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生命体の大きさを決定する原理とは何か?

宇宙においても生命は、ある大きさを持つ物質でできているのか・・・・・
生命は一体どこまで小さくなることができるのだろう。リンク [1]

宇宙における生命体の大きさは、何によって決まっているのか?
ミクロからマクロまで、生命体の大きさは物質の大きさに規定されるものなのか?生命体の大きさを決定する原理とは何か?

今回は、東京工業大学地球生命研究所教授関根康人氏の記事(以下に一部引用)より考えていきます。

この記事では、シュレディンガーの著書『生命とは何か?』より考察され、ポイントは以下となります。

・生命体としての機能をもつ物質は、周囲の分子の影響でどこかに不具合が生じても、その機能を失わない程度に大きな物質である(=原子数が多い)必要がある。それにより、生命体の大きさが決まってくる。

・生命体の安定性を保つために、ある程度の躯体の大きさ(=原子数)が必要となる。一方、生殖や遺伝の役割を担うDNAの塩基対は原子数が少ない(変異しやすい=変異性を有している)。

生命体の大きさを決定する根本には、 「安定と変異」という生命原理 が貫かれているようです。

DSPACE(2021年1月21日) [1] より、以下引用。

 

生命のサイズを決めているものは何か?

~前略~

原子はなぜ小さいのか

さて、ここでは単純に、僕らが“生きている”と認識できる生命を考えていこう。機能をもつ物質でできた生命は、どこまで小さくなることができるのだろうか。一般法則はあるのだろうか。

この問いに正面から答えようとしたのは、物理学者エルヴィン・シュレディンガーである。

20世紀初頭に量子力学の基礎を創ったシュレディンガーは、その業績により1933年にノーベル物理学賞を受賞している。現在、理系大学生の何割かが、大学の物理学の講義で最初に挫折するのが、有名なシュレディンガー方程式であり、20世紀以降、多くの学生にトラウマを植え付けた。果たして僕もその例外ではない。

シュレディンガーは、1944年に出版された著書「生命とは何か」において、次のような問いを発している。

原子はなぜそんなに小さいのか、と。

僕らは日常的に、自らを構成する原子を意識することはない。原子は直接目に見えなければ、これを触った感触もない。地球上に生きる最小サイズの生命である細菌にとっても、それは同じである。細菌一個体あたりにさえ、およそ100億個という途方もない数の原子が含まれるのだ。タンパク質やDNAなど、機能をもつ物質一つとっても、膨大な数の原子が含まれている。

生命をどこまで小さくできるかという問いは、機能をもつ物質をどこまで小さくできるかという問いと同じだといってよい。なぜなら、仮に機能を持つ物質が非常に少ない数の原子、例えば数個あるいは一個の原子からなるとすれば、生命自体も限りなく小さくできるからだ。しかし、その場合、どんな不都合が生じるだろう。

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エルヴィン・シュレディンガー博士(1887〜1961)。量子力学の基礎を作った理論物理学者。(提供:Nobel foundation)

なぜ生命は原子と比べてこんなに大きいのか

機能をもつ物質の周囲には、必ず別の分子が存在する。細胞内であれば水分子、空気中であれば窒素や酸素の分子などが存在する。原子レベルでみると、これら分子は様々なスピードで、乱雑に自由に動き回っている。熱運動と呼ばれるものである。今、この瞬間にも、僕らの指先にも、顔にも、体中いたるところに無数の窒素や酸素の分子が高速でぶつかっている。ただ、僕らの体が大きいがために、一つ一つの分子の衝突を感じることはない。

もし、機能をもつ物質が数個、あるいは一個の原子からなる場合、どうであろう。周囲の分子と機能をもつ物質とが同程度の大きさである以上、分子の熱運動により大きな影響を受ける。

例えば、ニューロンが数個の原子でできている場合、周囲の分子が偶然に高速で衝突することによって勝手に化学反応が生じてしまう。すると、何かしらの思考が偶発的に発せられ、もはや秩序だった意識はもてないだろう。また、代謝を担うタンパク質が少数の原子から成るのであれば、これが周囲の分子の衝突によって、別の形状に変わってしまうこともおきうる。そうなれば、代謝を維持することは困難であり、生命は短時間で熱力学平衡状態に陥ってしまうだろう。

シュレディンガーの、原子はなぜそんなに小さいのか、という問いは、本当はこういう問いであるべきである。

すなわち、なぜ生命の体は原子に比べてこんなにも大きいのか、と。

そして、シュレディンガーは、著書「生命とは何か」の中で、その答えをこう述べている。

「生命および生命が営むあらゆる過程はきわめて多くの原子から成る構造をもっていなければならない。そして、偶発的な一原子による出来事が過大な役割を演じないように保障されていなければならない。」

生命のからくり

機能をもつ物質は、周囲の分子の影響でどこかに不具合が生じても、その機能を失わない程度に大きな物質である必要がある。そして時間が経てば、不具合が生じた箇所も、そうでない箇所も、代謝によって、全て新しい物質へと作り変えられる。

「素粒子並みに小さい生命はいるの?」と問われると、素粒子はおろか少数の原子から成るような生命でさえ、現実的には存在しないだろうということになる。統計力学をご存知の読者がいれば、生命や機能をもつ物質は、必ず巨視的な集団でなければならない とも言い換えられる。

20世紀、統計力学を含む物理学は、宇宙で普遍的に通用することが明らかになった。そうであれば、この生命のサイズに関する議論も、この宇宙において普遍的なものであろう。

では、最低どのくらい多くの原子が集まれば、生命 —“生きている”と認識できる物質— を構成しうるのか。シュレディンガーは、これについても、100万から1000万程度の原子の集団だろうと考察している(興味をお持ちの方は、著書「生命とは何か」をお読みいただくとよい)。

彼の予言したこの数は、細菌一個体を構成する原子の数である100億個より少ないものの、新型コロナウイルスを含む、一般的なウイルスを構成する原子数の1000万程度と符合する。もっとも、科学者のなかでも、ウイルスが“生命”であるか、統一的な“認識”はないのだが。

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原子、ウィルス、細菌、動物細胞、動物の大きさを比較した概念図。(提供:関根康人 画像:Helium atom-Yzmo CC BY-SA 3.0 /Rotavirus Reconstruction-w:User:Graham Beards CC BY-SA 3.0 /EscherichiaColi NIAID-Rocky Mountain Laboratories, NIAID, NIH /Typical animal cell with organelles-Chippolito CC BY-SA 3.0 /CC BY 1.0)

ここまで、生命を作る機能をもつ物質は、変化しないために多数の原子からなる必要があると述べてきたが、例外もある。

それは、増殖や遺伝の役割を担うDNAである。

DNAを構成する原子の数は、細菌では数1000万、人間の細胞では数100億ともいわれる。巨大な原子の集団である。ただし、DNAを構成する塩基対と呼ばれる一つのユニットの原子数は数10程度と少ない。たった一つの塩基対に対してであれば、周囲の分子などによる偶発的な変化は起きうる。そして実は、一つの塩基対に原子レベルの変化があるだけでも、生命全体に大きな影響が及びうる。

これを生物学者は突然変異と呼ぶ。生命は突然変異することで、流転する地球環境にも適応できる種を生み出し、多様な進化を遂げてきた。新型コロナウイルスも、変異株と呼ばれる突然変異を次々と生み出している。

むしろ、地球生命は、どんなに進化しても、DNAの塩基対だけは少ない数の原子の集団に留めているのかもしれない。

何のために? おそらく、僕らがこれからも、変わり続けていくために。

 

(引用終わり)

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