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共生細菌が宿主昆虫の幼虫と成虫で異なる機能を担う ~昆虫の変態、暮らし方の変化、体内微生物の関係~

Posted By seibutusi On 2020年9月3日 @ 10:14 PM In ⑧科学ニュースより | No Comments

生物と細菌との関係を場面ごとに切り取れば「与える」「助ける」「殺す」「無関係」などさまざまで、なかには環境によって有害から有益へと変化するものもあるが、その多様な関係を「共生」という概念のもとに位置づけてゆくことで、自然界の仕組みを体系的に読み解いてゆくことができる。リンク [1]

昆虫と細菌の様々な共生関係。今回は、同じ共生細菌が宿主昆虫の幼虫と成虫で異なる機能を担う 例を見ていきます。

 

産業技術総合研究所プレスリリース [2] より。

共生細菌が宿主昆虫の幼虫と成虫で異なる機能を担う
   -昆虫の変態、暮らし方の変化、体内微生物の関係を解明-

ポイント

•水草を餌とする特異な生態のネクイハムシ類の共生細菌のゲノムと機能を解明
•水中で根から汁を吸う幼虫には栄養素を供給、陸上で葉を食べる成虫では酵素で消化を助ける
•昆虫の変態に伴う暮らし方の変化に体内の共生細菌がどのように関わるかを解明

概要

ドイツ ヨハネスグーテンベルク大学、マックスプランク化学生態学研究所、ハンブルク大学は、国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 石村 和彦】(以下「産総研」という)生物プロセス研究部門【研究部門長 鈴木 馨】深津 武馬 首席研究員、生物共生進化機構研究グループ 福森 香代子 元日本学術振興会特別研究員(現 国立環境研究所 博士研究員)と協力して、湿地に生息し、幼虫は水中で植物の根から汁を吸い、成虫は陸上で葉を食べるという特異な生態をもつネクイハムシ類の消化管やマルピーギ管にいる共生細菌マクロプレイコーラのゲノム解読と機能解析を行った。その結果、多くの遺伝子を失って著しく小さくなった共生細菌ゲノムの機能は、植物の汁に不足しているタンパク質の合成に必要な必須アミノ酸などの栄養素供給と、ハムシ自身は持っておらず植物の細胞壁の消化に必要なペクチン分解酵素の生産に特殊化していることを解明した。

fig [3]

キアシネクイハムシの成虫(左)と幼虫(右)

今回、1種類の共生細菌が同じ宿主昆虫の幼虫と成虫で全く異なる機能を果たしうることを初めて明らかにした。共生進化の過程を理解するうえで興味深い新知見であるとともに、ネクイハムシ類の中には、稲やレンコンを加害するイネネクイハムシのような害虫が含まれることから、共生細菌を標的とした新たな害虫防除法の開発につながる可能性も期待される。

研究の社会的背景

微生物の高度な生物機能の理解や利用は、バイオテクノロジーなどさまざまな形で人間社会に役立っている。近年、農業害虫や衛生害虫の蔓延や病害に体内微生物が重要な役割を果たしていることや、人類の健康や疾病に腸内微生物が大きく影響することが判明し、共生微生物の重要性が基礎的、応用的、医学的に一段と大きな注目を集めるようになってきた。

昆虫類は地球上の生物多様性を代表するグループであり、多くの害虫種や有用種を含み、人間社会にも重要な関わりがある。このような昆虫類の多様性の基盤の1つとなっているのが、卵、幼虫、蛹、成虫を経る「変態」である。例えば、チョウやガの幼虫は植物の葉を食べ、成虫は花の蜜や樹液を吸うなど、同じ種であるにも関わらず、発生段階に応じて異なる食物や環境を利用できる。さまざまな昆虫類で共生微生物が重要な働きをしていることは知られていたが、共生微生物と昆虫の変態との関わりについてはよくわかっていなかった。

(中略)

研究の内容

ネクイハムシ類は湿地にみられる体長5-12 mmほどの小さな甲虫で、幼虫は水中に生息する(図1)。幼虫の尾端に1対の大きなかぎ爪があり、水草の根に差し込んで体を固定し、口から植物の根の汁を吸う(図2A, B)。消化管の前方を取り巻くように共生器官がある(図2C, D)。成虫になると、本来は排出器官であるマルピーギ管のうち2本が発達し、共生器官として機能する(図3A)。共生細菌に特異的なプローブを用いた蛍光in situハイブリダイゼーション法により、幼虫の消化管前部の共生器官と、雌成虫の肥大したマルピーギ管に共生細菌が局在することを確認した(図2E, F;図3B, C)。

fig2 [4]

図2 キアシネクイハムシ幼虫の体内構造と共生細菌の局在
(A)外観背側。(B)外観腹側。(C)内部器官背側。かぎ爪の基部から太い気管が全身にのびる。(D)内部器官腹側。消化管前部に共生器官が見える。(E)摘出した消化管における共生細菌の特異的検出。共生器官への局在がわかる。(F)摘出した共生器官における共生細菌とDNAの可視化。赤色が共生細菌、青色が核DNA。

fig3 [5]

図3 キアシネクイハムシ雌成虫の体内構造と共生細菌の局在
(A)摘出内部器官。マルピーギ管のうち2本が着色、発達している。(B)摘出内部器官における共生細菌の特異的検出。肥大したマルピーギ管に局在する。(C)マルピーギ管内の共生細菌の可視化。赤色が共生細菌、青色が核DNA。細胞内のみならず管腔内にも共生細菌が充満している。

(中略)

これらの結果から、ネクイハムシ類の共生細菌はゲノムが大幅に縮小し、必須アミノ酸などの栄養素合成と、ペクチン分解酵素の生産という、2つの機能に特殊化していることが明らかになった。植物の汁のみを吸う幼虫では欠乏しているタンパク質の合成に必要な必須アミノ酸を、植物の葉を食べる成虫では細胞壁の消化に必要なペクチン分解酵素を、それぞれ共生細菌が供給していると考えられる(図5)。

 

fig5 [6]

図5 ネクイハムシ幼虫と成虫における共生細菌の異なる機能

昆虫が幼虫から成虫に変態する過程では、形態のみならず生理や生態も大きく変化する。今回、1種類の共生細菌が同じ宿主昆虫の幼虫と成虫で全く異なる生理機能を担うことが示された。共生進化の過程で多くの遺伝子を失い、ゲノム縮小していくなかで、幼虫および成虫段階それぞれで必須な機能遺伝子が維持されてきたものと推定される。昆虫の変態に伴う暮らし方の変化に共生細菌がどのように関わりうるかを解明した成果であり、共生進化の過程を理解するうえで興味深い。

(以下略)

 


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[2] 産業技術総合研究所プレスリリース : https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2020/pr20200611/pr20200611.html

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