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UFO・宇宙人像の遍歴と、社会状況や人々の意識潮流との密接な繋がり

アメリカにおける、テレビ、映画、出版など、メディアを通して伝え、語られ、信じられてきたUFO・宇宙人像と、その時々の社会状況や人々の意識状況の関連を論じた書籍『UFOとポストモダン』の書評記事を紹介します。

wp_pt_1-1 [1]UFOによるアブダクション宇宙人拉致事件)のイメージ

確かに記事によると、宇宙人の存在の真偽はさておき、空飛ぶ円盤/UFO・宇宙人/異星人像は、時代ごとの社会状況と、それに影響を受けた人々の意識潮流の変化と共に、移り変わっていく様が浮かび上がってきます。

戦争への反動としての平和への期待、また市場社会(金貸し支配)への不満や行き詰まり感など、支配階級に向けられる人々の疑心暗鬼や反発をかわすために、その時々に応じた宇宙人像やエピソードがメディアを通して伝え、語られてきたのかも知れません。

以下、「『UFOとポストモダン』に書かれた、宇宙人論の悲しい矛盾 [2]」 より抜粋です。
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■UFO神話前期 アメリカで誕生

「第2章 空飛ぶ円盤神話(1947-73)」においては、UFO神話がアメリカで誕生した背景を、アメリカの歴史性、宗教性に見出す。

“ピューリタンの入植以来、アメリカの自己像は常に、歴史を経由しない、神に与えられた使命との関係で定位されてきました。そして二十世紀半ばのアメリカにおけるUFO神話も、少なくともその初期においては、歴史から切り離された未来志向的・理想的なものとして出現しました”(p.33)

アメリカのフロンティアスピリッツが、UFO神話を誕生させたということなのだろう。UFOに乗ってやってきた宇宙人は、我々のはるか先を行く人々であるのだから、理解できないのは当然であり、彼らに近づくために、我々も進化しなければならないという使命も生ずる。

“初期の円盤神話では、宇宙人の文明は地球人が目指すべき理想、あるいは少なくとも未来像だったのです”(p.41)

さらに、宇宙人やUFOを神に近い存在、あるいは神の使いとしてとらえる”UFO教”的な発想も出現することになる。端的ではあるものの、前期UFO神話はどこか牧歌的な印象も受ける。

■UFO神話後期 崩れ行く神秘性

「第3章 エイリアン神話(1973-95)」では、ベトナム戦争終了後、これまでアメリカ(人)を支えてきた強いアメリカ、正義のアメリカのアイデンティティがゆらぎ、”天空の理想よりも、地上的な悪に人々の視線が向き始め”(p.59)、UFO神話の変節が生まれる。

これまでの純粋で素朴なUFO・宇宙人感から一転し、超科学的な存在である空飛ぶ円盤が、未確認飛行物体という矛盾をはらんだものになり、人間に近い宇宙人(スペースマン)から、異星人(エイリアン)という言葉に取って代わられる(p.64)。著者は、そこにUFO神話の前期から後期の変化を見いだす。

後期UFO神話には核となる3つの要素がある(p.70)。UFO墜落事件、キャトル・ミューティレーション、アブダクションだ。

UFO墜落事件の元祖として扱われるロズウェル事件の真相は、特殊な形状をした観測気球の落下であったといわれる。ただ、当時は気球の存在そのものが機密事項であったために、詳しい説明がなされなかった。そのため、第一報として報じられたUFO墜落の言説がひとり歩きし、のちのちまで影響をおよぼすことになる。さらに、説明がなされなかったことにより、落ちたものは本当に気球なのかという陰謀論が入り込む余地も与えてしまった。何より重要なのは”私たちを超えた場所にあった何ものかが私たちと同じ地平に落ちてきた”事実である。高度な文明によって作られ落ちることのない「空飛ぶ円盤」神話が崩壊するのだ(p.70-74)。

キャトル・ミューティレーションは動物の原因不明死が相次いだ事件である。宇宙人が何らかの生物実験を行っているとも言われ、次は人間かと恐れられた。この背景には生物の遺伝子操作などを行う、バイオテクノロジーの台頭に対する人々の不安感があったと著者は指摘する(p.79)。さらに、宇宙人に誘拐されて手術を受けたというアブダクション体験を訴える人間も増えてゆく。宇宙人による生物実験の対象が動物から人間へと移り変わるのだ。

アブダクション事件が台頭するのは1970年代以降である。だが、1961年にアブダクションの元祖ともいえるヒル夫妻の誘拐事件が起きている。夫婦が同時に誘拐されるシチュエーションは、単独誘拐が多いアブダクションの中では稀有な事例である。

ヒル夫妻が目撃したものは、のちにグレイ型と呼ばれる宇宙人像である。筆者はヒル夫妻が当時は珍しい夫の黒人と、妻の白人という組み合わせであったことに着目する。夫妻が見たグレイ(灰色)の肌色は、文字通り黒と白を組み合わせたものだ。

“アメリカ文化においては、白人と黒人の対立がしばしば「黒人男性が白人女性を襲う恐怖」という形で(白人の視点から)表象されてきたからです”(p.88)

グレイが行う生殖実験には、グレイ(宇宙人)と人間のハイブリッドを作る目的があると言われた。それは、前期UFO神話で描かれた、人種の融合による恒久的な平和の実現といった理想的なものではなく、他者からの侵食、侵犯に対する恐怖が先行する。白と黒を混ぜあわせたらおぞましい灰色(グレイ)が出現する。この宇宙人像に、人種差別の心理が影響していることは確かだろう。

“前期UFO神話には、上から見ている「彼ら」と見られている「私たち」という関係がありました。(中略)後期UFO神話には、いつの間にか私たちの内部に入り込んだ「彼ら」と「私たち」の水平な緊張関係があり、それに平行して、私たちの心の内部に入り込んだ(あるいはもともと内部に潜んでいた)他者が改めて注目を浴びたのです”(p.95-96)

アブダクション時に、何かチップのようなものを埋め込まれたという証言にも、管理・監視社会の影響を見出すことも可能だ(p.101)。UFO・宇宙人にまつわる言説は社会状況の変化にあわせて、従順に変化しているとも言える。

陰謀論の加速も止まらない。1980年代に入ると、UFO・宇宙人そのものより、周辺要素ともいえる偽造文章や映像に注目が集まる。

“これらの偽装文書や映像の重要な特徴は、一般に認められている公式・正式な文書や映像に紛れ込んだノイズ的な要素――誤報、ミス、偶然の欠番――から派生しているということです”(p.123)

単なる撮影機材の故障でも、心霊番組ならば霊のしわざとなってしまうように、UFO・宇宙人が絡めば過剰な意味を見いだしてしまう。

断片的な情報が無数にあふれる社会において、関係のない情報を結びつけ「風が吹けば桶屋が儲かる」的な言説を紡ぎだすことは容易い。いざとなれば、論理の飛躍を許容(歓迎)する、超科学的なものが超自然・超精神へと転化したニューエイジ思想を使えばいい。UFO神話は論破されず、反論も機能しない、アンタッチャブルな存在となる。

「第4章 ポストUFO神話(1995~)」では、インターネット時代のUFO神話が取り上げられる。冒頭で言及されるのが、1995年に登場した「宇宙人解剖フィルム」である。アメリカで放送され、大反響を呼び日本でも放送された。

フィルムは、1947年にUFOが墜落したロズウェル事件で回収された宇宙人の遺体を解剖するというふれこみだ。だが、内容はすべてがフェイク(偽物)であった。宇宙人の姿形、スタッフの格好、解剖手法、使用用具に至るまで時代考証が完璧になされたオタク的な作りのフィルムでしかなかった。ご丁寧にも、フィルムの一部には撮影年に製造されたコダック社フィルムも使われており、これが本物とされる理由のひとつとなった。”あったとされる陰謀・神話”を補完、増強するはずの情報の集積が”本物のような嘘”を作り上げてしまったのである。筆者は「宇宙人解剖フィルム」によって後期UFO神話が”自らに死亡宣告をした”と指摘する(p.141)。

その後、後期UFO神話はゾンビ化し、ポストUFO神話へとつながる。自らの存在をおびやかす不気味な存在(エイリアン)はあらゆる場所に出現するようになる。本書では、環境ホルモン、Y2K(コンピューターの2000年問題)、スカイフィッシュ、アポロの月面着陸はなかった論、911テロなどが取り上げられていく。

環境ホルモンがもたらす生殖ダメージは、グレイ型宇宙人の実験そのものだ。Y2Kがもたらす(とされた)終末のを招くカタストロフは、コンピューターに内蔵される内なるバグがもたらす恐怖である。これもアブダクティにおいて宇宙人が体内にチップを埋め込むイメージと重なる。スカイフィッシュは実際は存在しない生物であり、自らの存在をおびやかす見えない対象への戦慄は9.11以降続くテロの恐怖とも重なる。かつて、UFO神話上に存在した核戦争の恐怖、異星人侵略の恐怖が、現在はテロの恐怖に取って代わられているのだ。

======================================================以上、抜粋

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