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共同体社会での「家族農業の挑戦」~国連家族農業の10年

最近の報道で「コロナ禍の世界 飢餓の拡大を止めたい:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp) [1]」「今、世界では「飢餓パンデミック」と流されている。

その様な状況で 日本の零細農業(古来から続いて来た「自然との共生関係」)の在り方が注目されています。

一方で、コロナ禍後の世界は、共同体社会群(自主独立は自集団で食料生産が出来る)がネットワークで結ばれ有機体(生命原理に則った進化形態)になるとの予測もあります。

今回は、注目すべき記事を転載します。

JOG(1191) 家族農業の挑戦~「国連家族農業の10年」リスト( [2]国際派日本人養成講座 [3]より)

■1.2019~28年「国連家族農業の10年

「日本の農業は零細で、海外とは生産性で敵(かな)わないから、もっと大規模化しなければ」と世間では言われてきましたし、筆者もそう信じ込んできました。しかし、今や潮目は変わりつつあります。

2017年12月20日の国連総会で、2019年から28年を「国連家族農業の10年(The UN Decade of Family Farming)」とすることが全会一致で可決されました。家族農業とは、家族労働が中心の農林漁業を指します。

世界の5億7千万の農場のうち5億以上を占めており、食料の70%以上(価格ベース、2016年)を供給しています。[小規模、p11]  世界的な人口増で2050年までに現在よりも60%も多くの食料を生産する必要があるのですが、そのためにも家族農業が中心的な役割を担う、という考えに基づいています。

食料増産と言えば、穀物メジャーなど国際的な大規模農業を連想しますが、それらは環境や食の安全、土地生産性の面で多くの問題を抱えており、人類社会の健全な発展には、伝統的な家族農業を発展させていかなければならない、という認識なのです。

■2.国際的アグリビジネスの環境破壊、農薬汚染、フードマイル

まずは大規模農業の実態を見てみましょう。アメリカの大規模農業のシンボルは「センターピボット」と呼ばれる散水施設です。半径400m、面積50ヘクタールの円形農場を、時計の針が回るように散水管が回転しながら潤します。こうした農場が集中しているネブラスカ、コロラドなど7つの州にまたがる大穀倉地帯は、耕地面積が日本の国土の1.2倍もあります。

さらに限られた場所で集中大量生産された食料は、遠くの消費地まで運ばなければなりません。1トンの食料を1キロメートル運ぶと、1t・kmと計算する指標がフードマイルです。

我が国のフードマイルは輸入食料の多さと、アメリカやオーストラリアなどの生産国から遠いことで、8669億t・kmに達し、2位の韓国、3位のアメリカの3倍というダントツ状態になっています。

また大規模に耕作し、遠距離を運ぶためには、その過程での品質リスクが生じます。農林水産省の調査で「小麦には、アメリカ産では9割以上、カナダ産ではほぼすべてと呼べる水準でグリホサートが検出される」と判明しまた。グリーンホサートは長年使われている除草剤ですが、発がん性などが疑われており、アメリカでは使用禁止を求めてさかんに訴訟が起こされています。

■3.大規模農業の非効率性

国際的な大規模農業に比べれば、家族農業の資源効率の良さは圧倒的です。家族農業は世界の農業資源(土地、水、化石燃料)の25%を利用するだけで世界の食料の70%以上を生産するのに対し、大規模農業は資源の75%を浪費しながら、30%の食料しか提供していません。

しかも生産された食料の3分の1が長距離長期間の流通や消費の過程で有効利用されずに、廃棄されています。世界では8億人が慢性的な飢餓状態におかれる事を考えれば、巨大なムダを発生させています。

土地の生産性も段違いです。日本の農地1ヘクタールが約10人を養えるのに、欧州随一の農業国フランスで2.5人、アメリカでは0.9人、オーストラリアに至っては0.1人です。これは日本の土地の肥沃さ、雨の多さ、水田の活用などの要因もありますが、国土の狭い我が国ではアメリカやオーストラリアのような大規模粗放農業は適さない、ということです。

■4.83歳の母が50種類以上の自給野菜を作っています

家族農業の実態を見てみましょう。たとえば、福島県二本松市で農民民宿を営む菅野正寿さんは、次のように記しています。

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83歳になる私の母は、毎日畑に行き、さやえんどう、ネギ、キャベツ、里いも、白菜、シソの葉、玉ねぎなど年間で50種類以上の自給野菜をつくっています。さらに梅干し、たくあん、白菜漬け、わらび漬けなどを手作りし、4年前に開業した農家民宿のお客さんに好評です。[農民、p75]

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50種類もの作物を作っていれば、干ばつ、洪水、台風、害虫、病害などの被害を受けるのも、特定の作物でしょう。作物の多様性が、食料供給の安定性を大きく向上させるのです。土壌や水資源など周辺環境への影響も無視できるほどでしょう。もともと自然は多様性、分散性を本質としていますから、それに沿った農業形態なのです。 農園で採れた作物を自分たちや民宿のお客さんが食べるわけですから、フードマイルはせいぜい数十メートルでしょう。しかも旬の時期に採れたてを食べられるのです。農薬もほとんど要らないでしょうし、長距離輸送のための箱詰めや取引業務も不要です。

なにより、高齢者が元気に社会のお役に立っている、という姿は長寿社会の理想です。また家族農業は田舎で就業機会を生み出せるのです。

■5.都市住民も「マイ田んぼ」でお米の自給

すでに国内外で、家族農業の形態をさらに広げる試みがなされています。

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農家民宿でつながった都市住民が、「マイ田んぼ」として米づくりをしています。埼玉のご夫婦、市民団体、学生、福島大の先生など5組が、それぞれ150坪くらいの我が家の田んぼを耕し、田植え、草取り、稲刈り、脱穀などに関わっています。私は、苗代、草刈、水管理、有機肥料などの経費と管理料をいただいています。[農民、p76]

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「マイ田んぼ」を持つ人々は「自分の家族が食べる米は自分で作りたい」と話しているそうです。都市住民も兼業農家となって、自分で作ったお米を食べられる時代になってきました。

奈良県大和郡山市では市内小学校の父兄と農民団体が協力して、親子農業体験のイベントを開催し、そこで採れた作物を学校給食に提供しています。令和元年にはタマネギ、ジャガイモ、ニンジン、カボチャなど5品目2130キロを供給しました。 子供たちの健康を増進し、農業を体験学習できるだけでなく、農民の方も高齢で離農を考えていた人々がお役に立てることで元気になったり、新規就農した青年が安定した収入を得られるなど、大きなメリットが生まれています。

■6.「消費者が食べているのは流通経費とサービス料」

都市近郊の農地で採れた作物を、近くで直売することも広がっています。農民作家の山下惣一氏はその価値をこう語っています。

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私の所属するJA唐津市の共販の露地ミカンの一○キロ一箱のセリ値は、加重平均で七○○円であった。ところが、集出荷、ダンボール代、運送費などの出荷経費が一箱につき六五○円かかる。つまり、ミカン一○キロ一箱の流通経費六五○円、農家手取り五○円である。リンゴも同様だった。消費者が食べているのはミカンやリンゴや野菜の姿をした流通経費とサービス料なのだ。[山下、p197]

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これが産地近くの直売所では、こうなります。

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私たちが村はずれの国道沿いに農水産物の直売所を開いてから八年がたった。一三○名の農家で組織し、店員二人をおいて、盆、正月に数日間閉める以外は毎日やっているが、じつによく売れる。新鮮な農水産物が、生産者の受け取り額は高く、消費者の支払う額はより少なく喜ばれている。・・・農家がやっている無人、有人、農産加工、レストラン等の販売所は九州七県で一九三二か所ある。私の近くでも山村である七山村(ななやまむら)の「鳴神の庄」のように、年商二億円を超え、法人化して村活性化の中核になっている例もある。[山下、p197]

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これが地産地消の効率性です。前号では、「身土不二」すなわち人間と大地は繋がっており、人は生まれた場所から3里(12キロ)ないし4里(16キロ)の歩ける範囲内で採れた作物を食べるのが良い、という伝統的思想を紹介しました。自給、地産地消はまさしくこの「身土不二」を実現する生活スタイルなのです。

■7.広がる都市農業

(略)

■8.自然の力を利用して収穫をあげるアグロエコロジー

家族農業は環境保全にも役立ちます。特にアグロエコロジーと呼ばれる農法は、農薬や化学肥料など人為的な外部からの投入物を減らし、微生物など生物多様性の力を最大限に活用します。自然の恵みを最大限に生かして、食べ物をいただく農法です。

大規模農業では単一種の作物を広範囲に作る、という不自然なことをしています。単一作物の栽培によって、生物の食物連鎖のバランスが崩れ、雑草や害虫がはびこりやすくなります。それを農薬で抑えようとすると、土壌が酸性化して土壌微生物が生息できなくなり、枯れ葉や死んだミミズなどを分解して栄養素を作物に供給することができなくなるのです。

大規模農業で土地が痩せ、収率が低下していくのは、自然の生命の循環を破壊しているからです。それを自然の循環に即して、恵みをいただこう、とするのが、アグロエコロジーです。

我が国で古くから行われていた合鴨(あいがも)農法とは、水田に放し飼いされた合鴨が雑草や虫を食べ、その排泄物が稲の養分となることで、無農薬で収穫を格段に上げるアグロエコロジーの一手法です。水田で魚を飼う農法も同様の効果を生みます。

思えば、国際的な大規模農業は近代物質文明の産物でした。英国の産業革命では、北米大陸南部で黒人奴隷を使った大規模プランテーションを作り、そこで栽培した綿花を輸入し、機械式の織機で作った織物を輸出する体制が作られました。この時点ですでに大規模農業が現れています。

それは人間が自然を思うままに改変し、搾取してよしとする「不自然」な農法でした。自然を破壊し、人間の健康も脅かし、なおかつ生産性も低い、というのも当然でしょう。その過ちに気がついた所から「国連家族農業の10年」は始まりました。

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