な伝達を行うことが出来る。

 

ノルアドレナリン [4]

ノルアドレナリン作動性の広範囲調整系

(画像はコチラ [5]から)

駆動物質には様々な種類があり、予期しない未知な刺激に対して放出されノルアドレナリン、うつ病とも関係するセロトニン、やる気や感情を左右するドーパミン、記憶や学習に重要な働きをするアセチルコリンなどがある。

■こころの働きが生まれるとき
コンピュータのような無機質なデジタル信号処理をおこなうニューロンの電気的な活動に対し、広範囲調整系は、ゆっくりとした、色合いや濃淡がある多様なアナログ的な伝達といえる。

こころの働きとは、ニューロンの電気的な活動に還元できるものではなく、環境に応じて変化する広範囲調整系のアナログ的伝達と、その影響下で活動するニューロンのデジタル的伝達が、相互に作用することで現れるものではないだろうか。

参考:ブルーバックス『脳を司る「脳」』毛内 拡著

 

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