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製鉄が野生動物に与えた影響は? ~生物と遺跡の地理的分布より~

Posted By seibutusi On 2020年9月24日 @ 9:28 PM In ⑧科学ニュースより | No Comments

今日、人間活動は地球に対して地質学的なレベルでの影響を与えうるほどに拡大し、「人新世」という新たな地質年代区分が提案されるに至っています。リンク [1]

現在のところ、我が国で見つかった最も古い鉄器は、縄文時代晩期、つまり紀元前3~4世紀のものリンク [2]

 人類の「製鉄」技術の発展は、野生動物にどのような影響を与えたのか?これから人類は自然といかに共生していくのか?考えていきたい。

国立環境研究所 [1] より。

製鉄が野生動物に与えた影響は千年紀を超えて残る

  -生物と遺跡の地理的分布から見えたこと-

1. 背景

1997年に公開された映画『もののけ姫』では、たたら製鉄(写真1)をめぐる人間と自然生態系との関係が主題として取り上げられ、多くの人々が太古からの人間と自然環境との関係性を意識するきっかけとなりました。日本における古式の製鉄技術は古墳時代に普及し、江戸時代にそのピークを迎えました。その結果、各地で集約的な資源利用に伴う大規模な環境改変が生じました。

近年、最終氷期(~15000年前)以降の人間活動の拡大に伴って、世界各地の哺乳類の地理的分布が大幅に縮小したことが明らかになってきました。このことから、現在の生物多様性の成り立ちを理解する上で、歴史的な人間活動の影響を理解することの重要性が認識されてきています。

過去のどのような形態の人間活動が、生物多様性に長期的な影響を与え、現在の生物多様性の地域性をもたらしたのかをデータに基づいて明らかにすることは、人間と自然生態系との長期的な関係を理解するにあたってとても重要なことです。

しかし、今まで、製鉄のような特定の人間活動の形態が哺乳類の地理的分布に与えた影響についての研究はなされていませんでした。そこで本研究では、現代の哺乳類の地理的分布と、縄文時代以降の複数の時代区分や複数の土地利用形態の遺跡分布との関係を統計的に解析することにより、それらのうちどれが哺乳類の地理的分布にとって重要な要因であるか、またその影響が分類群ごとでどのように異なるかを明らかにしました。

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写真1.たたら製鉄の様子(『先大津阿川村山砂鉄洗取之図 鉄ヲフク図』、
東京大学 工学・情報理工学図書館 工3号館図書室 所蔵)。
ふいごを踏む人、鉄鉱石や木炭を見ることができる。

2. 方法

現代の哺乳類の地理的分布データとして、環境省「第5回自然環境保全基礎調査(1993-1998)」において作成された約10km×10kmのメッシュ(※1)単位の分布図を用いました。分布が確認されているメッシュが30以上の在来種31属を解析対象としました。また、動物の体サイズの情報を図鑑から収集しました。

遺跡の地理的分布データとして、独立行政法人国立文化財機構 奈良文化財研究所が整備・公開している「遺跡データベース(mokuren.nabunken.go.jp/Iseki/index.html【外部サイトへ接続します】)」を用いました。このデータベースは、40万件を超える全国の遺跡の緯度経度・時代区分等の情報を有しています。

本研究では、哺乳類の地理的分布に影響を与えた可能性がある過去の人間活動の変数として、定住が開始されたと考えられている縄文時代以降の6つの時代区分、縄文・弥生・古墳・古代(飛鳥~平安時代)・中世(鎌倉~室町・戦国時代)・近世(安土桃山~江戸時代)、における3つの遺跡種別(集落・製鉄・窯)を考えました(表1)。

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3. 結果と考察

十分な推定精度が確保できた29属のうち、21属で少なくとも1つの時代における製鉄の影響が検出され、約1300年前まで続いた古墳時代でも13属で統計学的に明瞭な影響が確認されました(図1)。特に、ジネズミ・コウモリ・モモンガ・ヤマネ等、小型の哺乳類では、近世と古墳時代の両方で製鉄による負の影響が確認されました。このことは、過去に製鉄が行われていた地域においては、現在においてもなお小型哺乳類の多様性が低いことを意味します。製陶についても複数の時代で小型哺乳類に対する明瞭な負の影響が検出されました。

一方で、ウサギ・キツネ・タヌキ・イノシシなどの中大型の哺乳類は小型哺乳類とは逆の傾向が見られ、近世に製鉄を行っていた地域では中大型哺乳類の多様性が現在も高いことがわかりました。全体としては、中大型哺乳類よりも小型哺乳類の方が過去の人間活動の変数の相対的な重要性が高いことが明らかになりました。
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図1.近世と古墳時代の製鉄による明瞭な影響が確認された属の数。
より上位の分類単位である「目」の単位で集計した。

製鉄や製陶は、その生産過程で多量の薪や炭を必要とし、周辺の山が禿山になることもありました。製鉄ではそれに加えて、鉱石の採掘に伴う表土の剥ぎ取りや土壌流出が生じたことが知られています。その結果、地域全体から原生林がほぼ失われ、二次林や草原が広がる景観が形成されました。

本研究で現在の哺乳類の地理的分布から検出された約1300年前の影響は、一連の大規模な土地改変により長期間にわたって森林植生の回復が阻害されたことや、地域個体群の絶滅後に残存個体群からの距離が遠すぎて再移入できなかったこと等に起因すると考えられます。

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写真2.長期間にわたる製鉄の負の影響が検出されたモモンガ
(撮影:帯広畜産大学 栁川久氏)

モモンガ(写真2)やヤマネ等の小型の哺乳類で負の影響がより強く検出されたことは、体サイズが小さい種は分散距離や生息可能な環境の幅が小さい、という動物一般に当てはまる傾向によって説明できると考えられます。生息可能な環境の幅の小ささの例として、モモンガや一部のコウモリが繁殖や休息に樹洞を必要とするため、大径木がある成熟した森林の存在が重要であることなどが挙げられます。

近世の製鉄が行われていた地域で出現確率がより高かったノウサギ・キツネ・タヌキ・イノシシなどの中大型の属は、里山に広く生息しているものです。これらは人間活動によって形成された草原・二次林・農地からなる不均一な景観にうまく適応し、勢力を拡大したものと考えられます。

地域によって異なる過去の人間活動は分類群によって異なる影響をもたらし、我が国における現在の哺乳類相の地域性を形作ったと考えられます。特に、中国山地や阿武隈山地等の製鉄が盛んにおこなわれた地域では、現在も里山に特徴的な種が多く生息すると考えられます。

さて今日、人間活動は地球に対して地質学的なレベルでの影響を与えうるほどに拡大し、「人新世」という新たな地質年代区分が提案されるに至っています。日本における製鉄は輸入した鉄鉱石と化石燃料によるものにほぼ置き換わり、森林面積は拡大傾向にあるものの、今度は管理放棄などの自然に対する働きかけの縮小が生物多様性に対する脅威となっています。その一方で、海外では過剰な樹木利用や鉱石の採掘による生態系の劣化が現在進行形で進んでおり、グローバル化の時代において、このような国内外の対照的な傾向は表裏一体のものと言えます。

本研究の成果は、日本における哺乳類相の地域性の背後にある歴史の理解はもとより、人新世において生物多様性に長期的に回復不可能な影響を与えないような持続可能な社会づくりの方策を考えることにつながると考えられます。例えば、長期間回復困難な影響が想定される分類群を特定できれば、それが多様な場所では資源開発の優先順位を下げることや、開発の影響を緩和するための保護区を適切に設定するなどの方策を取ることが可能になると考えられます。

~以下略~


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[1] リンク: https://www.nies.go.jp/whatsnew/20190802/20190802.html

[2] リンク: https://www.hitachi-metals.co.jp/tatara/nnp020101.htm

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