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「微生物燃料電池」の可能性 ~汚水や廃水を燃料にして微生物が発電~

環境破壊阻止の観点から、脱化石燃料⇒自然エネルギー(太陽光や風力など)への 転換の試みが各国で進められています。コロナ禍を受けて、この流れはますます加速されると考えられます。その中で、微生物の力で発電する「微生物燃料電池」の開発も進められているようです。

 「微生物燃料電池」の可能性とは? 現状の開発状況を解説する記事から紹介します。

Gigazine 2020年12月24日 [1] より。

汚水や廃水を燃料にして微生物の働きで発電する「微生物燃料電池」が秘める可能性とは?

気候変動の緩和が世界的な課題になっている中で、各国は太陽光や風力といった再生可能エネルギーを用いた発電の導入を進めています。近年では広く知られている太陽光発電や風力発電に加え、微生物を利用して廃水などから電力を作り出す「microbial fuel cells(微生物燃料電池)」 [2] が注目されているとのことで、ウェストミンスター大学で生体触媒テクノロジーについて研究するGodfrey Kyazze氏が、微生物燃料電池の仕組みや応用について解説しています。

Four ways microbial fuel cells might revolutionise electricity production in the future [3]

燃料電池には外部回路へ電子が流れ出すアノード(マイナス極)と外部回路から電子が流れ込むカソード(+極)が存在し、両電極間に与えられた燃料を消費して発電を行います。微生物燃料電池では電極で燃料から電子を取り出す反応を、「有機物を分解して電子を取り出す微生物」が担っている点が特徴です。

一般的な微生物燃料電池はアノード室とカソード室が膜で隔てられており、触媒となる微生物はアノードで成長し、燃料中の有機物を分解して電子と水素イオンに変換します。この反応で生成された電子は外部回路を通じてカソード室へ流れ込み、水素イオンも膜を通ってカソード室へ移動するため、カソード室では水素イオンと電子が反応して水が生成されます。継続的に燃料中の有機物が微生物によって分解され、電子が外部回路を通ってカソード室へ送られることにより電流が発生するという仕組みです。

記事作成時点では、すでに小型のファンやLEDライトを稼働させられる微生物燃料電池が開発されています。また、微生物燃料電池には「塩分への耐性が強い」「室温でも動作する」「さまざまな物質を燃料にできる」という利点もあることから、将来的に発電システムを大きく変える可能性もあるとのこと。

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Kyazze氏は、微生物燃料電池の応用が有望とみられている4つの事例について説明しています。

◆1:糞尿を使った発電
糞便や尿に含まれる生分解性の有機物は、微生物燃料電池が電気を生み出す燃料として注目されています。実際にガーナではトイレに微生物燃料電池を実装する(PDFファイル)研究が行われており、トイレが発電所になる可能性が示唆されたとのこと。

この実験ではおよそ2年間にわたり微生物燃料電池を装備したトイレが使用され、尿から窒素を除去して糞便を堆肥にしながら、トイレ内のLEDライトへ電力を供給するのに十分な電力が生成されたそうです。電力網が整備されていない遠隔地や難民キャンプにおいて、トイレ内の糞尿を燃料にして発電できるこの仕組みが非常に役立つ可能性があるとKyazze氏は述べています。

◆2:植物を使った発電
微生物燃料電池を応用することにより、生きた植物を使って発電を行うこともできるとのこと。以下のムービーでは、どのようにして植物を使って発電できるのかが説明されています。

Plant-e animation [EN] – YouTube [5]

img-snap06166_m [6]

◆3:低電力な脱塩システム
微生物燃料電池の少し変わったバリエーションとして注目されているのが、微生物を使用した「脱塩システム」です。このシステムでは、微生物燃料電池のアノード室側に陰イオン交換膜を、カソード室側に陽イオン交換膜を設置し、2つの膜の内部に脱塩したい水を入れます。

微生物が反応してアノード室側で水素イオンが発生した場合、水素イオンは陰イオン交換膜を通過して脱塩したい水の方へ移動できません。そのため、脱塩したい水から陰イオン交換膜を通って陰イオンがアノード室側へと流れ込みます。一方、外部回路を通って電子がカソード室側へ移動すると反応で水素イオンが消費されるため、陽イオン交換膜を通って脱塩したい水から陽イオンがカソード室側へ流れ込みます。

このやり取りを繰り返すことで、2つの膜に囲まれた水が脱塩されるとのこと。既存の海水を淡水に変えるシステムは非常に大きなエネルギーを消費するため、発電しながら大規模な淡水化を達成する方法は革命的だとKyazze氏は述べています。

◆4:メタン発酵法の効率改善
メタン発酵法(嫌気性発酵法)は廃水に含まれる有機物を微生物に分解させ、天然ガスとして利用可能なメタンガスを主成分とするバイオガスを取り出す方法です。一般的にメタン発酵法は非効率的だそうですが、Kyazze氏によるとメタン発酵法と微生物燃料電池のシステムを組み合わせたelectromethanogenesisという手法を用いることで、メタン発酵法の効率を改善できるそうです。

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記事作成時点では複数のスタートアップが微生物燃料電池の商品化に向けた研究を行っているそうで、将来的には微生物燃料電池が宇宙空間における発電に使用され、長期的な宇宙ミッションで電力を供給する可能性もあるとKyazze氏は述べました。

 

(以上)

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