- 生物史から、自然の摂理を読み解く - http://www.seibutsushi.net/blog -

海洋巨大ウイルスの生存戦略 ~全球規模の地理的分布とその特異性~

Posted By seibutusi On 2020年9月10日 @ 9:13 PM In ⑧科学ニュースより | No Comments

 「巨大ウイルスが持つ“免疫”の仕組みは、バクテリアのシステムに似ている」・・・
「こういった“生物的な”巨大ウイルスの活動を考えるともう、ウイルスを生き物の仲間に入れてあげてもいいんじゃないか と思いますね」
(神戸大学中屋敷教授)リンク [1]

海洋に生息する「巨大ウイルス」について、最近の調査研究により明らかになってきたポイント

・宿主生物に感染して海洋深部へ進出
・真核微生物を宿主として海洋地域ごとにコミュニティーを形成
・地球規模の物質循環に寄与している可能性

京都大学プレスリリース [2] より。

海洋巨大ウイルスの地理的分布を全球規模で解明
   ―海域による特異性が明らかに―

 

20200908122701 [3] 図 1.  本研究で推測された真核生物-巨大ウイルス群集間の相互作用  (左)  と、中深層への巨大ウイルスの輸送機構モデルの概略図 (右)。

1.背景

今世紀に入り、様々な環境から、粒子サイズとゲノム長で一部の単細胞生物を凌ぐほど大きなウイルスの発見が相次いでいます。冷却塔、池、温泉などから分離されたミミウイルス、パンドラウイルス、メドゥーサウイルスなどが代表するこうした「巨大ウイルス」は、生命の起源と進化に新たな謎をもたらし、構造生物学や進化学の観点から多くの研究が行われています。しかし、彼らが現在の地球上でどのような役割を担っているのか定かではありません。こうした生態学的理解には大規模な調査が必要です。

2.研究手法・成果

本研究では、国際海洋調査船タラ号により全球規模で採取した海水サンプル由来のメタゲノムデータを計算機により解析し、そこに存在する巨大ウイルスの系統を解析しました。その結果、巨大ウイルスの様々な系統がどの海域にも存在している ことが明らかになりました。また、巨大ウイルスの系統組成が、海域や大きさ(サイズ画分)により大きく異なる ことが分かりました。

特に、北極海では、巨大ウイルスはその多様性が低い一方、北極海固有の系統が多数見出されることが明らかになりました(図 2)。具体的には、北極海で観察された巨大ウイルスの 22%は他の海域では見つかりませんでした。北極海では現在、気候変動による生態系構造の変化が顕在化しており、今後巨大ウイルス群集がどのように環境変化に応答するのかに注目する必要があります。

20200908122737 [4]

図 2.  (左)  各海域で出現した巨大ウイルスの全系統数、固有の系統数、および海域間で共通に見られた系統の数。(右)  各海域におけるメタゲノムサンプル数と全出現系統数および固有系統数との関係。

また、太陽光が届く有光層(表層および亜表層クロロフィル極大層、深度 2 m~200 m)太陽光が届かない中深層(深度 200  m~1000  m)の比較でも、観察される巨大ウイルスの系統組成が顕著に異なりました。このような海域や深度による巨大ウイルスの系統分布の変動は、そこに生息する真核微生物  植物プランクトンや従属栄養原生生物)の分布と強く相関している ことを研究チームは発見しました(図 1)。

一方、不思議なことに、観察される巨大ウイルスの系統を全有光層サンプル対全中深層サンプルとで比較すると、中深層に観察される巨大ウイルスの系統はほぼ全て  99%)有光層にも存在している ことが分かりました  逆に、有光層で観察された系統の 71%が深層にも存在していました)。このことは、この二つの深度での巨大ウイルス組成が大きく異なることと対照的です。このことを説明するために、研究チームは表層と中深層で巨大ウイルスの組成を詳細に比較し、両深度での巨大ウイルス系統組成の類似度が例外的に高い場所があることを発見しました (図 3)。

さらに、こうした場所では、表層における植物プランクトンによる基礎生産(生物が二酸化炭素から有機物を生産すること)が高く、中深層で巨大ウイルスの多様性が上昇している ことまで突き止めました。研究チームは、このような現象が起こるのは、特定の海域 環境で巨大ウイルスが表層から沈降しているためであると考えています。つまり、海洋微生物生態系は有光層と中深層で一部繋がっており、個々の粒子では自重による沈降が不可能な巨大ウイルスは、真核生物に感染あるいは付着することで中深層へ輸送されている 可能性があります。

3.波及効果、今後の予定

これらの研究結果は、広い海洋において巨大ウイルスが様々な真核微生物を宿主として地域ごとにコミュニティーを形成している ことを示しています。一部の巨大ウイルスは植物プランクトンに感染することでその個体群を死滅させることがすでに報告されており、今回観察された巨大ウイルスの多様性と遍在性は、この死滅効果が全海洋の多様な生物群に及んでいることを示しています。

このことから、巨大ウイルスが真核微生物の局所的な群集動態や粒子沈降に影響を与え、その結果、地球規模の物質循環に寄与している可能性 が示唆されます。巨大ウイルスも含めてウイルス全体が海洋での物質循環にどのように関わっているのか、さらなる研究が期待されます。今回明らかになった巨大ウイルス地理分布は、そうした今後の研究の基盤になると期待されます。

 

(以上)

 


Article printed from 生物史から、自然の摂理を読み解く: http://www.seibutsushi.net/blog

URL to article: http://www.seibutsushi.net/blog/2020/09/6177.html

URLs in this post:

[1] リンク: http://www.seibutsushi.net/blog/2020/02/5351.html

[2] 京都大学プレスリリース: http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2020/documents/200908_1/01.pdf

[3] Image: http://www.seibutsushi.net/blog/wp-content/uploads/2020/09/20200908122701.png

[4] Image: http://www.seibutsushi.net/blog/wp-content/uploads/2020/09/20200908122737.png

Copyright © 2014 生物史から、自然の摂理を読み解く. All rights reserved.