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植物と細菌の密接な共生関係 ~植物にヨーグルトを食べさせる?~

古代人が「精霊信仰≒自然の奥に精霊の存在を見る」に可能性を見出したのは、地球上のすべて(微生物、植物、そして自然)が人類と共生関係にあると当然の様に理解していたからと言える。リンク [1]

植物にも細菌との共生関係があります。そして、なんと、ヒトの腸内細菌のように「善玉菌」「悪玉菌」と呼ばれる関係が数多くあるようです。このような共生関係を活かし、植物にとっての「善玉菌」を与えて健康的に育てよう、という試みが進められています。

ポスドク総研(京大研究員の記事) [2] より。

植物にヨーグルトを食べさせる?〜植物・細菌共生系の研究とは〜

(前略)

植物も細菌と共生している

植物もまた、細菌と密接な共生関係を持っています。古くから知られているものに、マメ科植物と根粒菌の共生があります。根粒菌という植物の根に共生する細菌が、空気中の窒素を取り込み、養分へと変えてくれるおかげで、マメ科植物は肥料の少ない痩せた土地でも生育することが可能になります。水田や畑に、食用ではないレンゲソウやクローバー(どちらもマメ科)を植えることがあるのは、根粒菌の力で土の養分を増やせる ためなのです。

空気の約8割を占める窒素を原料にして人工的に肥料を作る ことができるのですが、大気圧の数百倍の圧力をかけながら数百℃の高温にする必要があり、石油燃料の大量消費や、二酸化炭素の膨大な放出など、問題点が多くあります。約1世紀前に確立されたこの手法(ハーバー・ボッシュ法と呼ばれる)は、食物の大量生産を可能にしたことで世界の人口増加を支え、ノーベル賞にも輝いた歴史上重要な発見なのですが、決して環境にやさしいとは言えません。しかも、製造された肥料を農業地帯へ届けるにはさらにコストがかかります。

より効率よく窒素化合物を生産する方法は、食料供給へ直接結びついているだけに、現在でも盛んに研究されている分野です。しかし、ハーバー・ボッシュ法に代わるような量を低コストで確保できるには至っていません。一方で根粒菌は、このようにヒトが多大な費用やエネルギーをかけて生産している肥料を、通常の大気圧・常温下で作ってしまう上、その場で宿主のマメ科植物へ供給することができます。空気中の窒素を植物の肥料へと変える技術において、ヒトは未だ細菌の能力に及んでいないのです。

植物に「ヨーグルトを食べさせる」

ヒトはまた、食用としてのみでなく、鑑賞用としても植物を栽培し、花や葉を愛でて楽しみます。今年は奇しくも各地で卒業式・入学式・その他式典が相次いで中止される情勢のもと、例年よりも花を買う機会がめっきり減っていますが、鮮やかな植物は部屋だけでなくヒトの心も明るく彩ります。

そんな観賞用植物を長持ちさせる効果を持つ細菌が、2012年に報告されました[4]。切り花(この研究ではカーネーション)を水につけて飾っておくと、だんだん萎れて枯れてしまいますが、ある種の細菌を水に入れておくと、入れていない水に比べて長期間生き生きとした状態を保つことができました。詳しく調べると、切り花に共生した細菌が植物の老化を抑え、美しさを長く保つのを助けていたのです。

近年、上記の例のようにマメ科以外の植物にも様々な細菌が共生することが分かってきており、植物の成長を促進したり、老化を防ぐ細菌もいれば、逆に成長を阻害する細菌も見つかっています[5][6]。まさにヒトが腸内細菌を「善玉菌」「悪玉菌」と呼んでいるような関係が、植物と細菌との間にも数多くあったのです。

このような共生関係を活かし、植物にとっての「善玉菌」を与えて健康的に育てよう、言ってみれば「植物にヨーグルトを食べさせよう」という試みが、先の切り花の例をふくめ、主に農産業分野を中心に進められています[7]。それら細菌はもともと植物が生育している環境中から選ぶので、農薬その他の人工的な物質を使うより環境への影響が少ないと考えられます。

しかし個々の共生の組み合せについて、「その細菌がどうして植物の成長を促進できるのか?」など、細かい仕組みの部分がすべて分かっているわけではなく、「他の細菌とのバランスを考えなくてよいのか?」という側面も合わせて、まだまだ研究される余地が十分残されてます。

ウキクサと細菌の共生系

私は現在、ウキクサという植物を使って、細菌・植物共生系の研究をしています。ウキクサは水田などでよく見かける、プカプカと浮かぶ小さな植物です。一般的な植物に比べ、水面上を広がりながら増えていくので、成長の記録を取りやすい利点があります。また、タンパク質を多く含むなど、新規の食材としても期待できます。タイなど、一部の国・地域ではミジンコウキクサという種類がすでに食用とされています。

所属する研究室ではウキクサや他の植物、光合成細菌などを使い、植物が持つ時計の仕組みが主に研究されています。植物は単純に、光の有無を感知しているだけではなく、自分の細胞内に時計を持っており、それによってはじめて、たとえば「朝5時なのに明るい」、すなわち「日が長くなった」という季節(日長)変化の情報を得られるのです。

細菌・植物共生系の研究には コウキクサという種類のウキクサを使い、成長促進効果の測定と、遺伝子発現の比較をおこなっています。共生細菌「あり」と「無し」でウキクサを育ててみると、共生菌「あり」の方が確かにぐんぐん育ちます(図1)[8]。その時、発現している(使われている)遺伝子をそれぞれ調べ、たとえば鉄分に関する遺伝子の発現量(使われている量)が変わっていれば、「共生細菌は鉄分の吸収を助けているのかも?」と見当を付け、さらなる研究を進めていくわけです。

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図1 共生細菌「無し(左)」と「あり(右)」で同じ日数育てたウキクサ。

共生関係の詳細が分かれば、より効率のよい農業利用が期待できるのはもちろんですが、「ぐんぐん育つ」という目に見える変化と、「遺伝子発現」という目には見えない変化が結びついて理解できた時の「なるほど!」という新鮮なワクワク感もまた、研究の大きな醍醐味となっています。

以上のように、細菌はヒトと直接共生しているだけでなく、植物とも密接な共生関係を築いており、それぞれが活発な研究分野として注目されています。1/1000 mm ほどの小さな生き物ですが、我々ヒトの健康や生活にとって、決して無視できない大きな存在なのです。

(以上)

[4] [5] [6]