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【実現塾】哺乳類の性闘争本能・・・強すぎる性闘争本能が作り出す限界や矛盾を乗り越えての進化

Microsoft Word - ⑤191102哺乳類の性闘争本能-01 [1] 哺乳類とは、乳を飲ませて育てる動物の総称であるが、脊椎動物に分類される哺乳綱と呼ばれる動物のことを指す。哺乳類に属する動物の種の数は、おおむね4,300から4,600ほどであり、脊索動物門の約10%、広義の動物界の約0.4%程度で、比率としては極めて小さい。

また、ヒトは哺乳綱の中の霊長目ヒト科ヒト属に分類されるので、哺乳類であり、その比率はさらに低くなる。また、ヒトやサルも含めて上記写真のような動物はすべて哺乳類である。よって、哺乳類に共通する自然の摂理を読み解くことは、今後人類がどこに向かうのかを考える上での一つの基盤となる。

そして、前回両生類→爬虫類・哺乳類への進化・・・卵生から胎生への進化を捉え直す [2]で、酸素濃度低下で子を産み落とすまで体内で酸素を供給し続ける胎生機能と、生み落とした後も栄養を与えながら子育てを行う授乳機能を獲得し、その後、大型爬虫類から逃げて、寒冷地に向かい恒温機能をも獲得した哺乳類の進化を見てきた。

このように、哺乳類以外の、卵を産み落とすだけの動物に比べ、はるかに確実に子孫を残す機能を獲得した哺乳類だが、それゆえの弱点があった。それは、適者だけ生き残ることによって種としてより秀れた適応を実現してゆく淘汰適応の原理が働き難くなることである。

この弱点を乗り越えるために、哺乳類がとった方法は、性闘争本能の強化であった。 両生類→爬虫類・哺乳類への進化・・・卵生から胎生への進化を捉え直す [2]の進化史を、哺乳類の生闘争本能という切り口で追求したものが以下の実現論前史ハ.哺乳類(原モグラ)時代の性闘争本能 [3]である。

☆胎内保育と産後保護の機能獲得により淘汰適応原理が働き難くなった初期哺乳類  

現存する哺乳類の大部分は(もちろんサル・人類も含めて)、原モグラから枝分かれした。現在の哺乳類の祖先である原モグラは約1億年前に登場するが、その時代は大型爬虫類の天下であり、原モグラは夜行性で、林床や土中に隠れ棲み、そこからチョロチョロ出撃するという、密猟捕食の動物であった(従って、現在でも多くの哺乳類は色盲のままである)。

原モグラは、土中に隠れ棲むしかなかった弱者であり、それ故にいくつかの特徴的な本能を発達させている。中でも哺乳類の哺乳類たる最大の特徴は、弱者が種を維持する為の胎内保育機能(それは、危機ゆえに出来る限り早く多くの子を産むという、危機多産の本能を付帯している)である。しかし、卵産動物が一般に大量の卵を産み、その大部分が成体になるまでに外敵に喰われることによって淘汰適応を実現しているのに対して、胎内保育と産後保護の哺乳類には、適者だけ生き残ることによって種としてより秀れた適応を実現してゆく淘汰適応の原理が働き難くなる。

卵を産み落とすだけの動物に比べ、はるかに確実に子孫を残す機能を獲得した哺乳類ゆえの弱点といえる。もしこのままであれば、弱い個体ばかりになりその種は絶滅していく。

☆成体の淘汰を激化する必要から、性闘争=縄張り闘争の本能を著しく強化した哺乳類

そこで、淘汰過程が成体後に引き延ばされ、成体の淘汰を激化する必要から、哺乳類は性闘争=縄張り闘争の本能を著しく強化していった。実際、性闘争を強化した種の方が適応力が高くなるので、性闘争の弱い種は次第に駆逐されてゆく。かくして哺乳類は、性闘争を極端に激化させた動物と成っていった。モグラの場合、性闘争に敗け縄張りを獲得できなかった個体(=大半の個体)は、エサを確保できずに死んでゆく。 もちろん、性闘争=縄張り闘争の本能は、脊椎動物の前から殆どの動物に存在しているが、哺乳類は、この性闘争(=縄張り闘争)本能を淘汰適応の必要から極端に強化した動物である。

その場合、種を存続させる為には、闘争存在たるオスがより闘争性を強めると共に、メスたちの外側で外敵に対応した方が有利である。従って、とりわけオスの性闘争(=縄張り闘争)本能が著しく強化されることになる。現哺乳類の祖先と考えられているモグラの場合、メスも性闘争(=縄張り闘争)をするが、オスの闘争はより過激で、その行動圏はメスの3倍に及ぶ。従って、概ね3匹のメスの縄張りを包摂する形で1匹のオスの縄張りが形成される。これが、哺乳類に特徴的な首雄集中婚の原型である。 こうして、哺乳類のオス・メス関係を特徴づけるオスの性闘争の激しさと内雌外雄の摂理(本能)、および群れの全てのメスが首雄(勝者)に集中する首雄集中婚の婚姻様式(本能)が形成された。

このオスの性闘争の激しさと内雌外雄の摂理と首雄集中婚は、多くの哺乳類に見られる一般的様式であり、もちろんサル・人類もそれを踏襲している。(学者の中には、首雄集中婚を「ハーレム」と呼び、オスの天国であるかの様に表現している者がいるが、それは全く見当違いである。オスはメスよりも数倍も厳しく淘汰されるというのが事の本質であって、その帰結が首雄集中婚なのである。)

ここで、性闘争に敗け縄張りを獲得できなかった個体(=大半の個体)は、エサを確保できずに死んでゆくとあるが、強いオスが同類の弱いオスに死ぬまで闘いを挑むわけではない。性闘争は、闘争から逃げる、敗北のサインを出すなど、相手が敗北を認めた場合は、縄張りを出ていくだけで決まり、それ以殺し合うようなことはしない。これを敗従本能という。その結果、エサをとったり外敵から隠れたりする縄張りがなくなり、餓死するか外敵に食われて死んでいくということになる。同類が殺し合うのは人間だけである。

☆強すぎる性闘争本能が作り出す限界や矛盾を乗り越えて新たな可能性に収束することで、哺乳類やサル・人類は進化し続けて来た

この様に哺乳類は、淘汰適応の必要から性闘争の本能を極端に強化し、その性情動物質によって追従本能(いわゆる集団本能の中枢本能)を封鎖することによって、個間闘争を激化させ淘汰を促進するという淘汰促進態である。しかし、それはその様な大量淘汰態=進化促進態としてしか生き延びることができない弱者故の適応態であり、生命の根源本能たる集団本能を封鎖し、大多数の成体を打ち敗かし餓死させるこの極端に強い性闘争本能は、生き物全般から見て尋常ではない、かなり無理のある本能だとも言える。

だからこそ、同じ原モグラから出発して地上に繁殖の道を求めた肉食哺乳類や草食哺乳類は、進化するにつれて親和本能を強化し、その親和物質(オキシトシン)によって性闘争本能を抑止することで追従本能を解除し、(尋常な)集団動物と成っていったのであろう。このことは、大量淘汰の為に集団本能をも封鎖する異常に強い性闘争本能が、もともと地上での尋常な適応には適わしくないor 問題を孕んだ本能であることを示している。 しかし、現哺乳類やサル・人類の性情動の強さから見て、やはりこの強すぎる性闘争本能を進化の武器として残し、それが作り出す限界や矛盾を乗り越えて新たな可能性に収束する(例えば親和本能を強化する)ことによって、哺乳類やサル・人類は進化し続けて来たのだと考えるべきであろう。

現モグラ段階では、オスもメスも縄張りを持っており、それぞれ性闘争も縄張り闘争も担うので、基本的に常時同居の集団はないが、性の引力により別々に存在するオスとメス縄張りが重ったことで、子孫を残すオスメスの集団関係は出来ている。

それが、原猿になってくるとボスオスに対して複数のメスと子供が同居する、親和と性の引力を核とするオスメス集団ができる。この構造を、踏襲してその外側にオスの闘争集団をつくったのが真猿である。それ以降の類人猿も人類も、親和と性の引力が核になった、オスメス関係が基底にあり、その上層部に闘争集団が形成されている。それは、生殖のための闘争という生命摂理にもかなっている。

このように、強すぎる性闘争本能を進化の武器として残し、それが作り出す限界や矛盾を乗り越えて新たな可能性に収束することによって、進化し続けて来たサル・類人猿の集団形成の基底部にも、親和や性の引力があることが解る。

そこから進化した人類も当然それを踏襲している。これは、本能や共認回路の深い位相での雄雌の意識が外圧適応的な婚姻様式を決定づけているとみることが出来る。 そういう視点からは、現代の人類の婚姻様式は、観念のみの婚姻制度に成り下がっており、自然の摂理に合致していない可能性が高い。その結果が、現代の、セックスレス、子育機能の喪失などの現象に現れているのではないか?

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